二人の夢想家
世界一深いマリアナ海溝。そこには五つの豪華客船が浮かんでいた。甲板には全身を武装した集団と無人兵器、様々な色のオーラを纏った子供達が辺りを警戒している。
ある船の船長室で二人の少年が楽しそうに会話をしていた。一人は元セフィロト社社長のネオ。もう一人は学者肌の男だ。見た目は高校生くらいだが、外見年齢とは明らかに違う雰囲気がある。
「イマジナリゼロがほぼ使えなくなった、ねえ? まあ、私達にとってはそれすらも想定済みだが」
学者肌の男がくくっと愉快そうに笑う。計画を頓挫させたつもりが、実は世界の方が彼等の掌の上で踊らされていた事に笑いを隠せないらしい。
全ては計画通り。コード自体も世界に対するデコイに過ぎなかった。柊刻矢という最後の鍵も自分達の予定以上に成長してくれた。すでに彼等はとっくの昔から、インフィニティコードに手が届く場所に居たという事も知らずに。
「僕は刻矢にイマジナリゼロがアークの真の力だと一言も言ってないけどね。イマジナリゼロは刻矢を再度絶望させるための付録で、彼等は僕がどうやって世界中の力を使いこなせたかという所に焦点を当てるべきだった」
ネオが天使の様に微笑む。彼の言葉通りだと思ってはいるものの、ネオ自身ここまで簡単にいくとは思ってもいなかった。
「ところでクリストファー。君はかつてインフィニティコードの力で、確かに不滅と強大な力という願いを叶えたのだろう? ならば何故欲しがるんだい?」
ネオが目の前の男をコード製作者の一人の名で呼ぶ。とても二〇年以上前にコードを作ったとは思えないほど若々しく、明らかに当時学生だった頃から時間が経っていない。
「今はドラゴンだ。別にインフィニティコードが欲しいわけではない。明確な意思を持ったあの子を解放したいだけさ。解放後は、大切に使うのならば別に刻矢や君がどう使ってくれようと構わない」
クリストファー――ドラゴンがいとおしい子を想う様に解放を強く願う。彼にとって未弦と一緒に生み出したインフィニティコードは我が子も同然だ。
その気になれば第二第三のインフィニティコードを作る事も可能だったが、たとえ自我を持ったとしても初期とは別物。あの子ではない。それほどまでにドラゴンは愛していた。
「それは誓うさ。僕達は君と違ってインフィニティコードが無いと再び死んでしまう。アダムス家が一度滅びた時、救ってくれた君には感謝してるけどね」
「君達みたいに大人達の都合で命を奪われてゆく子供達を救わねばな。インフィニティはそのためにコードを作り替え制限を設けた。子供達に敵を淘汰する手段を与えるために」
ドラゴンが青春時代を思い出し涙を流す。
かつて未弦達やインフィニティコードと一緒に旅をしていた頃だ。かつてはコードなど存在せず飢えや争い、病で数々の子供達の命が失われた時代。クリストファーだった彼は、二度とあの時代に戻してはいけないと考えている。たとえ親友達と敵対してでも守りたい物が彼にはあった。そんなクリストファーの心に反応したのか、自我を獲得したインフィニティコードと一緒に世界へ反乱したが失敗した。
それからドラゴンとなったクリストファーは誓った。子供達に犠牲を強いる世界に二度と負けないと。ネオ達の様に社会に殺されていく子供達を生み出してはいけないと。たとえ、子供達をエゴで変身させるコードが危険な物であったとしても。
「私は未弦の唱える遅すぎる平和を認めない」
「僕はナイトメアを頂点とした新世界を創る」
人間を辞めてしまった二人は新世界の創造を誓い合う。世界を敵に回してでも叶えたい願いがある。自分のエゴを肯定しているからこそ二人には迷いが無かった。




