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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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遊技場の魔女

 柊刻矢は一緒にエレベーターへ乗っている男――サルヴァトーレを警戒していた。

 彼はイタリア系の顔立ちで、黒スーツ姿のお陰でどこぞのマフィアだと言われても違和感が無い。両手の全指にある傷を見て、彼が本物のマフィアの一員だという事を確信しているが。

 身体から出ているオーラは、虹色にしては何かおかしい色。恐らく四色だと思われるが、刻矢には変な虹色としか表現が出来なかった。

「なあなあ、最上階から飛び降りたらスリルを感じられるか?」

 サルヴァトーレが子供の様にはしゃぎながら刻矢に尋ねてくる。背中に持っている札束の入ったアタッシュケースを見なければ、彼がポーカーで稼ぎ続けたラッキーボーイだとは誰も信じないだろう。

「元々死んでるのにまだ足りないのか?」

 刻矢が呆れた様に呟く。サルヴァトーレが選民思想のクロスと違って悪ではないとは解っているが、頭が悪いと言っても良いほどのクレイジーさに困り果てていた。

「足りないなカラドリウス! 人間は死ぬまでに楽しく生きる物だ。ならば、幸せを謳歌してこそ価値があるだろ!」

 サルヴァトーレが刻矢に説教すると、刻矢は今まで破滅願望があった反動か確かにそうだなと考え直す。サルヴァトーレみたいな生き方もありだと思ってしまう。

「た、確かにそうですね。あなたみたいな考えの方は初めてです」

「こんな奴がたくさんいたら怖いけどね。そもそもあんた何で死んだのよ?」

「え、マフィア同士の抗争で蜂の巣にされた」

 まるでどうでも良いかの様に、サルヴァトーレは自らの死因をさらりと流す。

 姫陽と麗那は苦笑いするだけだ。本当は、彼の話に笑える要素など何一つ無かった。

「で、死んでも良いかなあって思ってたんだけどさ、通り掛かったクリスのいう化け物人生もありかなと考えてコードを注入されたんだよ」

「動機が滅茶苦茶過ぎるわ……」

 そもそも、ナイトメアに人生という言葉を使う事自体が疑問だったが、これ以上彼と話してたら疲れてくるため麗那はあえてつっこまない事にした。

「さて、そろそろ着くぞ」

 刻矢の言葉通りエレベーターのドアが両側に開く。辺り一面白に輝く空間の中、四人は柊家の本邸へ向かっていく。

「おお、すげえ白い!」

「はしゃいでいると置いていくぞ」

「待ってくれよー!」

 遅れたサルヴァトーレがスキップしながらやって来る。それを見た刻矢は、今まで見てきたどのナイトメアよりもヘンテコな奴だなと思う。子供の様な好奇心と大人すらも手玉に取る駆け引きのテクニック。この二つを一人で両立させているとはとても思えなかった。

 四人が歩くと、遂に柊家の本邸にたどり着く。全体が純白の巨大な城で空中庭園まで存在している。

「おお、すげえ! 城だ城! 噴水まであるぞ!」

「戦いに来たんじゃないの?」

「そうだった! 腕が鳴るぜ!」

 姫陽以外が、「忘れてたのかよ!」と心の中でつっこむ。どうやら、サルヴァトーレという男は好奇心で行動が左右される人物らしい。

「おっじゃまっしまーす!」

 サルヴァトーレが当主である刻矢より先に入口の扉を開ける。あまりの礼の無さに、もうどうにでもなれと刻矢ですら諦めてしまった。

 今度は出迎えのメイドどころか執事も居なかった。恐らく、未弦が休ませるなりしたのだろうと刻矢は解釈する。

「で、強い勝負師は?」

「この子よ」

 麗那が姫陽の腕を挙げる。姫陽は一度「ええっ!?」と叫びサルヴァトーレを見つめる。

「私喧嘩できませんよ!」

「違う違う! 俺はただあんたとポーカーがしたいだけだ!」

「ポーカーなら良いですよ」

 姫陽がホッとした表情で胸を撫で下ろす。兄を重症に追いやった奴の仲間と戦ったら、力の差があり過ぎて負けると思い不安だったからだ。

 四人は城の中に入り、一階の遊戯室でポーカーの準備を始める事にした。

 準備が整うと、色とりどりのチップと未開封のカードがポーカー用のテーブルに置かれていく。姫陽とサルヴァトーレは向き合う形で座りゲーム開始を待っている。

 刻矢はまず未開封のカードを開き、中のトランプを表にしてスライドさせる。中身は完全な新品で、カードにイカサマは何一つ無いという事を両者に確認させるためだ。二人はうなずきゲームが開始する。

「アンティはグリーンだ」

 刻矢の言葉で、姫陽とサルヴァトーレは緑色のチップを自身の場に存在するポットへ差し出す。すると、刻矢がカードを五枚ずつ二人に配っていく。

「先行はチャレンジャーのサルヴァトーレからだ」

 サルヴァトーレがカードを二枚捨て、刻矢に二枚補充してもらってから指でテーブルを二回叩く。どうやら今はベットせず様子見らしい。

 姫陽もカードを二枚捨て五枚になる様補充してもらう。

「オープニングベット、黒を三枚です」

 姫陽が黒のチップを三枚重ねポットに置く。アンティの緑も含め、ベットしたチップの合計は三二五ポイントだ。

「レイズ、黒を四枚だ」

 サルヴァトーレが四〇〇点分の黒のチップをポットに置く。これで合計は姫陽より百多い四二五ポイント。どうやら勝負に出るつもりらしい。

 実は、サルヴァトーレにとって更に多くのチップを重ねるという行為は、柊姫陽に対する挑発も兼ねていた。相手が一番高いポイントである黒を積み上げたという事はブラフ――ハッタリだと考えたからだ。

 つまり、姫陽は何のハンドも出来ていないか弱いハンドしか作れていない。こちらのフォールドを狙い、今回のチップ回収を回避しようとしたのだろうがそうはいかないと考え勝負に出た。

 互いに完成したハンドをテーブルに出す。サルヴァトーレは五枚全てのスートがダイヤのフラッシュ。それに対し、姫陽が出したのは――K三枚と一〇が二枚のフルハウス。結果は、サルヴァトーレよりワンランク上のハンドを出した姫陽の勝ちだ。

「これで、あなたのも含めて私のチップは七五〇ですね」

 姫陽が勝ち誇った笑顔でサルヴァトーレに現実を伝える。

 サルヴァトーレは確かに一度負けた。

 しかし、それでも歓喜にうち震えていた。何故ならば、彼女がブラフも無く真正面から叩き潰してくるとは思わなかったからだ。わざわざ序盤で三〇〇も賭けたのはブラフではない。自身のフォールド宣言を狙っていた物だと見せ掛けて逆に挑発し、こちらが更に上乗せするのも全てが計算の内だった。

 こいつ、最初から攻めで潰しに掛かってやがる――

 彼女を甘く見ていた。サルヴァトーレは柊姫陽についての認識を改める。ただの小娘では無く倒すべき強敵。流れに乗られたらこちらが殺られる。サルヴァトーレは姫陽という女を正しく認識した。


 あれから何度も姫陽にポーカーを挑んだものの、サルヴァトーレはとうとう窮地に立たされた。姫陽はほぼ全てのチップをむしり取り、サルヴァトーレのチップは残り白五枚――つまり五ポイントだ。これでは、ポーカー参加費のアンティ二五ポイントすら払う事が出来ない。サルヴァトーレの敗北が確定した。

「参ったぜ」

「勝ちました兄さん!」

 強過ぎる――サルヴァトーレは姫陽に対し畏怖していた。強い手を引く度に、それを読んでいたかの様にフォールド宣言してから次で奪い取る。姫陽の戦い方は最早予知レベルの物だった。

 だが、サルヴァトーレは後悔していない。ここまで強いギャンブラーとサシで戦ったのは生まれて初めてだ。有り金は帰りのお金以外ほぼ無くなったものの、それでも彼は姫陽と戦えた事に満足している。

「次会ったらまたやろうぜ」

「いつでも相手になりますよ」

 二人は互いの手を握り合い、固いライバル関係が結ばれる。

 その姿を刻矢と麗那は、複雑な表情で見守っていた。


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