いざ決戦の海へ
柊未弦とその父輪廻はエレベーターで地下に降りていた。一週間経ったため約束通り刻矢を迎えに行くためだ。
「なあ親父。刻矢死んでねえよな?」
「そればかりは私も解りかねるよ。自分の目で見届けてやると良い」
二人は最下層までたどり着く。空洞全てが赤い結晶でできている場所。半永久ダイナモで心を具現化する空間だ。ここでは飲食が無くても生きる事が出来る反面、考えた事や心の奥底にある物を強制的に引き出してしまう禁断の地。下手をすれば精神が崩壊してしまう場所だ。
未弦と輪廻は刻矢を探す事にした。もしこの空間で負けたならばナイトメアとしての消滅――刻矢の死が待っている。必死になって呼び掛けるが刻矢からの返事は無い。
「おい、嘘だろ――」
「いや、見てみると良い。あそこに居る」
輪廻の差す方向には確かに刻矢が居た。ダイヤモンドを生地にした様なコートに覆われており、半永久ダイナモの中で激しく輝いている。
「刻矢!」
父の未弦の声と輪廻の存在に気付いたのか刻矢が走りながら近寄ってくる。
「よう親父、お爺ちゃん」
「刻矢、何だその姿は!?」
「三つのコードを合体させて書き換えた」
「あ、あり得ねえ……」
刻矢は変身を解き元の姿へと戻る。更に証拠としてダイヤの様に輝くコードを見せてくる。単体でイマジナリゼロの領域に到達するコードを創った。未弦はその事実を認めざるを得ない。
刻矢は既に製作者の意図すらも超えた物を創ってしまった。姫陽といい親を超えてしまったなと未弦は嬉しさの反面寂しさがある。
「美しいコードだ。恐らく、これはカラドリウスの力とイマジナリゼロの力を混ぜ合わせた物だろう。これ単体でコードの真の力が使えると考えても良い」
「今の俺なら、通常のネオとも戦える気がする。イマジナリゼロ妨害の準備は出来てるのか?」
「ああ、世界はパニックだね。セフィロト社は事実上倒産に王手を掛けられた。釈明不可能なほどにね」
輪廻が笑うと刻矢はネオとクリストファーを同時に倒すなら、セフィロト社の信頼が失墜した今しかないと考える。コードの製造方法を知っているクリストファーに逃げられ、鞍替えと建て直しをされたら厄介だ。インフィニティコードという物の情報に踊らされ、強大な力を欲しがる企業は幾らでもいる可能性があるからだ。
刻矢達は急いでエレベーターに乗る。今度こそネオとの決着を。コードの因縁を今こそ断ち切る時だと考える。エレベーターは上っていき地上を目指していく。
扉が開くとそこには仲間館が居た。姫陽と麗那にクロエ。悠翔と錐彦、そして陸人だ。何故かいつかのギャンブラー・サルヴァトーレまで付いてきているが。
「お前達――」
「そろそろ決着だと聞いてやって来ました」
「久しぶり刻矢」
刻矢は二人とクロエを優しく撫でる。懐かしい感覚に二人と一匹は身を委ねている。
「ようトキ」
「元気だったか刻矢」
「流石に君は死なないよねえ」
悠翔と陸人、錐彦はそこまで心配していなかったらしい。刻矢と握手して喜びを分かち合っている。
「で、何でセフィロト社のお前が居るんだ?」
刻矢は敵幹部のハズのサルヴァトーレを睨むが、本人は気にせず受け流す。
「一週間暇だったからこいつ等の師匠やってたんだよ。そしたら見込みがあるから楽しくてねえ。あと、スキャンダルでセフィロト社に興味が無くなった」
刻矢はサルヴァトーレの掌返しについ笑ってしまう。セフィロト社に協力するのはあくまで新世界が見たいからであって、見られないならば協力する気など更々無いと言いたいらしい。
サルヴァトーレはこういう男だったと刻矢は思い出す。あくまでも興味とギャンブル大好き人間で、サルヴァトーレその物には悪意が無いという事を。
「で、お前さんはどんな世界を作ってくれるんだい?」
「大きく変えるぞ。今までのルールが通用しない新世界だ」
「新世界か、良い響きだねえそれ。じゃ、俺カラドリウスに付いていくんでセフィロト社抜けるわ」
簡単なノリでサルヴァトーレが仲間になり、更には雇い主であるセフィロト社を辞職してしまった。彼にとって給料や仕事はどうでも良かったらしく、あくまで利害の一致だけの関係だったらしい。
「ギャンブルはどうするのですか?」
「また資金をコツコツ稼ぐさ」
「目的が手段になってるわねこいつ」
これでジェネシスナイトメアは刻矢と悠翔、サルヴァトーレも含めて三人。相手は幹部だけならば五人だが、こちらはサルヴァトーレとクロエを含めて七人と一匹だ。勝算はある。
輪廻によると、戦える者達は柊家が所有するインフィニティコード引き上げ用に造ったタンカーに乗っているらしい。刻矢と姫陽の母彼方や麗那の母英理、更には未弦まで乗る様だ。相手は腐っても世界企業。戦力は多いにこした事はない。
未弦も含めた八人と一匹は、最後の戦場へ向かうために港へ向かった。




