ハーレムと鬼嫁
刻矢達は先先代当主の柊輪廻が居た部屋から出ると、彼の言う供給システムを造ってもらうべくエレベーターへ向かっていく。
すると、刻矢の肩で寝ていたクロエが動き出しあくびする。
「ようやく起きたなクロエ」
クロエが刻矢に向かい眠たそうに鳴く。それを見た姫陽と麗那がクスクスと笑うと、クロエが寝ぼけ眼で二人を交互に見ている。
「親父達も来ているハズだから、先にノエルを探すか」
ノエルという名前を聞いて、クロエが嬉しそうに鳴き始める。
まず、刻矢達は当主としての家へ向かう事にした。家は最上階に存在する建造物の中でも特に大きく、玄関と門の間にある大きな噴水が特徴的な城だ。草の生えた庭以外は汚れの無い純白で、最上階を包み込む透明なドームギリギリの高さまで屋根がある。更には巨大な空中庭園まで存在し、あそこから下の景色を一望出来る様になっているらしい。
「あんた達の家さ、何で海に浮かぶ大きな城の中に城があるのよ!?」
「え、元々こうだったぞ?」
「ですよね兄さん」
刻矢と姫陽の天然ボケに麗那が頭を抱えてしまう。麗那からすれば、目の前の城は家の中にミニチュアのドールハウスやペット用のケージを置いているとかいうレベルでは無い。明らかに力のある王族や家臣が住むための城だ。柊家の技術を甘く見ていたと、麗那は改めて恐ろしさを感じてしまう。
刻矢と姫陽が案内すべく麗那の手を引っ張っていく。刻矢の肩に乗っているクロエは、諦めろと言わんばかりに麗那を見つめている。
刻矢が両開きのドアを押すと、中には十数人の若いメイド達が直立不動のままスタンバイしていた。
「お帰りなさいませ若様、姫陽お嬢様! いらっしゃいませ麗那様!」
メイド達が笑顔のまま一糸乱れぬ動きで礼をする。
麗那は心の中で動揺していた。柊家で働いている彼女達はうちのメイドと全然レベルが違うと。
「さあ、上がっていけ。あと、しばらくは自由にして良いぞ」
「かしこまりました!」
メイド達が一斉に散っていく。その光景を見て、刻矢はため息をつきながら呟く。
「毎回大袈裟だな」
「男子に言ったら殴られるわよ?」
麗那が刻矢をからかう様に笑う。
すると、刻矢は麗那の両手を掴んでまっすぐ顔を見る。麗那は顔を赤らめるが、刻矢は真剣な表情だ。
「俺はお前一筋だ」
刻矢が大胆に告白すると、麗那と姫陽が真っ赤にして慌て始める。
「い、許嫁だからでしょ!?」
「いや、一人の男としてだ」
「え、刻矢――」
麗那がそこまで言った瞬間、刻矢は本妻の逆鱗に触れてしまった。腕を噛みつかれ、身体を左右に振りながら傷口を開いていこうという作戦らしい。
「いたた、止めろクロエ! 痛い! 頼むから噛み付くな!」
しかし、クロエは噛むのを止めない。それどころか、普段はしまっている爪を突き立てている。
流石の刻矢も参り掛けていたが、近くから優しい猫の鳴き声が聞こえてくる。クロエの物ではない。当のクロエは震えながら攻撃を止めていた
鳴き声はクロエの姉であるノエルからだった。刻矢の腕にしがみついているクロエを見上げつつ、刻矢の手に付いている傷痕と交互に見比べる。
ノエルがクロエに対し優しく鳴く。まるで諭す様にクロエをただ見つめている。
すると、クロエがノエルの居る床まで降りてくる。どうやらノエルへ謝りに来たらしい。ノエルが軽く鳴くと、クロエは重い足取りで姉を追い掛けた。一度振り返って刻矢と麗那を睨みつつ。
「クロエの奴、まさか嫉妬でもしてるのか?」
「でしょうね。あの子乙女ですから」
「刻矢大丈夫!?」
「だいじょ……痛っ、血が出てるな。よし、コード――」
「こら、すぐコードに頼らない!」
麗那が刻矢の頭にチョップを加える。刻矢は更に頭痛も加えられたため、麗那を恨めしそうに見る。
「何をする」
「こういう時こそ治療でしょ」
「俺カラドリウスなんだが」
「はいはい良かったわね」
麗那は姫陽とメイド達の道案内に従い刻矢を引きずっていく。対する刻矢は不満そうに腕を組んでいた。




