戻らないココロ
柊刻矢がネオに敗北してから三日経過した。姫陽達が携帯のGPSで発見したものの、彼女達が知っている刻矢は既にいなかった。
見付ける途中でクロエを拾ったが彼は最愛の猫にすら反応しない。何があったか問い掛けても語ろうとしない。刻矢という人間の心は壊れてしまったのだ。
刻矢は中央区の病院で預かる事になった。食事も摂らなくなった彼が衰弱死する事を避けるために両親が決めた事だ。毎日話し掛けても触っても反応が無い。まるで、魂が抜け落ちたかの様に。
姫陽と麗那は、クロエは刻矢の居る病棟にやって来た。部屋にたどり着きドアをノックするが反応は無い。二人と一匹は遠慮無く中へと入った。
「兄さんごめんなさい。勝手に入っちゃいました」
「刻矢、また来たわよ」
二人が刻矢に声を掛けるものの、心が真っ白になった彼は反応せず上を向いたままだ。
「今日は色々あったのよ。ひなちゃんがクロエと一緒にお昼寝してたのよ。可愛かったわ」
「もう、麗奈さん!」
麗奈が思い出すように笑うと姫陽が顔を赤くして怒る。クロエは姫陽の手から離れ刻矢の腹へ飛び乗ったが反応は無い。麗奈達は世間話をするが徐々に暗くなっていく。自分達の知っている、笑いながらからかう刻矢とは別人になってしまった。
「ねえ刻矢。あの日何があったの? 何があんたをここまで変えてしまったの? 最後に送ったあのメールが関係してるの? あたしには、解んないよ……」
麗奈が刻矢の手を握り締めながら大粒の涙を溢す。姫陽も一緒だ。二人は声にして泣き出す。
悔しかった。悲しかった。目の前の彼は笑う事も慰める事も出来なくなってしまった。刻矢を救う方法が何も思い付かない。どうすれば戻ってくるのか解らない。
クロエも悲しそうに鳴くが刻矢は撫でてくれない。刻矢の戦いを見届けたからこそ理解していた。刻矢を変えてしまったのはあいつだと。それを二人に伝えようとするがクロエは喋る事が出来なかった。刻矢をまた救う事が出来なかったのが悔しかった。
しばらくして、二人と一匹は刻矢を残して去っていく。現代の医療ですらどうしようも無くなった彼は、今も心があの日の絶望に囚われたままだった。




