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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
72/104

先を視る者

「また刻矢にいじめられたのか」

「いじめてない。サンドバッグにしただけだ」

 泉警視がため息をつく。

 イマジナリゼロを使い勝手に暴れて倒れた刻矢と被害者の悠翔は、未弦と泉警視に運ばれ地下都市の病院らしき所に居た。

 目の前には人を一人を収納可能な大きさのカプセルがあり、ここに入る事によって治療される仕組みの様だ。

「幾ら人とナイトメアとの感覚がずれていると言ってもな、普通は少しずつ直していく物だぞ。荒療治のイマジナリゼロを提案するべきじゃない」

 未弦も二人を撫でながら諭す。悠翔と同じく刻矢の不調の原因は、刻矢が強くなってしまった事が原因だと察しはついていた。

 ただ、当主でもあり家長でもある兄が、妹の姫陽にボコボコにされたらプライドが傷付いて無茶をしたくなるよなと未弦も刻矢の気持ちを理解していた。イマジナリコードは使わなかったみたいだが、それでも負けたら屈辱的だろうなあと未弦は考える。

「とりあえず、このカプセルに入ってろ。痛みや疲れも取れるから」

 未弦が二人を猫の様に掴むと、カプセルに無理矢理放り投げて扉を閉める。刻矢の所には見舞いのクロエを扉の上に置くという親切さだ。

 二人は医療用のカプセルの中で大人しくしている事にした。


 柊未弦と泉警視は二人を残し、建物内の通路を歩いていた。内部は光っているため地下でも明るい。

「さて、龍治。現在の勝算はどうかな?」

「唐突に何を言ってるんで――言っているんだ柊先輩」

 未弦が泉警視に尋ねてくる。泉警視は敬語が気持ち悪いと言われて相当ショックだったのか、学生時代の口調で先輩に聞き返す。

「だから、あのガキ共がパンサーに勝てる勝算は」

「限り無くゼロに近いだろ。監視カメラの映像をスロー再生しても、あれは人の追い付ける速度じゃない」

「なら、人で追い付けない速度で戦えば良いじゃないか。一応当てはある」

 未弦がズボンのポケットに両手を突っ込みながら笑う。泉警視は知っていた。先輩の未弦がポケットに手を突っ込んだ時は、予想を遥かに上回る事態を引き起こす前触れだという事を。

 つまり、勝算どころかそれ以上の物が手に入る。根拠の無い様で計算している未弦の恐ろしさを久々に見た。

「あんたは先が見えてるのか?」

「さて、どうだかな。まあ、ヒントを出すならば敗者復活戦ってやつだ。荒砂の坊やと五十嵐の小僧が更なる力を付けている中、ただ一人足踏みしていた奴に力を託したのさ」

「まさか麗那か?」

「さあな。とりあえず、パンサーはあと二、三日であいつらに潰されるだろう」

 未弦は泉警視を置いて去っていく。泉警視は彼を見送りつつ呟く。

「タヌキめ」

 刻矢達がどうなってしまうのか。泉警視にはそれすらも解らず、未弦の背中を追う事すら出来なかった。 


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