第16話 義勇軍の町サイモン
森林地帯を抜け、出入り口に到着。崖上と崖下には森林が広がり、崖上の断面から地底雲の蒸気が下流し、湿気が漂う山岳地帯である。
一直線に伸びるデコボコの下り坂道。一辺から蒸気が漂い、坂道を歩くゼブラとユリアの額からは汗が流れ、渇いた地面に滴っている。
地下世界アストラルは地上と比べて温暖な環境の為、緑が豊富。モンスターが多く棲息している。
ーーー5分後。
ーーーーー〈義勇軍の町サイモン〉ーーーー
坂道を下り、3人は森林地帯方面の正門から町に入った。義勇軍の町サイモンには正門が2つ存在する。1つはアロウン砦方面の正門、2つ目は森林地帯方面の正門だ。
「ここが義勇軍の町サイモン。創始者ステファーム・アストラルの生涯の故郷よ」
チェルシーは言う。
場所は中央広場、一辺には現地人が行き交い、様々な露店や建物が一帯に立ち並び、義勇軍の本部の領区の為、広い町である。地上の町並みとは変わりはない。温暖な環境の為、大半は涼しい格好であり、素肌を露出している人が多い。
広場の中央部には甲冑を装着した若い頃のステファーム・アストラルの銅像が設置され、円形ベンチが囲っている。
「やっと戻って来たっ!!」
怒った様子で近づいて来たのは女性兵士。
黒く、艶やかに伸びる長髪。上向きの黒瞳。細い顎。袖無し、胸が開いた白胴着と紅の袴。
むっちりした体格、色白い肌。左腰には刀。足には草履。身長はユリアと同じ、年齢は15歳。服装は独特、サムライと言う名の戦士だ。
「義勇軍のチェルシー。偵察から只今、戻って参りましたっ!!」
チェルシーは満面の笑みで敬礼。
同時に、女性サムライは身長の低いチェルシーの頭上に怒りのゲンコツ。
「戻って参りましたじゃないっ!!。お前が任務中、どっかに行ったせいで、私がどれだけ怒られたと思ってるっ!!」
「イッタイ。暴力だ、パワハラだっ!!」
チェルシーは女性サムライのゲンコツにビックリ。どつかれた頭を泣きながら撫でる。
一方の女性サムライはガミガミと人目を気にせず、チェルシーを説教。少し可哀想に思ったのか、ユリアは口を開く。
「あの、私達はチェルシーさんに助けてもらったんです。あまり怒らないであげて欲しいです」
「何っ、どういう事だ?」
ユリアの言葉に、女性サムライはユリアを男勝った声で睨む。
「私達、森の中で魔界軍と遭遇して捕まりそうになった所を彼女が来て、追い払ってくれたんです…」
ユリアは言う。
「魔界軍がいたのか?」
「うん…」と、女性サムライの質問に、チェルシーは泣き泣きに頷く。
すると、女性サムライはしゃがみ込み、泣き泣きのチェルシーと同じ目線で心配な表情を浮かべる。
「怪我はなかったか?」
女性サムライの言葉に、チェルシーはコクリと、黙って頷く。
「この場所は知られなかったか?」
女性サムライは言う。
「森の中に入ってきたけど、追い払ったよ…」
チェルシーは涙ながら答える。
女性サムライは、「そうか…」と、笑みを浮かべ、チェルシーの頭を撫でる。
怒っているのは心配だからだ。兵士は1つの失態で状況を悪く変え、1つ間違えば死ぬからだ。
怒っている女性サムライは、1つの愛情だ。
「ムキュ~~~~~!!。もっともチェルシーを褒めて褒めてぇ~~~」
人懐っこい声で女性サムライの胸に抱きつくチェルシー。
「調子に乗るなっ!!。お前は軍部に行って報告して来い、そして絞られろっ!!」
と、女性サムライは顔を赤らめ、チェルシーに再度、ゲンコツを叩き込む。
「あーい…」
チェルシーは叩かれた頭を撫で、中央広場から立ち去り、義勇軍の本部基地に向かう。
今、怒られて、また怒られるのは嫌だな…。と、チェルシーは気持ちを曇らせるのだった。
「お前達の事はフェイトさんから聞いている。私は義勇軍の兵士のサクラバ・ムサシだ」
女性サムライは二人に目を向け、挨拶。
そしてゼブラとユリアは軽く自己紹介。
「よろしく。ムジカさんに連れてこいと言われている、ついてこい…」
ムサシは二人に告げ、歩き出す。二人はムサシの後を追い、ついていく。
彼女の言うムジカとは何者だろう。会ったことも無い人から呼び出されるのは、不思議に緊張する。
3人は町の表通りを歩いていた。空に漂う地底雲の影響で一辺の風景、地面も石造りの灰色。
一帯に立ち並ぶ建物、人通りは中央広場と違い、穏やかだ…。
「ムジカって人は何者だ?」
ゼブラは尋ねる。
「それは本人に聞いてくれ。着いたぞ…」
ムサシは立ち止まり、店の屋根看板に視線を向ける。看板には〈ユーギガノス〉と記され、昼は食堂、夜は酒場の店だ。
丁度、いい。地下世界アストラルに来るまで色々あったから腹が減った所だ。
「飯をおごってくれるのか?」
ゼブラは期待する。
「それの役目は私ではない。入るがいい…」
と、ムサシは扉を開け、店の中に入る。
ムサシの口調は怒っているように聞こえるが、元々の口調の為、怒っていない。
二人も店の中に入る…。
店内は数多のテーブルが並び、酒棚と調理台が設置されたカウンター席。ギシギシの木造床、奥には簡易ステージ。オレンジの電灯が店内を照らし、至って普通の食堂だ。今は客はおらず、静かだ。
「いらっしゃい。何だムサシか…」
室内廊下から姿を現したのは中年男性。1本巻きヘアーの灰髪、厳つい瞳に青髭。顔のシワは送って来た人生の経験を物語る。身長は180センチ、服装は白と黒のウェイタースーツ。体格は筋肉質だ。
「例の二人を連れてきました…」
ムサシは敬礼。
「ご苦労。部屋で休んでるといい…」
青髭の中年は言う。ムサシは頭を下げ、室内廊下に入っていった。
「君達がゼブラとユリアだね?」
青髭の中年は渋い声で尋ねる。
青髭の中年の言葉に、ゼブラとユリアは「ハイ…」と頷く。そして青髭の中年は二人の表情を察知し、口を開く。
「色々あって疲れただろう?。カウンターに掛けてるといい…」
青髭の中年の言葉に、ゼブラとユリアはカウンターに腰掛ける。青髭の中年は、沈黙した表情を浮かべ、調理台にて調理。料理の音が店内を響かせ、香ばしい匂いが漂う。
「アナタがムジカさんですか?」
ゼブラは言う。
青髭の中年は包丁の手を動かしながら口を開く。
「俺がムジカ、ムジカ・クアドラスだ」
青髭の中年、ムジカは言った。
彼はフェイトの師匠であり、義勇軍の大戦士だ。
ムジカの歴戦の威圧感が重く漂わせ、圧されたゼブラは沈黙…。
「どうした?。俺に聞きたい事があるんじゃないのか?」
ムジカは渋い声で尋ねる。そして何気なくユリアに視線を移す…。
ムジカの厳つい表情に対し、ユリアは、わからない様子で首を横に傾ける。
(こっ…。これは…)
ユリアに視線を移した時、ムジカは包丁の手を止め、驚く。ムジカの瞳の中に映るのは、黄金に輝くユリアの属性魔力。黄金に輝く魔力の色は、伝説の彼女を物語る…。
まさか、ユーギガノスの選ばれし者と、彼女の生まれ変わりが、時を超えて1つに巡り合ったと言うのか…。と、ムジカは予感した。
「ムジカさん…?」
ゼブラは尋ねる。
「いや、何でもない。飯を食うといい…」
考えから解放されたムジカは出来上がった料理を二人に差し出し、誤魔化す。
後で司令に報告するとしよう…。
二人は差し出された料理を口に運ぶ。丁度、腹が減っていたから、美味い。
ーーー数十分後。
「フェイトから話を聞いてるようだが…。ゼブラ、お前には、我ら義勇軍の戦いに加わってもらう」
食事を終えた皿を片付け、ムジカは真剣な様子で口を開く。
「義勇軍の戦いって?」
ゼブラは言う。
「この地下世界を侵略しようとする魔界軍との攻防戦だ。奴らは地下世界に突如として現れ、一方的虐殺を行い、町1つを滅ぼした。ダリウス平原を拠点とするアロウン砦に長い間、魔界軍の阻止し、交戦中だ。お前は戦争を終らす為の希望だ」
「けど、ユーギガノスの戦士じゃなくても、俺以外にも強い戦士に頼めばいいじゃないか?。何で俺が戦争に加わらなければならない?」
ムジカの言葉に、ゼブラは聞き返す。確かに、ゼブラ以外にも強い戦士は世の中いくらでもいる。
フェイトは面倒臭いとの理由で、教えてくれなかった。理由を知りたいのだ。
「ユーギガノスに選ばれし希望の刃、戦地を駆け抜ける時、戦乙女は目覚め、運命は2つに1つに別れん…」
ムジカは言った。
「何だそれ?」
分からない。と、ゼブラは首を横に傾ける。
「予言者ミュードロウの予言だ。ユーギガノスに選ばれし者、お前だ。戦争の勝利を掴む為、連れてきた…」
「予言者ミュードロウ?」と、ゼブラは再び首を横に傾ける。
「この町に住む予言者だ。あの御方は気密人物、滅多な事でなければ会う事は許されん…」
ムジカは腕を組み、重たい口調で答えた。
予言者ミュードロウとは、地下世界アストラルに生を受けた老婆だ。生まれながら未来を的中さたり、高い予言力を備える予言者だ。
本当かどうか怪しい所だが、ここまで来たのだから一応、信じるしかない。




