第24話 アロウン砦からの増援要請
ーーーーー〈義勇軍地下医務室〉ーーーー
室内に充満する薬品の匂い、設置される医務機具。10台の医務ベットが縦二列に並び、医務室独自の雰囲気を漂わせる。
最前線であるアロウン砦の防衛戦、もしくは別の任務で傷ついた兵士が、基地の医務室に送られる。
今のところ、3名の負傷兵を確認。2人は傷を手当てし、静かに療養。1人はベットにうずくまり、起きない。なお、肉体的ダメージより、精神的ダメージの方が、厄介だ。何故なら精神的にダメージを負った奴は、心が壊れ、退役後の日常生活がマトモに送れる保障がない。
(・・・・・・)
部屋の端。医務室のベットにてゼブラは仰向けで倒れていた。
先程、ムジカの適性検査と言う名の戦いにより、力を出し過ぎて、疲れている。
(起きないな…)
隣で看病するユリアは眠るゼブラを見下ろし、頬を指先でツンツンと突いている。
しかし、指で突つかれているゼブラは、イビキを響かせ、起きない。
ガチャ…
医務室のドアを開き、入ってきたのはムジカ。
「アイツは起きたか?」
「いえ…」
ムジカの言葉に、ユリアは首を横に振る。
「まだ、起きないのかコイツは…」
ゼブラが寝ているベットにムジカは呆れた表情で歩み寄り、首を横に傾ける。
「何度か体を揺すっているんですけど…」
と、ユリアは口を開く。
「色々、打合せがあるから、あまり時間がない…。少し洗面台を借りるぞ…」
ムジカは洗面台に向かい、歩み寄る。
「ムジカさん、一体何を?…」
ユリアは尋ねる。
「それはナイショだ…」
ムジカは言った。
そして、ムジカはポケットから化粧道具を取りだし、鼻歌を奏でる。今から、アレの変身に取りかかるのである。
もしかして…。と、ユリアは嫌な予感。
すぐに化粧を終え、ムジカはユリアに振り向く。
「さぁ、始めるわよ…」
強烈なインパクトで現れ、ゼブラの所に歩み寄るオカマのムジカ…。
手のこった化粧、恐ろしい位のパッチリした瞳。
昼間には、キツいキャラだ…。
「ムッ…。ムジカさん、何を?」
オカマのムジカに目を向け、引き気味でユリアは尋ねる。
「サービスタイムよ…」
ユリアを押し退け、オカマのムジカはベットで寝ているゼブラの上体ギシッと音を響かせ、乗る。
(まさか…)
ユリアは変に察した。
「さぁ、行くわよーーーー」
オカマのムジカは強烈なインパクトでゼブラに顔を近づかせる。
十センチ、五センチと、徐々にインパクトな顔を近づかせる…。すると。
「ーーーーーーーーーーーッ!!」
近づいてくる危ない気配に察し、ゼブラは目を覚ますと同時に、室内に響き渡る程、大絶叫。
そしてジタバタともがく…。
「この野郎、大人しくしろっ!!、睡眠状態における潜在意識かオイッ?。すぐに起こしてやるよーーーー!!」
ゼブラの両肩をガシッと押さえ、さらに顔を近づかせるオカマのムジカ。
口調が男に戻っており、インパクトが増した。
「怖い怖いっ、顔が怖いっ。もう起きてる、もう起きてるよっ、この通りっ!!」
近づいてくるオカマのムジカの顔面を両手で押さえ、絶叫し、必死に伝えるゼブラ。
手を止めれば、大事な唇をこんなオッサンに奪われ、下手をすれば掘られる。
生憎、先客がいる。だから純潔は渡せない。
ーーー数分後。
「はぁ…」
ベットに座り、ゼブラは深い溜め息を吐く。
目覚めに何てモノを見てしまったんだ…。と、落ち込むのである。
「大丈夫、顔色悪いですよ?。もう少し横になりますか?」
ベットの横のイスに腰かけるユリアは心配な様子で尋ねる。
「遠慮しておく…」
顔をうつ向かせ、ゼブラはブルーな気分で答える。頭の中、オカマのムジカの顔が未だにグルグルと映り込み、離れない…。
「また、倒れた時、やってやるよ…」
化粧を落とし、元のムジカは自慢気で言った。
「結構ですっ!!。フェイトさんにやって下さいっ!!」
ゼブラは言った。
今頃、名前が出てきたフェイトは(誰か噂してるな…)と、クシャミをしているだろう。
ちなみに、ムジカがゼブラに使った技は、アレは意識不明の患者を起こす為の伝説の秘術である。
一見、ダイナミックな技だが、戦場や病気、事故などで意識を失った病人や兵士を、高い確率で目覚めさせている。
しかし、ムジカの技により目覚めた経験を持つ兵士は、大抵、インパクトの怖さで泣いている…。
「こちら司令室、ムジカとゼブラ、ムサシの3人は司令室に集合してくれ。繰り返す、ムジカ、ゼブラ、ムサシの3人は至急、司令室に集合。以上」
基地内に、ロベルト司令の声の放送が響き渡る。
ーーーーー〈司令室〉ーーーー
ムジカとゼブラ、ムサシの3人はロベルト司令の机の前に立ち、重い様子で沈黙。
ロベルト司令は真剣な様子で重い口を開く。
「先程、アロウン砦から増援要請が入った。魔界軍との戦況が激化し、事を争う程、酷い状況だ。このままだと砦が陥落し、突破されるのも時間の問題だ…。君達に、アロウン砦に行ってもらいたい…」
「了解した…」
ロベルト司令の指令に、ムジカは敬礼。
「了解であります」
ムサシは真剣な瞳で敬礼。
(いよいよ…。戦いか…)
ロベルト司令の言葉に、ゼブラは緊張した様子で敬礼。
「アロウン砦に初めて赴くのが二人いるからな…。とりあえず、我が軍の状勢はこうなっている」
ロベルト司令は机の上に、地下世界アストラルの地図を敷き広げる。
戦場に初めて赴くのはゼブラとムサシの二人の事を表している…。
二人が司令室に呼ばれた理由、ロベルト司令自身は二人に期待しているからだ。
ムジカとゼブラ、ムサシの3人は地図に目を向ける。
「敵である魔界軍はエボルド森林を拠点にし、ダリウス平原から進軍し、我が軍と戦争をしている。しかし、ダリウス平原の中間地点から展開する我が軍の防衛ラインが魔界軍に突破され、戦況がマズイ事になった…。まず第一の目的は、防衛ラインの奪取。戦線の指揮は、ムジカ、お前に任せたい…」
「了解した…」
ロベルト司令の重大な命令に、ムジカは敬礼。
そして思い浮かべていた。死んだ上官、部下、同期の兵士。皆、アロウン砦の防衛戦で命を落とし、消えていった。決まって自分は生き残った…。
気がつけば義勇軍の戦線指揮長。死んだ者達の思いを胸に、覚悟を瞳の色で表す…。
「足を引っ張るなよ、セクハラ剣士…」
ムサシは軽蔑の様子を浮かべ、横目でボソッと呟くのだった。
「まだ、根に持ってるのか?。あれは事故だ、事故…」
ゼブラは面倒臭い様子。
「セクハラ剣士?…」
ロベルト司令は興味深い様子でゼブラとムサシに目を向ける。
「何でも無いですよ。はい…」
と、ゼブラは苦笑いしながら、誤魔化す。
話すと色々と面倒臭いからだ…。
「兵士を用意するのに時間が少しかかる。出発は明日の未明、それまで休むといい…」
ロベルト司令は言った。
皆は司令室を退室。明日の時間まで、皆はそれぞれの時間を過ごすのである…。




