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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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セフィロト社の本性

 柊刻矢は目を覚ました。場所は柊家のメディカルセンターだ。バーチャルで人工的な海岸と砂浜を再現した場所で、辺りからはさざ波の音とカモメの鳴き声が聞こえてくる。刻矢は非現実ではないと知ってても穏やかな世界だと思った。

 父の言葉でやるべき事は決まった。インフィニティコードで全コードを書き換えるだけじゃなく、セフィロト社の信頼を失墜させネオの力を削ぐ。失敗すればセフィロト社はインフィニティコードを手に入れ世界を書き換えてしまう。

 世界に喧嘩を売るなんてとんだ大罪人だなと刻矢は自嘲する。信頼されている世界企業に戦いを挑むという、勝ち目の無い戦いを挑むからだ。

 それでも自分が――自分達が創り出す新世界を見届けなければならない。たとえ、多くの人間から悪党と罵られたとしても。

「おはよう刻矢」

 穏やかな声で刻矢は気付く。普段は自室で引きこもっているハズの祖父の柊輪廻が目の前にいる。

「お爺ちゃん?」

 祖父が笑顔でうなずく。良く見ると側には父の未弦が安心した表情で寝ている事に気付く。

「刻矢、君はどんな世界を創りたい?」

「セフィロト社の信頼を失墜させたうえで今のルールを破壊する。そしてインフィニティコードで全ナイトメアのコードを書き換えた新世界を創り出す」

 刻矢の言葉を輪廻が真剣に聞いている。刻矢を孫や現当主ではなく、一人の人間として認めているからだ。輪廻はさてと前置きをしつつ刻矢に何かを語る決意をし始める。

「聞かせる時が来た様だね。奴らの目的やそもそもコードという物について。始まりは二人の男だという事は未弦から聞いているね?」

「ああ、親父とセフィロト社研究部門の主任クリストファーだ」

 輪廻は刻矢の言葉にうむとうなずく。理解が早くて助かるらしいが、今まで穏やかな顔とは異なる真剣な表情となり刻矢を見つめる。

「では、コードとはどうやって作るか知っているかな?」

「半永久ダイナモにコードの基となるデータを書き加える事だ。ダイナモは人体には無害だから肉体にコードを加える事が可能らしい。一つのコードにつき掌サイズのダイナモを必要とするが」

「その通りだね。そして、これから話す部分はセフィロト社の持つ闇その物と言っても良いだろう」

 輪廻が刻矢の知識に感激する。よくここまで集めた物だと。

 そもそも輪廻が語った半永久ダイナモは息子の柊未弦が発明品した物の一つで、人工有機物で生成された結晶であると同時に発電物質でもある。単体では何も出来ないうえに無害だが、機械に取り付け一定の条件を満たす事で半永久的にクリーンな発電が可能になる。

 そのため星神町では付け替えや生成が簡単で、更にはコストも石油より遥かに安い半永久ダイナモで家庭や施設単体での発電を可能にしている。

「半永久ダイナモはコードを生み出す装置のエネルギー源にもなるが、実はコードを身体に定着させる事自体は半永久ダイナモさえあれば良いのだよ。たとえば、食品や弾薬に混ぜて摂取させるとか。あとは宇宙からオリジナルとジェネシス以外に効果のある、コード・オンと同様の効果を持つ電波を宇宙から流せばどうなるか解るね?」

 刻矢の顔が険しくなる。食品や弾薬に混ぜたダイナモをコードごと摂取させる。半永久ダイナモは人工有機物でしかも無害。加えてナイトメアへのオンオフも宇宙から自由自在。食べようが傷付こうが結果は同じ。途方もない技術と計画性だ。

 もしかしたら、ほとんどのナイトメアはこれで変化した存在なのではないかと刻矢は考える。コード・オンも自由自在ならば、エゴを無理矢理引き出す事も可能かも知れない。国への支援物資や医療、戦争での新型兵器と称し万単位で人体実験を行っていた可能性もある。

 セフィロト社が善の面もあると考えたが、表でも知らないうちに悪事を行っていた事は予想外だった。刻矢はそのやり方に怒りに震えてしまう。

「理解した様だね。セフィロト社は慈善団体でも無ければただの資本主義の企業でも無い。地球単位で人体実験を行っているテロリストだ」

「これがセフィロト社の闇……」

「ちなみにナイトメアの毒や異世界という物の正体は、ナイトメアの体内で生成されたコードの混じっている半永久ダイナモによる物だ。体内に蓄積すればいずれ大人でもナイトメアに近い存在へと変化する」

 どのみちナイトメアが増え続ける。ならば、セフィロト社のやり方をリークしたうえで世界規模のナイトメア化というパンデミックを止めるしかない。刻矢はようやく相手の根本的な倒し方を理解する。

「少なくとも、その電波を発する衛星を破壊すればナイトメアは減少する」

「その通りだね。ダイナモは勝手に分解吸収されコードはそのままになるが、人体に害は無いからこちらは放っておいて良いだろう。あとは、成分データ等を世界へリークする事も含め我々がするさ。足がつかないようにね」

 祖父の輪廻が協力してくれるという。これで刻矢はセフィロト社をチェックメイトに追い込めると確信する。もっとも、問題は残るネオやサルヴァトーレも含めた六体のディエス・イレをどうするかだが。

「何故そこまで?」

「君の応援もあるが、我々科学者は人類に対し知識を披露し発展に協力する生き物だ。決してナイトメア達が居る世界ではない」

 刻矢は輪廻の言葉に安心する。飾り気は無いが彼らしくて信頼出来る物だったからだ。

 刻矢は再び前に進むため床に足を置く。久々の歩行のせいなのか上手く歩けない状況だ。祖父の輪廻に支えられつつ、未だに幸せそうな表情で寝ている未弦を蹴って無理矢理起こす。未弦はあまりの痛みに理解出来なかったらしく辺りを見回している。

「お、おう刻矢戻ってきたか」

「ああ戻ってきた。だが、まだ闘えそうにない」

「それなんだが、柊家には短期間で強くなれる裏技があるんだ。試してみるかい?」

「おい親父まさか、刻矢にあれやらせる気か!?」

「解った」

 輪廻に手を引かれ刻矢は連れ去られていく。未弦は不安な表情をしつつ息子の無事を祈った。


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