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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
コードの存在理由
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刻矢の願い

「弱い、弱過ぎます」

 クロスが変身を解除し聖職者風の男の姿に戻る。目の前には変身を解除し気絶した柊刻矢がいる。

 クロスはフレームを省略した眼鏡を指で直しつつ刻矢を見下ろしている。

「相変わらずえげつないわねあんたの能力」

 フードを着た女性が急に現れ、スキップしつつクロスの周りを移動する。

「見ていたのですかパンサー」

「カラドリウスがあんた相手にどこまでやれるか見に来ただけよ」

 パンサーが甘い香りを全身から漂わせ、なついているかの様にクロスへ近付いてくる。

 しかし、当のクロスは迷惑そうな表情でパンサーを払いのける。

「まあ、データ収集はこれくらいにして、私は一度報告のために拠点へ帰ります」

「カラドリウスはどうするの?」

「死んでいないためコードは無事でしょう。もっとも、立ち上がる気力があるか話は別ですが」

 クロスとパンサーは刻矢を置いて去っていった。


 クロスが居なくなり、刻矢は約二十分で目が覚める。立ち上がろうとするが、全身に激痛が走るため無理して動けそうにない。

「これが敵幹部の力か」

 刻矢が悔しそうに呟くが、負けたという事実は変わらなかった。

 しかし、刻矢はただ負けたわけではない。相手と戦い解った事が一つだけある。

「奴は攻撃を受ける度に十字架が一つずつ砕けた。どんな威力でもだ。ならば、奴の防御力の正体は十字架のストックだろう」

 刻矢は敗北しながらも冷静に考えていた。敵の能力の正体もおおよその見当を付けながら。

 そして刻矢はクロスを倒す方法を思い付く。奴の防御力が十字架の数による物なら、それを全て破壊してしまえば勝てるのではないかと。

 刻矢は勝機を見出だし笑い始めるが、途中で身体の痛みにより咳き込んでしまう。

「この状態では、携帯で助けを呼ぶのも難しいか。さて、どうするか」

 刻矢は寝転がりながら考える。ここが開発途中の南区のため辺りには誰も居ない。全身が痛いため、カラドリウスに変身する事すら出来そうにない。

 痛みが治まったら動こう。刻矢はそう考えとうとう動く事すら止めた。

 潮風とはいえ心地良いなあと、刻矢は波の音を聴きながら静かに目を閉じる。

 確か、こうやって風を受けながら寝転んだ事があったなあと思い出す。


 砂と瓦礫に覆われた町の中から聞こえてくる無数の銃声と悲鳴。人とナイトメアが戦っている世界に刻矢は存在していた。

「あれ、ここはアフガニスタン? もしかして、俺の過去を夢で見ているのか?」

 刻矢はアフガニスタンを歩いていた。途中で身体の銃声やナイトメアの攻撃を受けるが、全て刻矢の身体をすり抜けていく。この世界の物は刻矢に影響を与えないみたいだ。

 無数の怪物が移動する度に現実世界が塗り替えられ、次々と異世界を生み出していく。そこに兵隊や民間人が悲鳴をあげながら吸い込まれる。

 刻矢は目と耳を塞ぎつつ逃げる様に進む。

 だが、既に体験しているためか、目や耳を塞いでもあの時の悪夢が鮮明にフラッシュバックする。

 刻矢は遂に塞ぐのを止めて座り込む。

「どうだ? お前自身の記憶の感想は?」

 誰かの声が聞こえ、刻矢は思わず立ち上がる。

「誰だ?」

 刻矢の声に反応したのか、目の前に純白の『Caladrius』と書かれた文字――ナイトメアコードが出現する。コードは次第に変化し、白の鳥人へと姿を変えていく。

「お前、カラドリウスか?」

「そうだ柊刻矢。蓄積されたお前の意志が、俺を一つの個として具現化させた」

「ならば教えてくれ。俺の最期を――俺の願いを」

 刻矢がカラドリウスに尋ねるが、カラドリウスは悲しそうに首を横に振るだけだ。

「今のお前ではダメだ」

「それはどういう――」

「お前の本当に大切な物が何なのか、もう一度心の中で良く考える事だ」

「待て、カラドリウス!」

 カラドリウスに手を伸ばそうとしたと同時に、刻矢は白い部屋で目を覚ます。良く見ると右腕に点滴があり、特有の薬品臭からここが病院だという事が理解出来る。

「助かった、のか?」

 辺りには誰も居ない。立ち上がろうとするが、やはり痛みで動けない。

「俺の大事な物――そんなの、あいつらに決まってるだろ……!」

 刻矢が悲しそうに呟くと、ドアからノックが聞こえてくる。「どうぞ」とだけ言うと、制服を着た四人が入ってきた。

 姫陽と麗那。更には陸人と錐彦。お見舞いに来てくれたらしい。

「よう刻矢、ぼこぼこにされたんだって?」

「へえ、君でも敗北する日が来たのか」

 陸人と錐彦は相変わらずで、刻矢の無事を信じていたらしい。

 麗那は泣きそうな姫陽を撫でながら、優しく刻矢を見つめている。

「ちょっと厄介な化け物に出会った」

 刻矢がクロスについての情報を四人に話す。もちろん、所属している組織は伏せた状態で。

「ちょ、何でそんな危ないのと戦ってんのよ!」

 麗那がまだ治っていない刻矢の身体を激しく揺すり始めるが、刻矢がナイトメアだという事を知っている三人が慌てて麗那を押さえ付ける。

「麗那さんどうどうですよー」

「あたしは馬じゃないわよ」

「で、そのクロスってナイトメアは十字架の数だけ攻撃が効かないと。そういう事だね?」

「そういう事だ」

 刻矢が激しく咳しつつ答える。ダメージは予想より酷かったらしく、普段の強さなど欠片も無かった。

 お見舞いにフルーツを買ってきた四人だが、当の本人がこの状態では食べさせられないと判断する。

「それはそうと陸人。成果を見せてくれ」

「見てろよ刻矢!」

 陸人が両手で拳を作ると、両手に銀色のメリケンサックが出現する。それを見た麗那は驚き、刻矢は満足そうな表情でうなずく。

「よし、陸人は姫陽や錐彦とナイトメア退治しても良いだろう」

「よっしゃあ。錐彦に頼んでダチも使える様にしてるからいつでも戦えるぜ」

「見事だ」

「何で当たり前の様に対ナイトメア武器出してるのよ?」

「僕のコードでドーピングだね」

 刻矢は心強い仲間が一気に出来て満足する。

 しかし、麗那は自分だけ対ナイトメア武器やコードを持っていないのが不満らしい。

「あたしにもそれよこしなさいよ」

「良いけど、痛いよ?」

「へ、平気よ!」

 どうやら、無理矢理だが麗那も戦力として仲間になってくれる様だ。本当は麗那を戦わせたくない刻矢は困り果てた表情で見るが、逆に睨み返されてしまった。

 姫陽がそんな兄を優しく撫で刻矢も受け入れる。

 刻矢は少しの希望を手にしつつも、カラドリウスの言葉を思い出していた。

(俺の願いは、姫陽と麗那。そしてユウと一緒に――)


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