生きたかった少女
「あー、人が居ないせいで暇だなあこの町は。あんたもそう思わないソイル?」
人の気配がしない星神町で、踊り子姿の少女――パンサーがあくびしながらもう一人の男に聞く。二メートル以上はある巨体の筋肉質な男で、緑の短パンだけしか着ておらず茶褐色の肌を晒している。
「俺クロスの残骸探す。暇違う」
ソイルと呼ばれた男が、片言な言葉でパンサーに返す。それを聞いたパンサーがため息をつき、獲物を見付けるべく辺りを見回し始める。
最後の獲物を西区で切り刻んでから二日経ったにもかかわらず、今は人の気配が全く無い。どういう事だと考えてはみるが理解出来ない状況だ。
すると、向こう側から六人の人影が見えてくる。パンサーはそのうちの二人を知っていた。カラドリウスと裏切り者のフェニックスだ。極上の獲物が自らやって来た。その事実にパンサーは思わず舌なめずりをする。
「ようディエス・イレ」
「へえ、あたし達の事知ってるんだ?」
カラドリウス――柊刻矢が友達へ挨拶するかの様に気さくな挨拶をする。
パンサーは笑っていた。わざわざ最速のナイトメアである自分の所まで殺されに来た彼等を愚かだと。
「俺達はお前らに負けるつもりはないし負ける気がしない」
刻矢達一行が全員ナイトメアコードを出現させる。パンサーはコードを見ても驚きはしなかった。『Caladrius』と『Phenix』、『Scorpion』の能力は知っている。しかし銀色の『Legion』と星で輝く宇宙に似た『Tachyon』、迷彩色の『Arms』のコードは見た事が無い。それでもジェネシス最速のパンサーに勝てるとは思っていなかった。
「ソイル、やるわよ!」
「解った、やる」
パンサーが蹴りから緑の『Panther』のコードを出現させ、ソイルが地面を殴り付けると紫の『Soil』というコードが地に描かれる。
「コード・オン!」
全員が一斉に変身の掛け声を叫ぶと、世界が大きく変化していく。それだけではない。パンサーとソイルの中心が、合流を拒むかの様に激しく歪む。
「ちっ! ソイル、そっちは任せたわ!」
タッグを組めない事が悔しいのか、パンサーは舌打ちしながら異世界に引きずり込まれる。
パンサーの相手は刻矢と麗那、そして錐彦だった。世界は満点の星が綺麗な夜の砂漠で、豹の獣人に変化したパンサーの目の前にはカラドリウスとスコーピオンの他に見た事がないナイトメアが立っている。
その姿は空気抵抗を無くすためか全身が鋭利な形状をしており、黒曜石の色で怪しく輝く存在だった。
「何か弱そうねその細いナイトメア」
「実戦的な形状と言ってくれるかしら」
そう言うと、黒曜石の色のナイトメアとパンサーが姿を消す。音すらも無い状態がしばらく続くが、先に姿を現したのはパンサーだった。続いて黒曜石のナイトメアが出現する。
「バ、バカな!? あたしが追い付けない?」
言葉と同時に、パンサーの全身から緑色の粒子が出現する。どうやら身体を切り刻まれたらしく、傷口から溢れ風に流されていく。
「あんたが高速ならば、あたしのタキオンコードは神速よ」
タキオン――麗那がパンサーの動きを完全に押さえ込んだ結果だった。
「確かにあんたは速かった。けどね、あたしが超えたい男に比べたらちっぽけなのよ!」
麗那が高らかに叫び刻矢を一瞥する。刻矢は苦笑いしつつ、麗那の言葉にやれやれと首を振る。
だが、麗那は速度の反動か砂の上に倒れてしまう。後は刻矢達に譲るつもりらしい。
「やりなさい刻矢、錐彦!」
「了解」
「任せなよ」
刻矢が七対の翼を生やし大空へと飛び、錐彦が弱った獲物に向けて蠍子拳の構えを取る。
「待ってよ、まだ死にたくな――」
錐彦は跳躍からの回転蹴りに加え、手足に付いたサソリの尾から毒液を噴射し威力が更に増していく。そのままパンサーをビリヤードのジャンプキューショットの様に弾き飛ばすと、上から加速を加えた刻矢の蹴りが正確に炸裂する。
「嫌だ――助けて、助けてアーク……!」
パンサーがボロボロの手を伸ばそうとするが、腕が緑の粒子となり崩れ落ちる。ついには変身の維持すら出来なくなり、最期に大粒の涙を溢しながら塵となり消滅した。




