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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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幸運を掴み取る博徒

 神宮寺麗那は黒のフリルが付いた赤いドレスを着た状態で、柊家が所有する遊戯エリアに来ていた。ボードゲームやゲームセンター、カジノまであり光に満ち溢れた場所だ。

 刻矢と姫陽は他に用事があるらしく、帰ってくるまでの暇潰しに行ってこいと未弦に勧められ現在に至る。

「こういう服、あまり好きじゃないんだけど」

 麗那はドレスを鬱陶しそうに見つめるが、ドレスを貸してくれた彼方の好意を考えると複雑な気分になる。

 辺りには各国から来たであろう富豪や企業家達がおり、世間話や世界情勢等について語り合っている。

 普段からラフな格好をしている麗那にとって、幾らお嬢様とはいえこの区画は明らかに場違いだった。ただ遊びに来たつもりが、まさか社交の場だとは思わなかったからだ。

 最上階へ戻ろう。そう決意しエレベーターに戻ろうとすると、麗那の耳に歓喜の声が響いてきた。野次馬精神で声の方向へ向かうと、そこはカジノのポーカーをやっている区画だ。たまたま来たであろう観客の視線が、ディーラーとその相手へと注がれている。

「ねえ、何があったの?」

 麗那が流暢な英語で、近くに居たイギリス紳士風の男にヒソヒソと声を掛ける。

「ああ、日本語で大丈夫。あそこにいる少年がかなり稼いでるんだよお嬢ちゃん。ディーラーがカードを配っているから、あの男は凄いツキの持ち主だな。見てみるかい?」

 紳士は日本語が解るらしく、流暢な会話で麗那に説明する。麗那が頷くと、紳士がギャラリーに道を譲って貰いつつ良く見える場所まで案内してくれた。

 最前列までやって来た麗那は、目の前の光景に言葉を失ってしまう。自分と歳がほとんど変わらないイタリア系の男が、山の様に高くチップを重ねていたからだ。

 本当に運とハッタリだけで出来る芸当なのかと、麗那は思わず恐怖し現実を疑ってしまう。ディーラーがカードを配っている。つまり、カードの主導権はディーラーにあり、カードその物も最初から用意された銘柄の物という事だ。イカサマなんて出来るハズがない。

「そろそろ上限に達する。俺の勝ちで良いかいディーラーさん?」

「ああ、完敗だよ。君みたいなギャンブラーは久々に見た。そのチップをさっさと換金してきなラッキーボーイ」

 カジノスタッフの一人が籠付きのワゴンを用意し、男が稼いだチップを丁寧に詰め込んでいく。男の勝利にギャラリーが湧き拍手喝采を送る。麗那も拍手しながら、ワゴンを押していく男を見送った。

「どうだいお嬢ちゃん、やってみるかい?」

 ディーラーが麗那に気付いたらしく、ウインクしながら気さくに声を掛けてくる。

「止めとく。ひなちゃんにむしり取られた経験があるから」

 麗那の一言で、ディーラーと一部のギャラリーがざわめき出す。恐怖の形相で、視線が麗那へと集中している。

「ひなちゃんって、まさか柊姫陽様かい?」

「ええ」

 すると、ギャラリーのほとんどが「あの伝説のギャンブラー相手に良く生き残れたな」等と呟き始める。当の麗那はわけも解らず首をかしげているだけだ。

「まさか、今この島に?」

「両親や刻矢と一緒に帰ってるわよ」

 ディーラーが急に震え出す。悪魔がやって来たという形相のうえ青ざめている。

「すみません。口止め料渡すので姫陽様と彼方様には来ないでと言ってください。お願いします!」

 ディーラーとスタッフ達が麗那の前にやって来て土下座をし始める。

 麗那は柊家の人工島とはいえ、あの二人がここまでカジノのスタッフ達に恐れられているとは思っていなかった。

「来させなければ良いんでしょ? 口止め料なんて要らないわよ。彼方さんはともかく、ひなちゃんは刻矢と用事だから当分ここには来ないだろうし」

 麗那の言葉に、スタッフ達が「また搾られると思った」や「マシンガンはもう嫌だ」等物騒なワードを口にしつつ泣いている。

 麗那はあの二人が来て、ここでいったい何があったんだと考えてしまう。

「へえ、その二人強いのか」

 震えているスタッフ達が、再びやって来たイタリア系のラッキーボーイの言葉で止まる。

「ラッキーボーイ、幾らお前でも無茶だ! 勝てる相手じゃない! それに、あの方達は最上階の住人だから簡単に会えないんだぞ!?」

 土下座をしていたディーラーが、男を必死に説得している。

 しかし、男はどうすれば会えるかだけ考えているらしく目を輝かせている。

「じゃあ、あたしが刻矢に許可を取れば良い?」

「当主様に許可を? あなたいったい――」

「神宮寺麗那。あいつの連れよ」

 麗那が事情を詳しく書いたメールを送ると、刻矢が今から行くからそこで待ってろと返してきた。

 待つこと二分、柊刻矢が姫陽を引き連れやって来る。

「あんたが当主だったのかカラドリウス」

 イタリア系の男が、最高の獲物を見つけた狩人の目で刻矢を見つめている。

 刻矢はため息をつくと、目の前の男を警戒しつつ観察し始める。

「何の用だナイトメア」

「え、こいつナイトメアなの!?」

 刻矢の語った男の正体に麗那が驚愕する。

「そういえば麗那さんってナイトメアではないので、あの人のオーラが見えませんでしたね」

 姫陽が麗那に対し話し掛けると、ディーラーとスタッフ達が麗那の言葉は本当だったと知り一斉に逃げ出す。

 カジノ経営も大変だなあと、麗那は彼等につい同情してしまう。

「まあ待てカラドリウス。俺、今回はプライベートで来たから勝負はゲームでやろうぜ」

 男が飄々とした態度で刻矢と対等の様に話す。

「別に俺はクロスやフェニックスに何の愛着も無いんだわ。俺はただ勝負によって人生を謳歌したいだけさ」

「お前、セフィロト社の――」

「そそ、俺はセフィロト社特別幹部ディエス・イレのスネーク。生前の名前はサルヴァトーレ……何だっけな? まあ良いや。どっちで呼んでも良いぜ」

 何こいつと麗那は心の中でつい思ってしまう。今まで見てきたナイトメアの中でも、邪悪さや力を使う事に対する意欲をまるで感じなかったからだ。

 善悪で行動するのではなく、戦いその物に生き甲斐や楽しさを感じるタイプ。人としての人生が終わっているとはいえ、麗那は彼の生き方その物を本物のギャンブラーだと感じた。

「ならば、今回はお前の言葉を信じ客のサルヴァトーレとして歓迎しよう。お前に相応しい舞台に連れて行ってやる。付いてこい」

 そう言うと、刻矢と姫陽は背中を向けてエレベーターへと向かった。

「さーて、戦いに行きますか」

 サルヴァトーレと麗那は刻矢達の後を付いていき、混乱が続くカジノから去っていった。


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