第17話 天使?いえ爬虫類です…。
ムジカは壁時計に目を向ける。
時刻は十八時五十分、夜と朝が無い地下世界アストラルの時間では夕方であり、夜を意味する。
ムジカは慌てる様子で声を上げる…。
「あっ、もうこんな時間だっ!!。そろそろ開店準備しなければっ!!」
店内の左奥の中通路に足を運び、ムジカは左側の部屋のドアノブに手を掴む。
「開店準備って?」と、ゼブラは尋ねる。
「お前達も来いっ!!」
ムジカはゼブラとユリアに、部屋に来るように呼びつける。何が始まるんだろうと、不安が募る。
まだ、聞きたい事を聞いていない。わからない状況の中、二人は恐る恐る部屋に入る…。
ーーーー〈控え室〉ーーーー
連れて来られたのは店の控え室。鏡台が5台、部屋の奥にはカーテンが掛かる試着室。並ぶ服干し台には衣装が掛けられ、変な予感。
「これに着替えてろっ!!」
ムジカは二人に衣装を渡し、控え室から急ぎ足で去った。
何をするつもりだろう、二人は目を合わせ、沈黙。理解が出来ない心境だ…。
「いきなり着替えてろって言われても…」
衣装を広げ、困惑するゼブラ。衣装は全て女性モノ、男モノの衣装は無い。ますます、嫌な予感。
女装しろと言うのか…。ムジカさん二人に何をさせたいのだろか…。
「私、着替えて来るわね…」と、ユリアはカーテンを開かせ、試着室に入る。
部屋の中、着替えるのに躊躇する衣装と睨み合うゼブラ。どうしようと、悩む。すると。
「あーら、まだ着替えてなかったのっ!!」
「ムジカさんっ、何だその格好?」
控え室のドアを開き、入ってきたムジカに驚き、ゼブラは声をあげる。ムジカは異形と化している。頭髪はワックスでテカテカに固めたオールバック。顔は白の厚化粧、瞳はパッチリの付け睫毛、ふっくらした口紅。上半身は素肌のピンクベスト、下はホットパンツ。足にはレディースブーツ。
姿は、オネェである…。
「これは夜の仕事の姿よ。昼間は食堂、そして夜は、この町を照らす天使クアドラスなのよっ」
両人差し指でキュートに頬を差し、強烈な面でゼブラに詰め寄るムジカ。
「まさか、俺もそれに着替えろって言うのか?」
ムジカの姿に畏怖し、ゼブラは尋ねる。
ムジカの店は昼間は食堂、夜は酒場。普段の彼は厳格な戦士、夜はでかいオネェである。戦地が忙しくない時間だけ、店を経営しているのだ。
店を経営する目的は、長い戦争で落ち込む町人を明るくしたいからだ。
「勿論よっ。お願いゼブラちゃん…」
「嫌だねっ。俺にはそんな趣味は無いっ!!」
ムジカの頼みをゼブラは両腕を交差させ、拒否。
「あら、断るって言うの?。なら、仕方ない…」
ムジカは高圧な様子で拳をゴキゴキと鳴らす。
嫌な予感に、ゼブラは不穏な表情で後退。
ムジカは両腕を広げ、瞳を光らせる…。
「実力行使よっ!!」
ムジカは雄叫びを響かせ、太い腕を伸ばす。
「誰が捕まるかよっ!!」
左側に跳び、ゼブラは避ける。捕まった時の危険の度合いは鼻に吹き付ける香水が物語る。
「大丈夫。フェイトちゃんも昔、やっていたわよ。そうね、あの子が地上の魔導術学校を首席で卒業して、地下世界アストラルに帰郷した頃よ。物足りなさで私の元で修行し、この仕事を手伝ったものよ。恥ずかしいのは最初だけ、フェイトちゃんもそうして慣れていったわウフフフフ…」
ムジカは悪企みな笑みで歩み寄る。
フェイトが帰りたくないのも、無理もない…。
あの、フェイトさんが…。と、思い浮かべ、ゼブラは吹き出しそうになる。
「スキありっ!!」
ムジカは恐い目で飛びかかる。
「なんのっ!!」
ゼブラは右側に跳び、避ける。
オネェのムジカは「いい加減、捕まりなさい」と、ゼブラを追い回す。
絶対に捕まってたまるかと、ゼブラは必死に逃げる。二人は部屋中、グルグル回り、鬼ごっこ。
すると、試着室のカーテンが開く。
「どうかしら。この衣装…?」
試着室から出て来たのはユリアは一変。黒のバニースーツ。頭には白の猫耳、尻部には綿の白いシッポ。ユリアは恥ずかしそうに、顔を赤くし、モジモジさせる。
「あら、すごく似合っているじゃないのっ!!」と、ユリアの隣に駆け寄るムジカ。
「どうかしら?」
ゼブラに目を向けるユリア。
「どうって…」
ユリアの姿に、目のやり場に困るゼブラ。
露出したユリアの腋、胸、ヘソ、太ももが視界に入り、答えを、言葉に出来ない。感想をから言えば、ムラムラする。
「よかったわ。うちには化け物二人しかいないから、花が出来たわ…」
ムジカは喜ぶ。
「待て、アンタの他にもう一匹いるのか?」 と、ムジカの言葉に、ゼブラは恐る恐る尋ねる。
「一匹って失礼ね…」
三列目の鏡台をガチャと開き、何か出てきた。
「うわっ、何か出てきたっ!!」
鏡台から出てきた何かにビックリし、ゼブラは後ろの壁際まで跳び下がる。
出てきた何かもムジカの同種。丸坊主に細い眉、口回りに青髭。顔つき、体格は肥満。ピチピチの黒のボンテージを着用したヤバイ中年のおっさんだ。身長はゼブラと同格、人生に何があったのだろうかと、興味がある。
「あら、クライヴ。いらっしゃい…」
ムジカはナチュラルに挨拶。
彼はムジカの同種であり、夜店の同僚。義勇軍の町サイモンを照らす天使と言う名の爬虫類である。
この穴はどうなっているんだ…。と、ゼブラとユリアは三列目の鏡台の穴を覗いている。
真っ暗である…。
「この子達は誰?」
クライヴはゼブラとユリアに近づき、ジィーと、近い顔で眺める。
香水が、汗の匂いが二人の鼻に漂ってくる。
正直、臭い…。
「彼らは戦いの希望、そして店の新人よ…」
と、ムジカは紹介している。
また、変な者が現れた…。
すると、ユリアはクライヴに気前良く口を開く。
「私、ユリア・クライ…」
「女子はだまってろぉ!!」
えっ、何で…。クライヴはユリアの自己紹介の言葉を怒声で中断させる。
一方のユリアは、ビックリして沈黙。理由、男にしか興味がない。
クライヴはゼブラの両手を握り、キラキラな笑みを浮かべる。彼は、ホレた。
「何だよ…」
ゼブラは苦い表情で小さく尋ねる。
「この子、可愛いっ!!。彼氏にしたいっ!!」
クライヴはゼブラをガシッと太い両腕で抱き締め、頬をスリスリさせる。
「がぁっ…」
クライヴの汗臭さと香水の香りがゼブラの鼻に突く。全身をメキメキと音を響かせ、締め付けられる。まるで大蛇に巻き付けられてる痛覚だ。
「付き合って下さいっ!!」
クライヴは何気なく告白。
「無理っ!!」と、ゼブラはハッキリ断る。
「何よ、つれないわねぇーー」
フリフリフリフリと、腰を振るクライヴ。
「腰を振るなぁーーー!!」
ゼブラは絶叫。
「ハイハイ、もう少しで仕事よ。準備に入って」と、ムジカは両掌をパンパンと叩き、通達。
クライヴは「はーい」と、残念な様子でゼブラを解放し、控え室から退室。
危なかった…。と、胸を撫で下ろすゼブラ。下手すればカマを掘られ、人生の道を脱線する所だ。
「ほら、ユリアちゃんも行くわよ。この仕事は主に接客だから色々あるけど、フォローするわ…。あと、クライヴの事は気にしなくていいわ。彼、悪気があって言ったわけじゃないわ。普段は良い人よ」
ムジカはユリアの肩を叩き、言った。
ユリアは「ハイ」と、軽く返事。店を手伝う事になっているようだが、やるとしよう。
「俺は何をすればいい?」
ゼブラは尋ねる。
「アナタは用心棒。店内でトラブルがあったら、それを止める役よ…」
「わかった」と、ムジカの依頼にゼブラは承知。
女装でなくて、よかった…。
「それと、ムサシを呼んで来てくれない?。あの子も従業員、隣の部屋で待機しているから、おねがい…」
ムジカは言った。ゼブラに頼むのは、店の準備で色々と忙しいからだ。ムサシはムジカの店に居候し、修業と店の手伝いをしている。
ユリアとムジカ、クライヴの3人は控え室を退室。店内に向かい、開店準備の作業をしている。
「ムサシ、ムジカさんが…」
ゼブラは隣のムサシの部屋に入る。
(・・・・・・)
部屋の中、二人は目を会わせ、沈黙。
ムサシのヤラしいボディがゼブラの視界に映る。
下は白のふんどし、長い前髪で垂れ隠す乳房。ムサシはウェイトレスの衣装を両手に掴み上げ、着替え中である。
「えっ…と、これはだな…」
赤面し、ゼブラはアタフタと慌てる。
ムサシは鋭い表情を浮かべ、右手で刀を取る。
「ーーーーーッ!!」
ムサシは赤面し、怒りの飛脚。
ゼブラの頭上跳び超え、背後に回り込む。
「ーーーーーッ!!」
ゼブラは背後に反応。しかし。
「見たな…。私の?」
同時にムサシは背後からゼブラの前足を払い、ドスンと鈍い音を響かせ、うつ伏せに転倒させる。
後ろから跨がり、取り押さえる。そして、右手の刀をゼブラの横首に突き立てる。
「たっ…助けてぇーーーーーッ!!」
苦し紛れに、ゼブラはジタバタと声をあげる。
ーーその後、部屋にムジカとユリアが駆けつけ、事は解決した。ゼブラの状況に、ユリアは嫉妬と軽蔑の様子を浮かべていた。ゼブラは必死に弁解し、何とかユリアの機嫌を直したらしい…。




