幻影と現実の狭間で
柊刻矢と柊輪廻はエレベーターで下に向かっていた。景色は海しか見えず徐々に暗くなっていくが、ある一定の深さまで行くと赤い光が強くなっていき全体像が見えてくる。
刻矢は眼下に映る景色に見覚えがあった。パンサーが町に来た時避難した地下の町だ。巨大な半永久ダイナモの塊が赤く町を照らしており、町その物も様々な色に輝いている。
「柊家の島と星神町って地下で繋がっていたのか」
「そうだね。ちなみに、地下のこの町の名はクレイドルと呼ぶ。地上が何らかの要因で住めなくなった場合、最終手段として地上を放棄するために私が設計した人類最後の方舟さ」
地上を放棄するために造られた町。輪廻の言葉で刻矢は地下の町が何故生まれたのか。その役目は何なのかをようやく理解する。輪廻は人間達による潰し合いという最悪の事態も含めて予測していた。ナイトメアコードという息子の発明を基にした兵器で的中してしまったが。
「万が一環境や権力が偏った保険として、地上のテラフォーミング機能とあらゆる兵器もあるがね。使わない事を祈るが」
輪廻の言葉はあまりにも重かった。権力が偏る――刻矢はこの場合セフィロト社が地上を支配した事として考える。使わない事を祈るという出来れば使いたくないと取る事が出来る言葉は、一度使えば恐らく多くの犠牲者が出るという意味だろう。ナイトメアかどうかも関係無く無差別に葬り去る可能性もある。
刻矢は星神町が予想より遥かに恐ろしい場所だと知り震えてしまう。そんな孫を輪廻は優しく手を握る事で落ち着かせる。
「ネオに勝たせはしないのだろう? ここを未来永劫封印するにはそうするしかない。第二第三のネオやクリストファーが誕生しなければという話だが。君には力の恐ろしさについて正しく知って欲しかった。怖がらせたのなら許してくれ」
「大丈夫だ。クレイドルは絶対に使わせない」
刻矢は大切な人達を頭の中に思い浮かべていた。今では両手で数えるには足りない人達が世界中にいる。彼等を守るにはセフィロト社という大きな力を潰さなければいけない。刻矢は強く誓った。
エレベーターが地下の町を過ぎ更に下層へと向かう。光は内部以外無くなる。しばらくすると目的地の場所についたらしくドアが開く。
「ここが柊家の最下層にして闇だ」
終着点は全体が赤い光の結晶――半永久ダイナモその物で造られた巨大な空間だ。刻矢は到着した時からめまいを感じついには倒れてしまう。
「コードを持つ君には居るだけで辛いだろう。コードの力の源が辺り一面あるのだから」
「俺はここで何しろと?」
「ここに一週間滞在してもらう、ただそれだけだ。腹も減らないし喉も乾かない。好きにして構わない」
刻矢は辛さはあるものの簡単だと考える。半永久ダイナモは人体に無害。おまけに飲まず食わずでも生きていける空間ときている。クロエと出会う前から、飲食が出来なかったサバイバル経験をした事のある刻矢にとって楽勝だ。
「ただ、周りにある物がナイトメアコードの原料である事を決して忘れるでないぞ刻矢。私が迎えに来る時には生きて再会する事を願っているよ」
輪廻は笑顔で刻矢に手を振りエレベーターで去っていく。刻矢は無理して笑いつつ立ち上がると、半永久ダイナモでできた空間の奥へと向かっていく。
「上等だ。俺は更に強くなってみせる。たとえ相手が神の座に王手を掛けている奴でもだ」
すると、刻矢の意志に反応したかの様に景色が揺らめき変化していく。徐々に見えてきたのは、夕暮れの田園風景に石造りの家が建っている小さな村だった。刻矢は思い出す。確かここは最初にナイトメアという存在と戦った場所だという事を。
刻矢の記憶通り、目の前に無数の人影が出現する。全員がボロボロの服を着ており、頭を隠している札と手を前に出して跳ねている事が特徴だ。
「出たなキョンシー」
刻矢が最初に戦ったタイプのナイトメアを懐かしそうに見ている。かつてはナイトメアの毒素という物が体内に無かったため殴っても倒せず一方的に噛まれ続けた。だからこそ、かつては逃げるしか方法が無かった。
しかし、今の刻矢は違う。様々なナイトメアとの戦闘経験と知識がある。刻矢は掌から白い光を放ち二丁の銃へと変化させると、キョンシー達にかつての恨みを弾丸へ込めつつ撃ち殺していく。キョンシー達は呆気なく霧散し景色ごと消滅する。辺りは赤い結晶の空間に戻り再び静寂に包まれる。
「昔の俺だと思うな」
刻矢は満足かつ余裕の表情だが、それすらも見計らったかの様にまた景色が変わる。今度は全てが水の世界だが呼吸が可能で、目の前には刻矢の予想通りライオンと魚を二で割った白のマーライオンが群れで泳いでいる。
「こいつらは大人しいから放置だ」
刻矢の記憶が正しければ、ナイトメアにしては珍しく人を襲わず喰わない存在だ。しばらく放置してると、景色が元に戻りマーライオンも消えている。
更に景色が変わると、今度は満月が照らす西洋の墓場に立っていた。相手は初のオリジナル。見た目は人間の貴族だが長い犬歯の生えた存在だ。
「厄介な存在が出てきたじゃないか――なんて言うと思ったか?」
刻矢は目の前の男に、頭と心臓へ一発ずつ発砲し血肉ごと吹き飛ばす。血の色をした塵となって消えていき世界は元に戻る。
「これなら一週間は楽じゃないか」
「言ってくれるじゃないか柊刻矢」
景色が戻ると同時に聞こえた声で、刻矢の背筋が凍り付いてしまう。刻矢にとって絶望の象徴。本来ならば居るハズもない彼の声がした。刻矢はまさかと思い振り向く。
そこには全身純白の天使が存在した。七つの翼と頭の輪を持つナイトメア。何故奴がここに居ると、刻矢は目の前の現実を疑ってしまう。
「ネオ……アダムスだと?」
「何が楽勝なんだい? 君は僕に負けたばかりじゃないか」
ネオが笑顔のまま穏やかな声で刻矢に語り掛ける。刻矢は目の前の光景が信じられなかった。柊家の敷地に何故こいつがいるのか考えある結論に至る。
「そうか、お前はダイナモが生み出した幻だ。本体がここに居るハズがない!」
刻矢が心を納得させるため自分に言い聞かせる。目の前の奴は幻だ。そう誤魔化そうとするが、目の前のネオのオーラと力の強大さが刻矢の敗北という恐怖心を蘇らせていく。
「じゃあ、君が言う本物って何なんだい? 僕が偽物だという根拠は? それすらも理解出来ず君は僕にまた負ける。それが運命だ」
ネオが指を鳴らすと、紫に輝く『Scorpion』のコードとオレンジの『Cross』コードが空洞を埋め尽くさんばかりに出現する。コードはネオのオーラを吸収して具現化し、スコーピオンやクロスという強力なナイトメアとなっていく。
「やってやるさ。俺は何度でもお前に挑み続ける。お前を神の座から引きずり下ろしてやる!」
刻矢は三つのコードを出現させ、金のベルトと白く輝く鍵へと変化させる。ベルトのバックルを開いてから鍵を回し再び閉める。
「ハイパーコード・オン!」
刻矢は己の恐怖心を克服するため叫びつつ、目の前の敵へと向かっていった。




