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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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エンゲージ

 麗那が手際良く手洗いと消毒、止血を行っていく姿を刻矢は右手を預けつつも恥ずかしそうに見ている。クロエに噛まれた傷痕に水やアルコールが染みる度苦痛を感じてはいたものの、幼馴染みに睨まれたため何も言えない状況だ。

「これで良し」

「カラドリウスで……」

「黙りなさい!」

「兄さん。ありがとう、ですよ?」

「あ、ありがとう」

 刻矢が無理矢理とはいえ礼を言うと、麗那が頭を撫で始める。これでは誰がここの主か解らないなと、刻矢は抵抗せず麗那のオモチャにされる。周囲のメイド達は止めもせずに微笑んでいるだけだ。

 しばらくすると、開いていたドアから二匹の猫が入ってくる。クロエとノエルだ。クロエは姉に相当酷くしつけられたらしく、悲しそうに鳴きながら刻矢に近付いてくる。刻矢もクロエを撫でて許すと、彼女を定位置である右肩に乗せる。

 ノエルも刻矢に乗りたそうな表情を浮かべているが、今回はクロエに譲り応急措置をするため椅子に座っていた麗那の膝に跳び乗る。

「ノエルって人に馴れてるよね。人見知りをしないというか何というか。クロエは刻矢とノエルにしかなつかないけど」

「最近は私にも心を許してくれましたよ?」

 姫陽が刻矢に近付き肩で陣取っているクロエを撫でると、クロエは嬉しいらしく甘く鳴いている。

「何でよ!?」

「何ででしょうね?」

 続いて麗那がクロエを撫でようとするが、クロエは嫌そうに鳴きながらとりあえず撫でる事を許してくれる。

「あんたの気持ちが解れば良いんだけどね」

「クロエは気難しいから、仲良くなるには根気が要るぞ」

「頑張ってみる」

 麗那の気持ちに対し、クロエは猫として敵意を見せないどころか上品にあくびをして返す。あなたには無理だから諦めなさいと言っている様だ。どうやら、麗那は完全になめられているらしい。

 それどころか、見せ付けるかの様に刻矢へ擦り寄っている。自分が本妻だという立場を解らせ優位性をアピールしているみたいだ。

「この子、ホントに猫なの!?」

「猫だがかなり賢い部類に入る」

 まるで人間の言葉や心すらも理解しているかの様な態度に、麗那はクロエが猫だという事を疑ってしまう。

「よう刻矢、姫陽。帰って来たか」

「いらっしゃい麗那ちゃん」

 麗那が考えていると、刻矢と姫陽の両親である未弦と彼方がやって来る。メイド達は頭を下げようとするが、未弦が気さくに「良いって良いって!」と言いつつ阻止する。

「ああ、親父とお袋か」

「ただいまお父さんお母さん」

「お、お邪魔してます」

 三人がそれぞれ柊夫婦に挨拶をする。現当主である刻矢は親である二人をぞんざいに扱っているが。

「相変わらずだなあお前。そこまで当主になりたくなかったか」

「当たり前だ。あんたの場合、思い付きで押し付けただろ」

 刻矢はイマジナリゼロに至り父未弦の本当の意志を受け継いだが、当主の座を押し付けられた事だけは未だ許せず根に持っていた。

「バレたか。ただ、麗那ちゃんを許嫁にしたのだけは思い付きじゃないぞ。彼方は賛成してくれたが、尻に敷かれているあいつはともかく英理を説得するのに時間は掛かったな」

「え?」

 麗那が声をあげる。普段からいい加減そうな未弦が、母の英理を説得するほど考えていたとは思ってもいなかったからだ。

 尻に敷かれている――ああ、家族に甘い父親の話か。麗那は確かにと思いつつため息をつく。

「刻矢と麗那ちゃんは相性が良いと思うのよ」

「まあ、麗那と居るのは楽しいな」

 刻矢が母彼方の言葉を肯定する。クロエは何処がと不満そうに鳴いているが。

「あたしも刻矢と居るのは悪くないわね。許嫁かどうかは別として、昔から刻矢やひなちゃん達と一緒に遊んでいたし」

 刻矢と姫陽、そして悠翔は麗那にとって昔からの親友だ。恋心は別として、麗那は刻矢達と一緒に遊ぶのが好きだった。当時は病弱だった悠翔を元気付けるため旅に出ると刻矢が言った時は寂しかったが、同時に刻矢の優しさや思いやりの心も知っていたため旅を後押ししたのも麗那だった。

 たとえ三人がナイトメアとなった今でも、ナイトメアになった理由や本当の彼等を知っているからこそ思い出や友情は変わらない。麗那は心からそう信じている。特に刻矢は、最期の願いでそれを証明したのだからと。

「そうだな。お前との幸せがずっと続くと良いな」

「続くわよ絶対。もうナイトメアを救うためだけじゃなく、刻矢と悠翔が生きるためにインフィニティコードを見付けるって話し合って決めたじゃない」

「ああ、そうだな」

 刻矢と悠翔を救うためだったら何だってしてみせる。あの日、彼方からナイトメアコードを受け取らなかった事を後悔しないためにも。麗那はそう誓った。


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