第11話 突然の別れ、そして謎の傭兵団の依頼
ーー後日。
ゼブラとユリアはフェイトの部屋の前に押し掛けていた。宿屋の玄関広間で彼を待っていたが、来ないので呼びに来たのだ。
「フェイトさん、朝ですよ。起きてくださいよ」
ゼブラは部屋のドアを叩く。しかし、返事はない。一体、どうしたのだろうか…。気になったので、ゼブラはドアを開く。
部屋の中は静寂を漂わせていた。フェイトの姿は見られず、誰もいない。
「フェイトさん?」
ゼブラは辺りを見渡し、目を配る。
「あの、これ…」
ユリアはテーブルから何かを取り上げた。手に持っているのは手紙だった。
ーーこれを読んでいる頃には、俺はもう宿屋を出て、いないだろう。俺の役目は、ユーギガノスの剣を保護し、地下世界アストラルにて選ばれし者を探すハズだった。しかし、選ばれし者であるお前が現れ、その必要がなくなった。お前達は地下世界アストラルに向かい、地下世界アストラルで広がる戦いに手を貸して欲しい。地下世界アストラルは、この先にある廃墟の町、そこが入り口だ。俺は盗まれた封印宝を探す旅に出る。かなり短かったが、楽しかった。ムジカさんによろしく…。ーーー
フェイトより。
フェイトの手紙の内容を眺める二人。
「何だよコレ?……」
突然の事に、ゼブラは驚きを隠せない。
「フェイトさん。出て行ったみたいですね…」
ユリアは言う。
「本当にどうするユリア?」
「何がですか?」
ユリアは、ゼブラの目を見る。
「本当についてくるのか?。フェイトさんは、いなくなったし、俺と君の二人だ。今なら……」
「昨日、言ったでしょ、私の事は私が決める。それに、守ってくれるのでしょ?。あれは嘘なのかしら?」
ユリアは強気の笑みを浮かべ、言った。町を出た時から、彼女は腹を括っている。決意力はゼブラより、高いようだ。
「そうだな。なら、一緒に行こう」
「ハイ」と、ゼブラの言葉に、ユリアは返事。
そして、二人は朝食の為、食堂に向かう。
ーーーーーー〈食堂〉ーーーーー
宿屋の客足が少なかったのか、食堂の客はゼブラとユリア、二人の旅人。客席に腰掛け、ゼブラとユリアは食事を口に運ぶ。
今日に限って店内は暇。カチャカチャとした食器の音が、店内に響き渡る。一方、調理師は厨房から見えるように、新聞を読んでいる。
(………)
二人が座るテーブルの前に、謎の黒装束の一味が押し掛ける。数は9人、不気味な雰囲気を滲ませ、睨みつける。他の客はヤバイ様子に臆し、目を反らしている。
「何だお前らは?」
と、ゼブラは睨み返す。
すると、前に立つ黒装束の男がフードを脱ぎ、口を開く。
「お前達に頼みたい事がある」
男は言った。黒髪はボサボサ、垂れ下がった瞳。窪んだ頬、無精髭。細い身長、細い体格。年格好は中年だ。
「頼みたい事?」
と、ゼブラは不信に睨む。
「我らは傭兵団。ある貴族から、この先の廃教会の地下に住み着くモンスターを狩れと、任務を受けた。しかし、モンスターが強く、我らでは太刀打ちが出来ず、20人いた同士が死んだ。倒さねば奴は地上に姿を現し、人々を襲う。頼む、怪しいのはわかるが、皆は傷が酷く、人には見せられない。報酬は渡す、人助けのつもりで、頼む」
男は頭を下げ、お願い。
「どうしますかゼブラさん?」
ユリアは言う。
ゼブラは考える……。
怪しい格好の奴らだが、普通の傭兵団のようだ。 もし、破壊工作、誘拐、強盗なら断る。奴らの話は悪い話ではない。ただのモンスター退治である。
傭兵団は答えを待ち、沈黙。
「その願い、受けるよ」
ゼブラは言った。人害のモンスター退治なら、受けてもいいと、判断した。
ゼブラの答えに、残りの傭兵団は歓喜を上げる。
「では、すぐに向かおう。俺の名前はゴードン、よろしく」
男は自己紹介。
受諾成立、そして皆は宿場町を出発し、モンスターが潜む廃教会に向かう。
ーーーーー〈カシム荒野方面街道〉ーーーー
ゼブラとユリア、怪しい傭兵団は街道を歩いていた。両端に立ち並ぶ木々、渇いた地面。一辺から鳴り響く小鳥、小動物の鳴き声。歩き進む足音に、生き物達はビックリし、木の下、茂る木枝に身を潜めてしまう。
「この先だ……」
ゴードンは言う。右側には一直線に伸びる道、皆は歩き進む。道の先には例の廃教会。進むにつれ、枯木が並び、カラスの鳴き声が響き渡る。雰囲気は不気味、不吉だ……。
ーー10分後。
例の廃教会に着いた。石造りの外形は所々ヒビが目立ち、象徴とする時計台は壊れている。教会一帯は枯木が囲み、カラスが教会の上空を飛び回っている。空の色は灰、雰囲気はいかにも不気味、モンスターの隠れ家には絶好の場所だ。
「いかにもって感じだな……」
ゼブラは教会を見上げる。
ゴードンは剣を抜き、教会の大扉を開く。モンスターが待ち構えていても、不思議ではない。
ーーーーーー〈礼拝堂〉ーーーーー
屋内にはモンスターの姿は無い。イスは壊れ、壁にはカビが生え、不法投棄のゴミが散乱。屋内はホコリが漂い、荒れ放題である。
「外も外なら、中も中だな……」と、ゼブラは辺りを眺める。
「ヒャ!」
ユリアはビックリ、ゼブラに抱きつく。
「どかした?」
ゼブラは言う。
「ごめんなさい。クモにビックリしただけ」
ユリアは言う。掌サイズのクモが地面に這っている。クモが足首に登って来たのでビックリしたのだ。
ゴードンは教壇に駆けつける。横にグイグイと押し、教壇をどかした。教壇の下には地下階段、中から生臭い匂い、雄叫びのような微風が吹き付け、入りたくない。何かいる気配、プンプンである。
「お前はらここで、見張りしてろ。前の戦いでの傷で動けんから足手まといになる。俺と赤いのが行く、待ってろ……」と、ゴードンは地下階段を降りていく。
「ゼブラさん……」
ユリアは心配な様子て見つめる。
「大丈夫、必ず帰ってくるから」
ゼブラは自信の笑みを浮かべ、約束。ゴードンの後を追い、階段を降りる……。
屋内に残ったのは、ユリアと無口の傭兵団のみだ。ある意味、彼女の方が心配なのは気のせいか……。
ーーーーー〈地下通路〉ーーーー
二人は地下通路を歩いていた。一帯は暗闇、灯りはゴードンの松明が照らしている。
地面にゴミ、獣骨、人骨が散らばり、右端には水路が流れている。人骨は皆、モンスターに喰われた者達だ。血生臭い匂いが辺りに漂い、何が出て来てもおかしくない。
「気をつけろ、この辺りにはゾンビが出没する。一体一体は弱いが、集まれば危険だ」
ゴードンは剣を抜き、辺りを見回し、警戒。
天井から滴る水滴は肩に当たる度に、敵と勘違いし、精神的にしんどい。
ゼブラは何気なく一辺を見回す。
「ーーーーッ!!」
ゼブラ驚愕し、思わず地面に尻をつく。左壁の窪みに、痩せ細った褐色の死体が入っていた。目元は窪み、生気は無い。
「ゾンビの死体だ。気にするな」
ゴードンは死体に松明を照し、慣れた様子で口を開く。壁に明かりを灯し、先に歩き進むのだった。
「まったく、脅かしやがって」
ゼブラは死体の額を右手でペチペチと叩く。
ガブッ
(………)
ゼブラは右手に目を移す。死体はゼブラの右手をカプリとあまがみ、モグモグしている。
「ギャアアアアアアアア!!」
ゼブラは絶叫し、噛まれる右手を引っ張り出す。窪みから死体は身を起こし、活動。ゼブラの声に反応し、壁の窪み、水路、地面の隙間からゾンビがワラワラと出現。
「起こしちまった……」
ゼブラは悔やむ。一辺を見回し、剣を抜く。状況は言葉が出ない位、最悪だ。ワラワラと出現したゾンビがゼブラを囲み、うごめく。
「ーーーーーッ!!」
ゼブラは前列のゾンビの群れに向かい、駆け走る。剣を振るい、前列のゾンビを斬り倒し、斬り進む。後ろにもゾンビ、前にもゾンビ、こうなれば進むのみだ。ゾンビは一定の立ち位置に止まらなければ、難しい敵ではない。常に動き、触らせない。これに尽きる。
ゼブラは斬り進む。地面に散らばるゾンビの肉塊、地面に流れる血は水路に流れ落ち、水路の水を紅に染める。
背後から、ドスの効いたうめき声をあげ、走って追いかけてくるゾンビの群れ、いくら倒しても姿を現し、キリがない。
「ゴードンさんは?」
彼の存在を忘れ、ゼブラは走りながら一辺を見回す。鬼神化の使用の影響か、感覚がアップし、戦闘による自信もついた。しかし、アップした感覚でも、ゴードンの姿は確認出来ない。
多分、先に行っているのだろう。生きている事を信じよう……。
ゼブラは左の曲がり角を曲がり、通路を駆け走る。ゴードンさんはが灯したのか、壁には松明が並び、火が灯してある。
グキャアアアアア……。
ゼブラは思わず立ち止まり、振り返る。ゾンビ達は曲がり角の通路を前にすると、臆したうめき声を響かせ、地面の隙間に潜り、引き返す。
「どういうことだ……」
ゼブラは不信に表情を曇らせる。前を向き、燃える松明が並ぶ壁の通路を歩き進む……。
少し歩き進むと、行き止まりの壁。左側の壁には入口である洞穴が空き、中は広間となっている。
「お邪魔します……」
ゼブラは緊張感を漂わせ、モンスターの広間に足を踏入れる……。




