始まりのナイトメア
刻矢が操縦室へ向かうと、中では船員が全員倒れていた。声を掛けると全員意識があり外傷は無いものの、ここで何者かの襲撃を受けた事を理解する。
話を聞くと全身鱗だらけのドラゴンに似た怪物に襲われたらしい。刻矢はジェネシスが最低でも二体乗っているという事実を知り、慌てず冷静になると姫陽達を探す事にした。
刻矢はまず食堂に向かう。何者かに荒らされた形跡があり部屋の中に雪が積もっている。刻矢はトナカイ道化師の仕業だと理解し、こいつは強いが能力が地味だから別に放っておいても良いだろうと判断する。
問題は戦闘力が未知数のドラゴンだ。西洋では有名な存在で様々な種類がある。地味に強いトナカイと違い戦闘力は高いハズだと考える。操縦室を壊さず船員を一人も殺さなかったため、それだけ力の制御が上手い存在だと刻矢は考察する。
刻矢は一度クロエ達を部屋に置くと、高い所から確認するため船を登っていく事にした。金属製のはしごを登っていき、ついに船のてっぺんの高台まで到達する。そこから観た景色は想像を絶する物だった。
まず、見渡す限り海が凍り付いている。刻矢にとって予想外の事態だ。これでは幾らタンカーでも船が動かないだけでなく、道化師の実力を見誤っていた事に気付いたからだ。相手はその気になれば、常に流動する海すらも瞬間凍結させるほどの冷気を放てる。そんな奴が姫陽達ともし出会ったらと思うだけでゾッとした。
「悠翔ですら勝てるか解らないなこれは」
「見ただけで正しく理解したようだな。さすが未弦と彼方の息子だ」
刻矢は今までに無い気配で気付き振り向く。
目の前には白衣のポケットに両手を入れた同年代の男が立っていた。フレームを省略した眼鏡を身に付けた白人男性だが、ネオ以上に得体の知れない何かを刻矢は感じていた。
「初めましてと言うべきだな柊刻矢君。私はクリフトファー・ハーネック。コードの生みの親の一人だ」
クリフトファーと名乗った男が機械の様に淡々と語る。
刻矢は男の言葉が信じられなかった。クリストファー・ハーネック――確かに父の未弦と一緒にコードを作ったとされる人物の名前だ。
しかし、目の前の男は父親と同世代とは思えないほどに若過ぎた。ナイトメアの事件が二十数年前に起きたのならば、首謀者のクリストファー・ハーネックは三十代後半の人間のハズだ。もし彼を本人だと仮定しても、明らかに学生時代から時間が経っていない。
そのうえ全身に静かな青のオーラを纏っている。ナイトメアコードは未成年にしか使えないハズだが、クリストファーと名乗る男は確かにナイトメアコードを身に宿している。
「お前がクリストファーだと? あり得ない」
「私は学生時代、インフィニティコードの力で不滅の身体と力を手にしている。つまり、コードを作ってから歳を取っていないのさ」
確か未弦は刻矢の心で、クリストファーがインフィニティコードに心を喰われたと言っていた。
しかし、もし喰われたのではなく自らの意思で使ったとしたらと刻矢は仮定する。目の前の男がインフィニティコードで言葉通りの願いを叶えた存在だとすれば、こいつは刻矢達ジェネシスとは対極の存在だと言える。今までのナイトメアとは別次元の存在だ。
「君にネオの邪魔はさせんよ。彼は君と同じく醜い世界の被害者だ。私には彼のパートナーとして創る世界を見届ける義務がある」
クリストファーがノーモーションで、目の前に青い『Dragon』のコードを出現させる。コードその物が意思を持っているかの様に蠢き男の周囲を円運動していく。
「コード・オン」
クリストファーが静かに呟く。するとコードが体内へ入ると同時に全身から漆黒の鱗が発生し、骨格に膜を張った七対の翼を持つ竜人へと変化した。本体の人間が研究者なためか全身はスマートにまとまっている。
「来たまえ柊刻矢。君にネオを止める力があるのならば私を倒してみせろ」
刻矢はあまりにも静かな力に畏怖しつつも、励ましてくれるかの様に輝くコードを出現させつつ変身のワードを叫んだ。




