第23話 ヴァンin地下世界アストラル
二本角の鋭眼ドクロ。身長は二メートル。
全身には黒の雷圧を漂わせ、邪悪な黒の聖堂ローブを着用し、胸部には黒曜の甲冑。
両肩には尖骨のショルダーアーマー、広背には黒炎の巨翼。
両腕には黒曜のガントレット、右手には黒曜の大剣。腰部には紫の腰巻き、両足には黒銀のブーツ。
鬼神化・重力の魔王。
ヴァンの鬼神化であり、属性魔力は重力だ。
(コイツは…)
一辺の兵士達は魔力の高さに驚き、言葉が見つからない。
「どうした?。処刑するんじゃ無かったのか?…」
鬼神化・重力の魔王は黒大剣を片手で構え、一辺の兵士達に突きつける。
「怯むなっ!!。イケェーーーーっ!!」
1人の兵士の掛け声と同時に、全て兵士達は一斉に鬼神化・重力の魔王に斬りかかる。
(無能共が…。皆、思い出にしてやる…)
鬼神化・重力の魔王は飛行能力を使用し、十メートルの高さまで浮き上がり、黒大剣を片手に掲げ、唱える。
「ーーーーーッ!!」
広地全域に強い重圧が発生。兵士達は苦悶の表情を浮かばせ、上体を屈ませる。
「ハハハハハッ!!。圧倒的な力にひれ伏せて、いい光景だっ!!」
鬼神化・重力の魔王は黒の雷圧を漂わせ、詠唱。
兵士達は必死に動こうとするが、鬼神化・重力の魔王が術を唱える際、発生する重力が全身にのし掛かり、動けない…。
まるで、身体を上から重い圧力を押さえつけられているような感覚だ。
「重力の雨撃っ!!」
鬼神化・重力の魔王は空域に無数の詠唱陣を現出させ、唱える。
地上の兵士達に狙いを定め、無数の詠唱陣から黒い光線を一斉放射。
黒い光線の属性は重力、闇属性を圧縮させた光線であり、威力は属性の重力でアップしている。
「ーーーーーーッ!!」
地上に降り注ぐ重力の雨撃。広地の兵士達は逃げ惑い、無数の黒い光線に貫かれ、無残に爆滅。
十体、二十体、三十体と、魔界軍の兵士達は次々と爆滅し、叫び声を出すヒマさえ与えられずまま、消えていく…。そして…。
鬼神化・重力の魔王は地上に降り立ち、ヴァンら鬼神化を解く。
広地一辺は凄まじい戦跡。一辺の地面は破壊され、地面の裂け目から黒い炎、黒煙が不吉に舞い上がる…。一辺に転がる死体、原形を留めてない者、焦げて固まった焼死体、中途半端な肉片が散らばり、虚勢を張ってた兵士達は全滅。
「ーーーーーーッ!!」
戦跡の光景を眺めるヴァンは突然苦しみ、頭を片手で押さえる。頭の中、トラウマとなって思い出すのは破壊され、黒く燃える建物、一辺に転がるの死体。そして、両手で抱える1人の女性…。
すると、一辺に風が吹き付け、燃える黒い炎が消える…。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
炎が消えたと同時に、ヴァンは冷や汗を額から流し、深呼吸。何とか気持ちを落ち着かせる。
ーーーー〈森林道〉ーーーー
ヴァンは片手に果実を手に、ムシャムシャと食いながら森林道を歩いていた。
地下世界アストラルは温暖な為、森林道の辺りには果実の樹が生えている。実は固く、そんなに美味くないが、無いよりマシである。
数キロ先にそびえ立ち、森林全体を見下ろす謎の巨塔。塔の周囲をカラスの群れが飛び回り、不気味な雰囲気を漂わせる。
(あの塔は一体…)
遠くの先の巨塔を眺めるヴァン。
ーーーーー〈巨塔の頂上〉ーーーー
屋内は広い円形ホールだ。青銅造りの地面、中央には石の台座が設置され、1メートル程の大きさを誇る水晶が浮遊している。
(…………)
1人の男性が水晶の前に立っていた。
表情はターバンでグルグル巻きに隠し、瞳を覗かせる。身長は180センチ、広背には漆黒のマント。 胸部には漆黒の甲冑を装備し、下は灰色のゆったりズボン、足にブーツ。
名前は、ローズ・ハットン、年齢は40代後半。
「ローズ・ハットン様、報告します」
水晶の中、魔界軍の兵士の残像が浮かび上がる。
「何用だ?」
ローズ・ハットンは口を開く。
「侵入者です。エボルド森林の監察任務をしていた兵士達が、何者かによる襲撃を受けたとの模様です…」
兵士は報告。
「観察していた兵士達は?」
「全滅しました…。逃亡兵の報告によると、青いコートを着た剣士で、異形に変身する能力を持つ者でございます」
「わかった。特別部隊を森林域に手配する…。それより、侵攻部隊の準備は出来ているか?」
ローズ・ハットンは尋ねる。
「はい。隊列の整え次第、すぐに進軍出来ます」
兵士は敬礼。
「よし、心して掛かれ…」
「はいっ」
と、水晶に映る兵士の残像は消えた。
(おかしいなぁ…。いくら義勇軍でも、前線である平原を超えて、単独で森林に辿り着くのは不可能なハズだ…。しかし、義勇軍にはムジカと言う実力者がいる。もし、森林に来たのが奴だとしたら…)
ローズ・ハットンは指で顎を撫で、考える。
魔界軍にとって、ムジカは難敵だ…。奴を倒す為、あらゆる策を実行したが、失敗した。
ムジカの強さは、魔界軍がよく知っている。
静まり返る円形ホール。台座の水晶が屋内を照らし、虚しい雰囲気だ。
ローズ・ハットンは、ポケットからペンダントを取りだし、詠唱。
「アンドラスに契約されし、魔の僕達よ。いざ、姿を見せよっ!!」
ローズ・ハットンの詠唱に、ペンダントは緑色に輝きを放ち、屋内を照らす。
「ーーーーーーッ!!」
地面からは数十メートルの白銀の詠唱陣が描かれ、六体の魔族が詠唱陣から召喚される。
召喚の際、黒い粒子煙が屋内を充満させ、人とは違う異様な雰囲気を漂わせる。
六体の魔族は黒い光渦を巻き、ローズ・ハットンでは見えない。
「我々を呼んで頂き、誠にありがとうございます。我々の戦闘状態は、いつでも万全です…」
黒い光渦の中、1人の魔族は口を開く。
「それは心強い。では、任務の説明をする。外の森林から敵の手強い隠密が潜んでいると報告が入った。普通の兵士では太刀打ち出来ない為、お前達を呼んだのだ…」
ローズ・ハットンは言った。
「1人の敵を始末する為だけに、我々を呼んだのですか?」
1人の魔族は不満に尋ねる。
「そうだ。特徴は青いコートを着た剣士だ。奴を始末する為。お前達を呼んだのだ…」
ローズ・ハットンは答えた。
魔族達は不満な様子を漂わせ、考える…。
「どうした?」
ローズ・ハットンは尋ねる。
「…わかりました。おまかせください」
魔族の1人は言った。
納得出来ないが、仕方がない…。主の依頼なら断る訳にはいかない。
そして六体の魔族達は黒い光渦に飲み込まれ、円形ホールから消失した。
ーーー〈巨塔の出入り口の門〉ーーーー
巨塔の外、一辺は森林が生い茂り、地面から地底雲の蒸気が充満し、蒸し暑い。
「ーーーーーーッ!!」
魔族を取り巻く黒い光渦が現れ、すぐに消失。
光渦から出てきたのは五体の魔族。見えない魔族の正体を姿を現し、円形ホールから空間転移した。
「まったく、がっかりなモノです。私達を呼び出した訳が、たかが一匹の人間の始末、使い方を間違っている。あの、ローズ・ハットンとか言う奴、チカラの使い方が素人ですな…」
蛇の槍を持った魔族はグチる。
全身はダークな体毛、額には触角、長い耳。顔面は蒼白、窪んだ両頬。
鋭く尖った細長い獣眼、裂けた口。両腕、両脚は細く、体形は前屈みだ。姿は、まるで絵に描いたような悪魔だ。名前はエリゴール。
「奴はあの、程度の理由で我々を動かせると思っている。いくら頭が悪くても、限度がある。出世してアンドラス様に力を与えてもらったが、頭の悪さは変わらないな…」
もう1人の魔族は言った。
黒の三角帽子、包帯でグルグルに巻いた顔。
両眼には黒の丸メガネ。黒の礼服スーツ、ネクタイ。下はスラリとしたズボン。
身長は172センチ、常にポケットに手に入れている。名前はダンタリオン。
「僕は遠慮しておくよ。1人のターゲットを始末するのは1人ですればいいんだよ…」
セアルは言う。
身長は170センチ。金髪、青い瞳。額には宝石が埋め込まれ、上半身は裸。
広背には白の翼が生え、白タオルで腰を巻き、足にはサンダルを履いている。
見た目は美形男子の魔界人、しかし彼は正真正銘の魔族だ。
「やってらんねぇ…」
不機嫌、イライラした様子で口を開くのはガープ。銀の装飾を身に付けた軍服コート。
身長は二メートル、頭は茶髪のドレッドヘアー。太い眉毛、瞳の色は赤く、好戦的で鋭い…。
ちなみに、奴が一番、強い…。
「どうしましたか、ガープ様?」
エリゴールは尋ねる。
「俺はあんな奴の頼みは受けねぇ…。大人数でバカバカしい…」
ガープは剣を抜く。
「何をしている?」
セアルは言う。
「俺はちょっくら戦場に行ってくる。前に来た平原の方向から戦いの士気が感じるのでな…。例の任務はお前らで何とかしておいてくれ…」
と、ガープは言い残し、何処かに立ち去る。
「オイ、ガ…」
セアルは呼び止めようとした途端、右側からエリゴールに肩を叩かれ、止められる。
「今、ガープ様は大変、機嫌が悪い。下手をすれば、ここにいる皆が殺される。行かせておきましょう…」
「…わかった」
エリゴールの言葉に、セアルは仕方なく納得。
ガープの強さは、皆がよく知っている。彼を止められる者はいない。
「どうする?。全員で、例のターゲットを探しに行くか?」
バアルは言った。
身長は170センチ。スキンヘッド、肌の色は紫。瞳は白、額にはルビーが埋め込まれ、顔はゴツゴツ。上半身は裸、下は朱色のゆったりしたズボン、厚底の革靴。
「皆で行くのはマズイ。塔の見張り、捜索の二組に分けよう。まずは…」
エリゴールは辺りを見回す。
いるのはバアル、セアル、ダンタリオン。エリゴールを入れて四人。
「1人足りないな…。マリーはどうした?」
セアルは言う。
「塔から転移する時、誤って別の場所に飛ばされたんだろう…。誰かが合流した際、役割を報告すればいいだろう…」
バアルは提案。
「ガープ様といい、マリーといい、気ままな奴らだ。とりあえず、私とバアルは捜索班。セアルとダンタリオンは塔の周辺の警護だ」
エリゴールは皆に告げる。
エリゴールの号令に、皆はそれぞれの班に分かれ、場から離脱。力量に合わぬ任務だが、皆の心境は渋々である。
アンドラスとは、彼らのマスターであり、契約者である高等魔族だ。
果たして、この先、どうなるのだろう…。




