第20話 リサの生まれ変わりし者ユリア
「これは一体?…」
注文通り、二杯のコーヒーを乗せた運び盤を持ち、ムジカが司令室に駆けつける。滅茶苦茶な室内に、思わず驚きの声をあげる。
「ムジカか…。お前が言っていた通り、彼女はリサの生まれ変わりだ…。確かめようとした結果、このザマだ…」
ロベルト司令は口をパクパク開く。全身を行き渡る激痛の余り、表情を滴らる血で歪ませる。
(・・・・・)
ユリアは左掌を掲げる。
黄金の粒子を全身に漂わせ、詠唱。そして左掌に、黄金の粒子を収束させた光球を具現化させ、ロベルト司令に狙いを定め、放つ。
「四属の障壁っ!!」
ムジカは即座にロベルト司令の前に立ち、両手を掲げ、詠唱。虹色の光障壁を具現化させる。
ムジカは火、水、雷、氷の四属性の魔力を精製する事が出来る。
裏はアレだが、フェイトの師匠だ…。
虹色の光障壁と黄金の光球が、バチィと耳が鳴るような轟音を響かせ、消失。消失した事による余波が部屋一帯に吹き付け、壁中には亀裂。
(・・・・・・・・)
黄金の光球を放ったと同時に、ユリアの全身を漂わす黄金の粒子は消え、元の状態に戻った。急激な精神変化により、彼女は身をフラフラさせ、ドサッと床に倒れ伏した…。
とりあえず、危機は去った…。緊迫が解かれたムジカとロベルト司令に、消失した事により発生しま黄金の粒子が部屋中に充満させる。
「うっ・・・・」
ムジカは苦悶の表情を浮かべ、身を屈める。
両腕から無数の裂傷が開き、血が吹き出す。グロテスクな傷口から血が滴り、床にポトポトと流れ落ちる…。
黄金の光球を消失させた余波ですら、凄まじい威力だ。リサの力を、二人は思い知らされた…。
「大丈夫か?」
ロベルト司令はムジカに尋ねる。
「なんとか…。すぐに回復します」
ムジカは両腕を軽く上げ、詠唱。すると、裂傷に染まった両腕から炎が燃え盛る。激しく燃え盛る炎は傷口を塞ぎ、止血。
炎の止血。ムジカの治癒術であり、止血目的の魔導術だ。感覚は傷口に火を当てるので、かなり痛い。強い精神力がなければ、気を失うであろう。
一方のムジカは額から汗を流し、苦悶の様子。
「大丈夫かい?」
ロベルト司令は重症の身体に鞭を打ち、倒れてるユリアに駆けつける。肩を揺らし、呼び掛ける…。
「いやっ…」
呼び掛けの声に、ユリアは目を覚ます。
同時にロベルト司令にされた行為を思い出し、怯えた声をあげ、足を引きずって後退。
「待ってくれ。先程には理由があったんだ…」
ロベルト司令は申し訳なさそうな様子。
少しやり過ぎた…。
ユリアはムスッとした表情でロベルト司令を睨んでいる。
「アナタに宿るリサの力を、確認したかっただけだよ。嫌な思いをさせて申し訳ない…」
プライドを捨て、ロベルト司令は頭を下げる。
「リサ?」
「部屋中を見てごらん…」
何も覚えていない様子のユリアに、ロベルト司令は真剣な表情で部屋の至る所を見渡す。
「ーーーーーッ!!」
部屋の状態に目を移し、ユリアは言葉を失う。
「これが君の力だ…。今から伝える事は真実だ。聞いてもらいたい…」
ロベルト司令は言った。
自分でも、リサの生まれ変わりが目の前にいる事に、信じられない気持ちだ。
「お願いします…」
ロベルト司令の言葉に、ユリアは少し臆した気持ちの様子で、頭を下げる。
「遥か昔、地上世界は1つの大陸だった。幾多の対立競争に勝ち、地上最強の組織ユーギガノス。そして地上に突如として出現し、ユーギガノスに宣戦布告した破壊神ラモディウス。これが終末戦争だ…。そのリサは、破壊神ラモディウスを封印した伝説の戦乙女だ。終戦後、彼女は転生の旅に立ち、光となって消えた…」
「そのリサの生まれ変わりが、私?」
ロベルト司令の説明に、ユリアは驚いた様子を浮かべ、彼を睨む。
「そうだ。部屋の状況も、君に宿るリサの力によって起こした結果だ…」
ロベルト司令は正直に答えた。
リサの生まれ変わりだと、ユリアは信じられない。少し沈黙し、ユリアは部屋中を見渡す。凄まじい光景に、自身の力の恐怖を痛感。下手すれば大事な人を傷つけ、辺りを破壊してしまう…。
ユリアは故郷の人達、ゼブラを気持ちに思い浮かべる。ユリアは滅入った気持ちで口を開く。
「…お願いします。ゼブラさんには、この事を黙っていてくれませんか?」
ユリアは臆した様子を浮かべ、頭を下げる。
何より、大事な人が離れ、自分から消えて行くのが怖いからだ…。
下手に言わない方がいいと、ロベルト司令、ムジカは判断し、ユリアの頼みを承知した。その代わり、ロベルト司令が行った演技を言わないように、交換条件だ。もちろん、ユリアは条件を飲んだ。
ーーーー〈演習グラウンド〉ーーー
(おそいな…)
基地の玄関前、ゼブラは腕を組み、15分間、待機。グラウンドに広がる訓練する兵士達、かけ声と教官の指揮の声が飛び交っている。
「待たせたな…」
玄関からムジカとロベルト司令、ユリアが駆けつける。そしてムジカは渋い口調でゼブラに声をかける…。
「ムジカさん。その格好は?…」
ゼブラは尋ねる。
「俺の軍服だ。戦いに赴く可能性があるから、着替えて来た。これが俺の本来の姿だ…」
上半身に白銀の甲冑、下半身に白銀の腰鎧。厚手の灰色ズボン、銀属のブーツ。純白のロングコートを上着として着用し、背中には義勇軍の象徴である戦乙女の刺繍が縫い込まれ、腰元には愛武器であるロングソード。
「さっき説明した通り、君にはムジカと手合わせし、君の実力が今、どの程度で、戦場に出せるレベルかどうか見ておく必要がある。もしダメなら、ムジカとトレーニングし、鍛えてもらうよ…」
ロベルト司令は説明。
ゼブラを試す理由、下手に戦場に赴き、死なせて希望を失いたくないからだ。もし、ゼブラが死ねば、義勇軍が敗戦したの同然、魔界軍に支配される。
「そう言う事だ…」
ムジカは腰元のロングソードを抜く。歴戦の威圧感を漂わせ、戦る気の様子だ…。
もちろん手加減はする。あくまでも、少しレベルが高めの適性検査だ…。
「もし合格すれば、それなりにイイコトをしてやろう。しかし、不合格なら…」
「不合格なら?…」
ムジカの言葉に、ゼブラはゴクリと息を飲み、不安な様子を浮かべる。
嫌な予感しか、しない…。
すると、ムジカはニシシシッと笑みを漏らし、口調オネェ言葉に変え、ゼブラに指を差す。
「トレーニングと、そして罰ゲームとして、私が用意した衣装を着て、酒場で接客してもらうわよっ…」
(死んでも合格しなければ…)
気持ち悪いオネェムジカの指差しに、ゼブラはブルッと背筋を冷やし、強く決心した。
自分がアノ衣装を着て、酒場の接客なんて、想像しただけでも嫌だ…。
ムジカさんは何故、ゼブラにコスプレさせて、接客させたがるのは、面白いからだ…。
「それじゃ、演習グラウンドを空けるから少し待っててくれ…」
ロベルト司令は演習グラウンドで訓練する全ての兵士達に、緊急中止の命令を下す。
全ての兵士達をグラウンドの端に引き下がらせ、演習グラウンドを決闘場に一変させる。
ーーそして。
グラウンドの端には義勇軍の兵士達が見学。正門口には、任務から戻って来たチェルシーとムサシが肩を寄せ合い、見物していた。
「ガンバレーッ!!」
チェルシーは活発な声で応援。
(フン、負けてしまえ…)
ムサシは瞳を閉じ、何気なく呟いていた。
何故なら裸を見られた事に、根に持って忘れていないからだ。裸を見せるの心に決めた人だけだと、彼女はこだわっている。
義勇軍の基地の玄関にはロベルト司令。
「頑張ってくださいねーー」
ロベルト司令の隣、手をパタパタと振って応援するユリア。
演習グラウンドの中央部にて、ゼブラとムジカは中間距離に立ち、対峙。
(・・・・・・・)
何故だろう…。実力を試すだけなのに、ムジカから大きなプレッシャーと緊張感がゼブラに重く漂わせ、沈黙…。
緊張感が強いのは、不合格したらコスプレ接客と言う名の罰ゲームが待っているからだ。
「さて、今から少し高めの適性検査を開始する。覚悟はいいな?」
ムジカはロングソードを抜き、ゼブラに尋ねる。
「いつでもいいぜ…」
ゼブラは剣を抜き、両手で構える。




