第19話 義勇軍の基地
門を潜り、中には演習グラウンドが広がる。
グラウンドは兵士の訓練光景が目に映っている。ランニングをする兵士。剣、槍を交え、実践訓練を行う兵士。あらゆる状況を想定した陣形訓練を行う兵士。
「相変わらず活気あるな…」
士気溢れる訓練の光景を見回し、ムジカは感心。
3人の視線の先には三階建ての軍事基地が設立され、金色の戦乙女が刺繍された軍旗が屋根上に立ち、パタパタと揺らしている。
ユーギガノスを胸に…。義勇軍の兵士は彼らの思想を胸に持ち、戦っている。
「用事だ。司令はいるか?」
出入り口の扉を見張る兵士に、ムジカは尋ねる。
見張りの兵士は「ハイ、ただいまっ」と、基地の屋内に入り、ムジカの用事を確認。
ーーーー〈義勇軍の基地〉ーーー
戻って来た見張りの兵士に承知され、ムジカ達は基地の屋内に入るのである。昨日、ムジカは事前に、司令に連絡を入れていた。ゼブラとユリアには言っていない。と、言うより、色々あって伝える暇がなかった…。
連絡内容は剣に選ばれし者のゼブラではなく、ユリアの事だ。
黄金に輝くユリアの属性魔力に、ムジカは(リサかいる…)と察し、連絡を入れたのだ。
入口広間を抜け、階段を三階に登り、3人は廊下を歩いていた。外とは違い、中は涼しい…。
行き交う兵士はムジカに敬礼、彼は義勇軍の兵士からは憧れの存在だ。
壁際には違う表札の扉が幾つか並び、気になる所だが、今は気にしてる場合ではない。
3人は奥の行き止まりの部屋に立ち止まる。表札には(司令室)と記されている。
コンコンと、ムジカは扉をノック。3人は(司令室)の部屋に入室。
広い部屋、床一面に敷かれた赤い絨毯。向かい合わせのソファが二台並び、二台のソファの間にはテーブルが置かれている。
室内の端には本棚、壁際には歴代の4名の人物写真が掛けられ、室内の奥には上品な木造のデスク。
(・・・・・・・)
デスクに顔を伏せ、寝ているのは男性。
ボサボサに乱れた黒髪の天然パーマ。垂れた細い瞳、眼鏡。年齢は三十代前半だが、頬はヘコみ、ホッそりした老け顔だ。
普通の体格、上着は純白のロングコート。スラッとした身長。長袖の黒シャツ、蒼の革ズボンに皮のブーツ。
「司令、起きて下さい…」と、男性の身体を揺さぶる。すると…。
「…ムジカか。すまない、少し寝ていたようだ…」
ゴシゴシと瞳を擦り、男は眼を覚まさせる。司令の役職は、色々と考えるから疲れる。睡魔に負けるのはいつもの事だ…。
ムジカは敬礼し、真剣な様子で口を開く。
「例の二人を連れて参りました」
ムジカは言った。ムジカの方が年上だが、身分上、は司令の方が上である。
「ご苦労…。二人に戦いの説明はしたか?」
男は真剣な様子で尋ねる。
男の質問に、ムジカは(ハイ)と答える。
「そうか…。私は義勇軍の司令役のロベルト・ロペスだ。ようこそ、地下世界アストラルに…」
ロベルトは親身に自己紹介。
そしてゼブラとユリアも軽く自己紹介を交わす。
ロベルト司令は真剣な様子でムジカに目を向け、頷きでコンタクト合図。本命はゼブラではなく、ユリアだ…。
「ゼブラ君、君は外の演習グラウンドで待っててくれないか?。後でムジカと手を合わせを行い、実力を見ておきたい…」
「わかった。行こう、ユリア…」
ゼブラは了承。ユリアと共に、司令室を退室しようと、入って来た扉に目を向ける。しかし。
「君は残ってくれないか、ユリア君?」
「えっ?」
ロベルト司令の言葉に、ユリアは不穏な様子。
「ユリアに話ってどういう事だ?」
ゼブラは不審に尋ねる。何故なら、ユリアは道中、酷い目に遭っている。だから心配なのだ。
「大丈夫、変な事では無いから…。少し、彼女と話をするだけだ…」
ロベルト司令は細い笑みを浮かべ、答える。
しかし、ロベルトの言葉にゼブラは不審な様子で彼を睨む。今まで、大丈夫とわれた状況の中、危険な状況と化した事は何度もある。油断出来ないと思わざる得ないのだ。
「安心してください。私は大丈夫です…」
ユリアはゼブラをなだめる。
「わかった。君がそういうなら…」
無理して納得するゼブラ。司令室を退室し、外の演習グラウンドに向かう。
「話って何ですか?」
ユリアは表情を曇らせる。見ず知らずの彼らに、呼び止められる理由がわからないからだ。
「とりあえず、席に座りなよ。あっ、ムジカ、コーヒーを二つ持ってきて、砂糖も忘れずに…」
ロベルトは親身な物腰でソファに腰掛け、ムジカに注文。
「わかりました…」
ムジカは何かを察知。コーヒーを取りに行く為、司令を退室。
室内にはユリアとロベルト司令の二人だけだ。
ユリアは緊張した様子で向かい合いのソファに腰掛け、ロベルト司令に目を向ける。
ロベルト司令は、向かい合いのソファに腰掛けるユリアをジロジロと、至る所を眺める。
彼女が、リサの生まれ変わり…。と、ロベルト司令は指先で顎を撫で、ユリアを眺めながら考える。
「あの、何でしょうか?」
ユリアは尋ねる。
すると、ロベルト司令は口を開く。
「すまないが、目を閉じてくれないか?。安心してくれ、変な事はしないから…」
ロベルト司令は言った。
少しためらったが、ユリアは「はい」と、返事し、瞳を閉じる。何をされるのだろうと、ユリアは気持ちをドキドキさせる。
ロベルト司令は瞳を細くし、瞳を閉じるユリアを眺める。境中、ロベルト司令は詠唱。千里の眼、ロベルト司令の能力だ。人の属性魔力、精神状態、境中を読心する事が出来る。
ロベルト司令の千里の眼がユリアの境中に入り込み、真実を探る。
ロベルト司令の頭の中に流れ、ユリアの内から終末戦争時代の凄まじい光景が映り出す…。
ーー灰色の空。一帯は爆発、燃え上がる黒炎、光線を放射する黒い人形。荒廃の戦場にて、地面に倒れ伏す幾多の戦士達。そして映るのは背中姿の戦乙女のリサ…。
壮絶な様子の破壊神ラモディウスの激戦。
仲間の手助けにより、破壊神ラモディウスは封印。涙を拭うリサは2つの宝石を手に、1つは自身の身体に取り込み、封印。ステファームに宝石を預け、消えた。
「まさか、君が?…」
映る記憶。ロベルト司令は我に返り、震える。
一方のユリア。わからない様子を浮かべ、首を横に傾ける。ロベルト司令は話題を変え、口を開く。
「ここは外は暑いけど、良いところだよ。今は戦争状態だから、民は暗く、いつ魔界軍が侵攻してくるか、ビクビクしながら暮らしている…。私はここが好きだ。君はどう思う?」
ロベルト司令は尋ねる。
「私は、好きですよ…。皆、良い人ばかりです」
ユリアは言った。
「良い人か…。まさか、ムジカの事か?」
ロベルト司令は冗談気な様子。境中、ロベルト司令確信。ユリアはリサの生まれ変わりだ…。
「ハイ」と、ユリアは気楽な笑みで答える。
少し変わってるな…。と、ロベルト司令は苦笑。
彼は指で顎を撫で、考える。そしてユリアを眺め、立ち上がる。
(本当かどうか、確認する必要があるな…)
ロベルト司令はユリアに手を伸ばし、ガシッと、ユリアの両肩を掴みかかる。
「ロベルトさんっ?」
肩を掴まれ、ユリアは声をあげる。
「君、いい身体してじゃないか。もっと見せてくれよっ!!」
ロベルト司令は嫌な笑みを浮かべ、高圧な声を室内を響かせる。ユリアの内に秘めるリサの力を見る為の演技である。
ガタッと、ユリアはロベルト司令にソファに押し倒され、上乗りの体勢で押さえつけられる。
「叫ぶかい?。生憎、この部屋は防音となっている。外には聞こえないよ…」
ロベルト司令はニヤニヤと告げる。
本当に演技かと、疑いたくなる程、怖い笑みだ。
「離してくださいっ!!」
ユリアはジタバタと、もがく。
室内の壁は防音質だ。いくら暴れようが、大声で叫ぼうが、聞こえない。こんな状況、彼女は何度目だろう…。
ロベルト司令はユリアの胸に手を伸ばす。
もう一度言う、あくまでも、演技だ…。
「ーーーーーーーーッ!!」
ユリアは本能的に、叫んだ。
自身に宿るチカラは黄金の光を輝かせ、ユリアの感情に応えた。黄金の光は全身から一斉放出し、衝撃波が展開。
室内のソファ、テーブル、あらゆる家具と、ロベルト司令は吹っ飛び、出入り口のドアの壁際に叩きつけられる。
(・・・・・・)
黄金の光粒子、熱圧を全身から漂わせ、気絶した様子でユリアは立ち、ロベルト司令を睨む。
「あたたたたっ…。これは自業自得か?…」
壁際に叩きつけられたロベルト司令は口をパクパクさせ、意識がピクピク。全身打撲により、激痛。右肩が痛くて上がらない、恐らく脱臼した。
後頭部を強く打ち、コブが出来ている。額からは血が流れ、顔面を赤く滴らせる…。
司令室はエライ事になっている。窓ガラスは割れ、家具は散らばり、カーテンが光の熱風により、パタパタと激しくなびいている。
(・・・・・・・)
フワフワと全身を浮遊させ、ユリアは目を細め、意識を失っていた。
これが、リサ・ドラグーンの力…。ロベルト司令は驚きのあまり、言葉を失った…。




