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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
コードの存在理由
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蘇る記憶と折られた片翼

 姫陽達が帰った後、刻矢は右手をスライドさせようとして苦しむ。

「まだカラドリウスの力は使えないか」

 医者が言うにはどこも骨折していないらしいが、あまりの激痛で刻矢は未だにコードを出現させる事が出来なかった。

 そんな中、部屋にノックが響き渡る。刻矢は痛みに耐えながらも入室を許可する。

「ようトキ、元気にしてたか?」

 やって来たのは、幼馴染みの五代悠翔だった。

 刻矢は内心嬉しかったが、クロスやアークとの戦いを思い出し気持ちを押し殺す。

「何をしに来たセフィロト社の犬め」

 刻矢は親友を鋭く冷たい言葉で突き放す。

 だが、悠翔はそんな刻矢の言葉を受け流すかの様に聞こえなかったふりをする。

「しかし、よりにもよってクロスにやられたんだって? あいつたくさん特殊能力持ってるから、見てるだけでウザいんだよなあ」

「たくさん特殊能力を持っているだと? 十字架の防御だけじゃないのか?」

 刻矢が食らい付いた事に満足したのか、驚く顔を見て悠翔がニヤリと笑う。

「奴の防御力はクロスにとって付録でしかないさ。トキは十字架の本質をまるで解ってない」

 悠翔が「チッチッチ」と言いながら差し指を振って見下ろしてくる。

 刻矢はそんな友に腹が立ったのか文句を言おうとするが、起き上がろうとして痛みに苦しむ。

「クロスの攻撃をまともに食らったのか。医学どころかカラドリウスでも治らないぞそれ」

「どういう――」

「今楽にしてやる」

 悠翔が指を鳴らし、掌に燃え盛る真紅の炎を出現させる。それを無抵抗の刻矢に投げ付け一気に焼き尽くす。

 刻矢は熱さと痛みで悶え苦しみ痙攣する。身体を芯まで焼き尽くされる痛みは和らぐ事無く、炎は全てを灰にするべく広がっていく。

 もうだめだと思い右手を上に伸ばすと、アフガニスタンでの最期が今までより鮮明にフラッシュバックする。


 ――俺は……もう一度……姫陽、麗那、ユウが居る、あの町に……――


「目、覚めたか?」

 悠翔の言葉に気付いた刻矢が、焼き尽くされたハズの全身を何度も触る。火傷や炭になった部分は無く、それどころか痛みも完全に消えている。身体もベッドも焼け焦げた形跡が無い。

 しかし、その代償に心の奥深くに封印していた記憶が蘇ってしまった。

「思い出した」

「何を?」

「俺の人としての最期だ」

 刻矢はもう一度死にかけた経験をしたためか、最期の記憶を取り戻した。

 いや、思い出してしまった。あまりにも惨めな最期。最期になってようやく気付いた自分自身の真の望みを――

 刻矢は思わず目から涙を流す。決して悲しかったわけではない。今まで最期を思い出せなかった自分自身が許せなかったのだ。

「おい、トキ。大丈夫か?」

 悠翔の言葉に、刻矢は涙を流しながら笑い出す。

「……バカだよな俺。世界を見て回った結果、最期に望んだのがお前達三人が居るこの町に帰る事だったんだから。俺は大切な妹や友人の大切さを最期になってようやく気付く愚か者だったんだよ」

「トキ、お前――」

 悠翔は驚いていた。親友がナイトメアになってまで望んだ物が、帰って自分達と再会する事だという事に。最期に自分達を想っていた事を知らなかった。

 死ぬ間際に、故郷へ帰れず姫陽や麗那。そして自身に二度と生きて会えない事を理解してしまった友の絶望は計り知れない。

 記憶を失ったのは、最期に味わったトラウマを無意識に封印するための物だったと悠翔は理解する。

「それなのに、俺はナイトメアとして蘇らせた親父を恨んでしまった。俺は――」

「もう良い! もう良いんだトキ。お前はもう、誰も恨まなくて良い」

 悠翔が刻矢に優しく声を掛ける。

 刻矢は知っていた。忘れたいた。これが五代悠翔の本当の姿だという事を。本当は友達想いで優しい少年だという事を。

 刻矢は自分を助けに来てくれた悠翔を欠片でも疑ってしまった。そんな自分に対し良心が責める様に痛む。

「なあ、ユウ。お前は何でセフィロト社に?」

「お前の言う世界を救うためだ」

 刻矢は更に驚く。

「正直なトキ、お前の世界中の土産話を聞く事が一番楽しかったんだ。だから、より世界を知るためにセフィロト社に入った。そして、お前の死後にセフィロト社の本質を知ってしまった」

 刻矢は知らなかった。まさか、悠翔の願いが世界を救うためだという事を。

 しかし、あの日出会った悠翔は選民思想的な発言をしていた。余計に理解出来なくなる。

「星神町の親の居ない奴等はセフィロト社の被害者だ。これを知ってるのは俺達の親の世代だけ。だが、被害者として今の立場に甘んじていたら、いつかは心の隙を作りナイトメアになって牙を向く。たとえ、かつては友達だとしてもな」

 刻矢も旅の途中でそういった経験を何度もしてきたからこそ理解出来た。

 ただ、倒すだけではダメだと気付き、倒した元ナイトメアの心を癒すべく友になる事を倒した数だけ繰り返してきた。

 たとえ何度ナイトメアになっても救ってみせると、あの日までは強い意志で接してきた。

「俺はそいつに殺されてようやく気付いた。そして、セフィロト社によってナイトメアにされ言われるがままに復讐した。相手は被害者なのにもかかわらず、加害者になるなんてバカだよな俺。それから操り人形の日々ってわけさ」

 悠翔が悔しそうに呟く。世界を救うという夢を持っていたのに、いつの間にか復讐の道具として利用されてしまった。

 刻矢と違って他人を理解しようとせず、自分のために力を使ってしまった自分自身が許せなかった。

 もし、親友みたいに強ければ、結末は変わってたかも知れないのにと。

「俺はもうトキ達と同じ場所には立てない。だからさ、今日はお別れを言いに来たんだ」

「ユウ、お前――」

「今まで楽しかった。そして、さようなら。次に会う時はお前の手で俺を殺してくれ」

 悠翔が真紅の炎に包まれると、病室には刻矢だけが残された。

 刻矢は悔しそうに、吠える様に叫んだ。そして改めて誓う。自分に絶望を何度も与え、更には友までも奪ったセフィロト社の企みを必ず潰してみせると。


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