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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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町の真実

 ゴールデンウィークが最悪な日に変わってしまったと、刻矢は周りのメンツを眺めながらそう思う。

 五代悠翔に錐彦、五十嵐陸人とその仲間達。更には麗那とその母親英理に加え、刻矢の両親である未弦と彼方までがリビングに居る。泉警視は部下や機動隊も揃えたらしく、ただでさえ嫌な空気が余計に重くなっている。

「なるほど、この町で一番安全な俺の屋敷を会議場に選んだってわけか龍治」

「素材も含め、強度が一番高い場所はここだったんですよ先輩」

 一見すると博士には見えないカウボーイな柊未弦と、学生時代彼の後輩だった泉警視が語っている。どうやら、警察署どころかこの町の何よりも柊邸が強い造りになっているらしい。

 実際、柊邸は強盗や空き巣の被害に遭った事など一度も無い。正確には手を出したら最後、リミットカットしたあらゆるセキュリティが殺意を持っているかの様に襲い掛かってくる。屋敷の製造やセキュリティのセット自体、彼方と未弦夫婦による初の共同作業らしい。

「で、住民は?」

「相手的に避難勧告は難しいので、自宅にあるシェルターで待機という形にしています」

「てめえに敬語使われるとキモいな」

 未弦の一言で泉警視は激しく落ち込んでしまう。流石に部下のベテラン警官ですら、警視の先輩で権威の一人とはいえ未弦の言葉は酷いと考えてしまう。

 彼方が泉警視を慰めるべく頭を撫でるが、かつていじめられたトラウマを刺激されたらしく、麗那の母である英理の方向へ逃げてしまう。泉警視にとってこの夫婦は天敵らしい。

「今回は、相手ナイトメアを防犯カメラに映ったコードから、パンサーと呼称する事にします」

 泉警視警視の部下の女性刑事が代わりに取り仕切る。呼称については特に問題はないらしく、ここに居るほとんどがうなずいている。

 パンサー――そのまんまだなと刻矢は考える。

 しかし、覚えやすく呼びやすい方が混乱を招かないため彼女の発言は肯定する。

「パンサーは現在北区を移動。目標はルートから予測して学区か、柊邸付近だと考えられます」

 女性刑事がモニターの情報を伝える。

 全員がざわめき始めるが、柊夫婦や刻矢とクロエのコンビは場数を踏んでいるためか平常運転だ。ノエルは人の心がある程度は読めるらしく、姫陽の膝の上で震えている。

 刻矢は学区に部外者が来る事はまず無いと考えたが即座に否定する。クロスという例外が存在したからだ。未だにどうやって侵入したかや、大量のコードをばらまいた方法が不明。ならば、パンサーにあっさりと侵入されてもおかしくはない。

「じゃあ、荷物纏めてあそこに引っ越すか」

 未弦が手を挙げて提案する。手を動かして付いてこいと促し始める。

 刻矢は柊家の島から土産として持って帰ったケースを抱えつつ、他のみんなと一緒に未弦に従い付いていく。

 未弦が案内したのは自室の書斎だった。多くの本棚が並んでおり、ここに来ると未弦が偉い学者だという事を全員が思い出す。好きで入ってくるのは妹の姫陽くらいで、刻矢やクロエはここに来る事は滅多に無い。

 未弦が本棚の一つを横にスライドさせると、本棚があった場所の後ろに四角い空洞が見える。

「隠し通路なんてあったのか」

「え、私小さい頃からお父さんの書斎に来てましたけど知りませんでしたよ!?」

 刻矢と姫陽が目の前の隠し通路に驚く。まさか、今まで住んでいた家に秘密があったとは思わなかったからだ。

 未弦が先導し、続いて一行が入っていく。すると、全員が入ったと同時に本棚が入口を塞ぐ。続いて全体が白のタイルからの光でライトアップされ、下へ続く階段が見える様になる。

「ここが柊家地下室だ。ちなみに、そこの本棚は人が居る限りびくともしないし簡単には壊れないぜ。他の家具でも言える事だがな」

 何と戦うつもりだと刻矢は呆れる。そもそも、それを可能にしてしまう柊家の変態技術に理論が存在するのか一度考えるが止める事にした。

 一行が付いていくと今度は分厚い扉が存在している。未弦はそれを肩で押しながら入ると、一度出てから右手を振り合図する。

「最後の奴は、扉の内側にあるバルブを閉めとけよ!」

 あの扉バルブがあるのかと、一番後ろに居る刻矢は嫌そうな顔をする。全員が通った後に閉める役になったが、扉が予想以上に重くてなかなか閉まらないうえにバルブの回転も一苦労だった。挙げ句の果てには、同じタイプの扉が通る度目の前にある。まっすぐ並んでいるのではなく円形の小部屋に複数存在し、開いてなければ来た道以外の区別が付かなかった。

 刻矢は父親に対する恨み言を言いつつも、肩に居るクロエと一緒に進んでいく。

 一人と一匹が最後に到着したのは、あまりにも巨大な空間だった。複数の近未来的な建造物が町の様に建っており、建物や空洞その物がネオンの様に輝いている。奥には太陽の代わりなのか、赤く輝く巨大な結晶が浮いている。

「何だここは?」

「どうだ、これが真の星神町の姿だ。実は、上の区画はここを隠すための殻でしかないんだぜ? 核を含めたあらゆる兵器すらも、この町は瞬時に無害なエネルギーへと変えてしまうのさ」

「これが、柊の科学技術」

 麗那ですら驚いていた。今までこんな場所を知らなかった。あまりにも自分達が知っている科学とはかけ離れ過ぎている。文明レベルで別物だと考えた。海上都市である星神町を造った柊家が優れているとは思ってはいたものの、まさか更に上の技術をまだ隠し持っていたとは思ってもいなかった。

 他の仲間や警察関係者も例外ではなく、けた違いのテクノロジーに圧倒されている。

「まさか、僕も地下にこんな世界があるとは思わなかったよ」

「俺もだ。すげえな柊って」

「何が神宮寺や俺達五代と同じ御三家だ。こんなのに勝てるわけがない!」

 錐彦や陸人、悠翔の感想もそれぞれ異なっていた。ナイトメアコードや半永久ダイナモ等を作り、海に浮かぶ町や城を造る時点で既におかしかった。まさか、地下に文明まで創っているとは誰もが思わなかったが。

 柊家所有の島に比べれば遥かに小さいが、それでも地上とほぼ同等だと考えればとんでもないスケールだ。柊未弦の引っ越すという意味を今になって全員理解する。

「じゃあ、どこでも良いから各自住んでくれ。食料には困らないだろうし」

「地上の奴等はどうなる?」

「シェルター入ってたらあっちから来るさ。パンサーが居座る限りは」

 何処まで計算通りなんだこいつはと、刻矢は恨めしそうに見ながら考える。

 ただ、パンサーの犠牲者が出にくいという事が解り安心する。後は何とかして潰すだけだと刻矢は心の中で思った。

「じゃあ、イマジナリゼロの反動で戦えなくなったお前とまだ未熟な仲間達の特訓を考えるか」

 未弦はそう言うと、笑いながら町の中へ消えていった。


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