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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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妹に敗北する兄

 刻矢とクロエは地下都市のある区画に居た。町は柊家の最上階とほぼ同じ技術が使われているらしく、建物や床その物が様々な色に発光している。

 刻矢は考えていた。そもそもこの星神町とは何なのか。何故ここまで大きな場所が必要だったのか。自分達柊家とは何なのか。色々考えるが答えは出ない。

 刻矢は柊家の島から持って帰ったアタッシュケースを眺める。祖父によると、中にはナイトメアの力を応用し引き出す物が入っているらしい。らしいというのは、まだ一度も開けた事が無いからだ。とりあえず、試してみようと考え開ける事にした。

 ケースを開けると、いきなり取扱い説明書が目に映る。どうやら親切設計らしく、道具を使う前に読めという事らしい。説明書その物は解りやすい写真も含め丁寧かつ優しく書かれており、柊家の技術に詳しくない刻矢でも内容と仕組みをすぐ理解する。

 中には説明書通りの物が各機器ごとでビニールに包まれており、刻矢はその中の一つを取り出す。

 説明書が正しければ、銀色の腕輪がイマジナリゼロの余剰エネルギーを操作する『力場操作機器』だったハズだ。

 他にも機器はあったものの、残りは姫陽達用らしく刻矢には無用の物だった。そのため、刻矢はさっそくビニールから取り出し右腕に装着してみる。特に変わった様子は無いが、イマジナリゼロ使用が前提のため仕方無いと考える事にした。

「兄さん、何やってるんです?」

「姫陽か」

 刻矢が妹の言葉に反応し振り向く。姫陽は柊家の技術に感動しているらしく、小さな子供の様な好奇心に満ち溢れた表情をしていた。

「ちょっと考え事をしていた」

「何を考えていたのです?」

「この場所や新たな戦術についてだ」

 刻矢は姫陽に自分の考えていた事や新たな拡張ツールについて説明する。姫陽は兄の言葉をうなずきながら聞きつつ何かのメモを取り始める。

「なるほど、解りました」

 姫陽が何かに納得し、ケースの中にある白の腕輪を取り出し装着する。更には刻矢に向けて右手を突き出し手招きをする。実の兄に宣戦布告をしているらしい。

「良いのか? 幾らイマジナリゼロで弱っているとはいえ、俺がお前に負けるとは思えない」

「確かに、ケンカなら兄さんには勝てませんよね。ですが――」

 姫陽がそこまで言うと、指を鳴らし目の前に銀色のコード『Legion』を出現させる。

 刻矢は妹のコード名を初めて知ったが、姿形やノイズと互角に渡り合う程度の力だという事は知っている。生み出す異世界もただの草原だ。姫陽に負ける要素は無いと刻矢は考えていた。

 刻矢も右手を左へスライドさせ、純白に輝く『Caladrius』のコードを出現させる。

「コード・オン」

「このコードの真の力は、まだ誰にも見せた事が無いんですよ! コード・オン!」

「何!?」

 刻矢が驚くと同時に、二人と一匹は姿を変えつつ近未来な世界が別の世界に書き換えられる。

 刻矢とクロエはカラドリウスと巨大な猫へと変化を終えた状態で立っていた。右手に銀色の腕輪を付けた新たなるカラドリウスへと変化した刻矢は、姫陽の生み出した世界に思わず驚愕してしまう。何故ならば、最初に見た平らな草原とは真逆の光景だったからだ。

 刻矢達が居るのは荒野の渓谷だった。草木は枯れており、辺りを見回しても水分や生物の気配など何処にも無い。あまりにも最初見た光景とかけ離れた所に驚く刻矢は、次に馬の蹄の音を耳にする。一匹二匹ではなく、無数の音がこちらに迫ってくる。

「退くぞクロエ」

 刻矢は背中に七対の翼を生やして飛行し、クロエは谷を一気に登っていく。

 刻矢達が居た場所に来たのは、西部劇に出てきそうなカウボーイ達だった。全員が銀色のオーラを纏っており、見た目は人間だが彼等もこの世界のナイトメアだという事が解る。

「雑魚ナイトメアか」

「雑魚ではありませんよ」

 何処かから聞こえてくる姫陽の言葉と同時に、今度は飛んでいる刻矢目掛けコンドルの群れが襲い掛かってくる。翼を広げつつ無数の光を放って蹴散らそうとするが、統率が取れているのかコンドル達は刻矢の攻撃を全て回避しつつ一斉に体当たりしてくる。

「何だこいつら強いぞ!」

 ついに刻矢は谷に叩き落とされ、カウボーイ達の投げ縄とコンドル達によるついばみの餌食にされる。四方八方からのピストルで撃たれつつ、コンドル達が連携して襲い掛かってくる。刻矢の体力は徐々に消耗されとうとう倒れ意識を失ってしまう。


 刻矢が目覚めると、辺りは元通りの近未来な景色だった。姫陽の膝枕の上で抱き抱えられており、腹の上ではクロエが負けた事に対し不満そうに鳴いている。

「どうでしたか私の軍団指揮を可能にするレギオンのコードは?」

 姫陽が上から髪の毛を垂らしつつ悪戯っぽく微笑む。刻矢は動こうとするが、痛みとホールドされた身体のせいで立つ事すら出来ない。

「なるほど、あれがお前の真の力か。ずいぶんと悪質じゃないか」

「悪質ではなく兵法です」

 姫陽が人差し指で刻矢の鼻をつつきながら笑う。

 刻矢は今まで多くのナイトメアと戦ってきたが、まさか指揮された複数の雑魚ナイトメアに倒される日が来るとは思っていなかった。

 しかし、刻矢は納得がいかなかった。雑魚ナイトメアは、ある程度なら生み出したナイトメアの命令通りに動けるハズ。それなのに、どうしてただ操作しただけの雑魚ナイトメアに今さら苦戦したのか。

 刻矢はある結論に至る。

「まさか、さっき戦ったのって――」

「全て私です」

 刻矢ですら、まさか姿形や戦術を思い通りに変えられるナイトメアが存在するとは思わなかった。

 姫陽の変身するレギオンというナイトメアの能力は、雑魚ナイトメアを指揮する力でも無ければ強くする能力でも無い。兵士その物に変身するナイトメアだ。

 つまり、刻矢が戦ったのは姫陽の生み出したナイトメアではなく全てが姫陽本体。一体一体がレギオンというオリジナルのナイトメアだった。倒すには、全てを一度に潰すしかない。今の刻矢にそんな事は不可能だ。

 ノイズと互角に戦ってたのは、レギオンのうちの一体で手を抜いていたのかと刻矢は理解する。

「集団で戦う事を前提にしたコードか。たちの悪い冗談だ。あんなのを倒せるのは俺達の中ではユウくらいだぞ」

「実は、まだ秘密兵器があるのです」

 姫陽が左手の指で鳴らすと、今度は透明な文字で『imaginary number』と書かれたコードが出現する。刻矢はこのコードを何度も使っているから知っていた。

「イマジナリコードだと。何処で手に入れた?」

「お父さんにおねだりしました」

 刻矢は姫陽の言葉でついに壊れてしまい、泣きながら笑ってしまった。


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