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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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受け継がれし信念

「おや、珍しい客が来たね」

 柊家が所有する島の最上階で、かつて当主だった柊輪廻が息子の未弦を見て微笑む。白衣を着た若々しい姿をしているものの実年齢は孫が十数人もいるほど高齢だ。

「親父、頼みがあって来た」

「刻矢やかつて君が創ったあれの事だね。私には全てお見通しさ」

 未弦は実の父親に用件を言い当てられお手上げのポーズをする。かつて天才と呼ばれた自分が子供の頃から全て勝っていた父親。昔から、科学者というより革命家と呼ぶ方が相応しい存在だった。

 だからこそ、未弦は父の輪廻博士を頼った。息子を救うために。更にはインフィニティコードの制御方法を聞き出しアークを倒すために。

「残念だが、インフィニティコードの方は理論上刻矢かセフィロト社社長のネオでしか制御不能だ。取り出す方法ならば既に考えているがね。問題は刻矢だ」

 まさか、先にインフィニティコードが制御不能だと返されるとは思わなかった。よりにもよって、自我が崩壊した刻矢と最悪なナイトメアしか使いこなせないという結論だ。

 つまり、刻矢が元に戻らない限りこちらからはインフィニティコードへ手出しが出来ない。未弦はマリアナ海溝に沈めている事がせめてもの救いだと感じていた。

「刻矢は柊家の技術で辛うじて延命はさせてある。状況は深刻だがね」

「ちょっと待て! 延命ってどういう事だ!?」

 未弦には理解出来なかった。刻矢を治しに来たつもりが、延命という重い言葉が父の輪廻の口から出てきたからだ。そんな未弦を見かねたのか、輪廻はやれやれと首を振る。

「君は自分が創った物の性質について復習すべきだと思うがね? ナイトメアコードはエゴ――夢や願いを力の源としている。ならば、今はそれによって蘇った刻矢に自我が無いから力の供給が無い。まさか、病院で何とかなると思っていたのかい?」

 輪廻の冷静な言葉に未弦は背筋が凍りつく。今の刻矢に自我が無いという事は、ナイトメアとしての存在の消滅を意味していた事に今ごろ気付いたからだ。あと少しで刻矢を死なせてしまったかも知れない。そう考えるだけでゾッとした。

 柊家に刻矢を預けていなければ、刻矢は今まで倒してきたジェネシスナイトメアと同じ末路を辿っていた。未弦は己の選択に後悔してしまう。

「ほ、方法はあるのか?」

「一つだけあるかも知れない。というのは、あくまで臨床実験をした事が無いという意味だ。失敗すれば刻矢は二度と目を覚まさないだろう」

 未弦は輪廻の言葉を理解した。これからやろうとするのは、科学者としても倫理的にも踏み込んではいけない領域。失敗は許されないし、そもそも成功するかすらも解らない。輪廻からの良心的な最後通告と取っても良いだろう。

 しかし、未弦は刻矢を諦めるつもりなど無かった。かつて刻矢は、文字通り自らの命を賭けて一つの国を心を救ったという事実がある。あの時人々は刻矢を救うため一つになれた。刻矢やアフガニスタンに居た人々に、諦めかけていた人類の可能性を再び見出だした。

 インフィニティコードにすら打ち勝てるかも知れない奇跡の絆――イマジナリゼロ。刻矢は姫陽と共にそれすらも実現した。

 息子の刻矢は既にかつての自分を超えている。未来を切り開いた子供を死なせてはいけない。絶対に戻らせると改めて誓った。

「親父、何をすれば良い?」

「理論は簡単だ。イマジナリゼロを一度繋いで刻矢と関わった者達に修復を手伝って貰えば良い。もっとも、敵の強さという真実を知ったトラウマはそう簡単に消せないがね」

「ならば受け止めてやるさ俺達が。刻矢は一人でそれをやってのけたんだ。あいつに出来て俺が出来ないハズがない」

 未弦の言葉に輪廻が腹を抱えて笑う。どうやら相当ツボにハマったらしい。耐え切れなかったらしく今度はたまに転がりながら手で床を叩いている。

「何か腹立つな」

「いやすまない。まさか若い頃の私とほとんど同じ事を言うなんて、ククク……!」

 輪廻は親として心の中では嬉しかった。未弦がかつての償いからではなく自らの意思で歩み正しい道へ向かおうとしている事が。これは私も久々に動き出さねばなと輪廻は両手を腰で構え歩いていく。

「おい、何処へ行くんだ親父!?」

「私の孫を救うために私達の戦場へ向かうのさ。私をなめるなよ小僧。君に一度家督は譲ったが、科学者としての全てを見せたわけではないぞ」

 二人は刻矢という一人の命を救うために、生の心に介入するという禁断の領域へと踏み込んでいく。刻矢をもう一度死から取り返すために。二人の科学者は己のプライドを賭けて進んでいった。


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