蛇のギャンブラー
柊姫陽と神宮寺麗那、クロエは変身した状態で数十の敵と戦っていた。場所はかつて港や空港として利用されている南区だったが、今では大量のナイトメアのせいで景色が変化している。風景は和風の庭園や西洋の古城等で塗り潰されており元々の面影など無い。
「何なんですかこの数は!?」
姫陽は銃剣装備の大隊として戦っていた。一体ずつを銃でしとめ、接近した敵を串刺しにするという戦法で数を少しずつ減らしている。
「あたしにも解らないわよ!」
麗那が高速で間を縫う様に敵を刻むと、ナイトメアは次々と人の姿に戻っていく。
二人と一匹は刻矢が変わってしまった原因を知るために、刻矢が最後に居た場所へやって来ただけだった。しかし、待ち構えていたかの様にコードを持った人間に襲われてしまい今に至る。誰にも連絡していないため仲間は来ない。二人は物量に少しずつ疲労を見せ始めていた。
「ピンチだねえお嬢さん」
二人にとって聞いた事のある言葉と同時に、自然では生み出せない極彩色の液体がナイトメア達へと降り注ぐ。ナイトメア達は苦しみながら倒れ変身を解除していく。
「スリリングな戦いだなあ。何かのアトラクションか?」
「あんたその声、サルヴァトーレ……なの?」
麗那が思わず懐かしいギャンブラーの声に振り向くが、ナイトメアとしての姿を見て言葉を失う。姿は知っている人型ナイトメアとはかけ離れた物だった。正確にはもはや人型ですらない。
確かに名乗っていたスネーク――モチーフの蛇は入っている。何百メートルかはある極彩色の大蛇の姿だが、全身からムカデの脚の様に五指の腕が生えている。
「キモッ!」
言葉通り麗那がサルヴァトーレのナイトメアとしての姿を見た第一印象は、「何この気持ち悪い生物!?」だった。自信の知っている蛇と姿も大きさも何もかもが違う。姫陽も若干引きぎみらしく、クロエですら関わり合いになりたくないと逃げている。
「キモッて酷過ぎるだろ!」
「じゃあ、あんたの姿鏡で見なさいよ!」
「これでも気に入ってんだよ……って、その声カラドリウスの連れの女か?」
手が生えた大蛇が麗那に尋ねる。オーラで姫陽は解っていたが、麗那がナイトメアになった事は知らなかったらしい。
「ナイトメアという形で覚悟を決めたのか。なるほどなあ。コンパスのナイトメアか?」
「タキオンよ!」
サルヴァトーレの本気とも冗談とも解らない発言に麗那は若干キレかかる。同時に安心もしていた。ナイトメアになっても性格は相変わらずだという事に。
だが、こいつは軽口で見た目はものすごく悪いがセフィロト社の幹部だ。姫陽と麗那は気を引きしめつつ身構える。
「何しに来たのよ?」
「暇だったからカラドリウスと戦いに来た」
彼の思考は単純だった。どうやら、遠路はるばる刻矢と戦うためだけにやって来たらしい。刻矢を探しているのか辺りを見回しているが、彼は刻矢が正気を失った事を知らない様だ。
「あのさ――」
麗那はサルヴァトーレに今までの経緯を語り始める。刻矢が何者かに襲撃されて壊れてしまった事と、ここが刻矢を見付けた場所だという事を。
「多分、セフィロト社の社長ネオ・アダムス辺りだろう」
「ネオ、そいつが犯人なのね?」
麗那が刻矢を壊した張本人の名を聞き復讐を決意するが、サルヴァトーレは人差し指を軽く振りつつ「チッチッチ」と言う。
「ネオは強い。お前やそこのお嬢さんじゃ勝てねえ。俺を倒せるくらいでも怪しいぞ? ま、俺はやる事無いししばらく寝てるから」
サルヴァトーレが変身を解除しイタリア人の少年へと戻る。そのまま伸びをしてから横になりあくびしながら寝てしまった。
「ねえ、こいつ倒しちゃわない?」
「さすがに可哀想ですよ」
姫陽と麗那も変身を解除すると景色が元通りになる。放置して帰るのも罪悪感で痛むため、麗那は車を呼んで連れて帰る事にした。




