先を見る者
姫陽に真実を知らせてから次の日、刻矢は気分を紛らすため早朝から学区へやって来ていた。いつも一緒のクロエも今は居ない。
タイルが敷き詰めれている広々とした道を歩きつつ考え事をする。
刻矢は正直、姫陽に真実を語った事を心の底では後悔していた。いくら賢くなったとはいえ、結果的に泣かせてしまったため間違いだったのではないかと自責している。
「おい、刻矢じゃないか。どうしたこんな日曜の朝早くから?」
「ああ、五十嵐陸人か」
「陸人で良いぞ」
刻矢に声を掛けたのは、ナイトメア討伐で一時期手を組んだ五十嵐陸人だった。ジャージ姿が良い体格にマッチしている。
刻矢は陸人に促され、近くにあるベンチに二人で座った。
「普段は旅に出て、登校すらあまりしないのに珍しいじゃないか」
「気分転換だ」
「もしかして、昨日の行方不明事件と関係があるのか?」
「相変わらず察しが良いなお前は」
刻矢が陸人の洞察に感心する。
あの日陸人の強引な判断が無ければ、ナイトメアの被害は更に深刻な状況になっていただろう。
だからこそ、刻矢は口に出さないが彼に対しある種の敬意を払っていた。
「まだ怪物事件は終わってないのか?」
「ああ、まだ終わってない。大元は解っているんだが、正直なところ手詰まりという状況だ」
「そうか」
怪物の発生源が、アメリカに本社を構えているセフィロト社だとは口が裂けても言えなかった。
話したところで絶望するに決まっている。刻矢はそう考えつつ迷っていた。
刻矢は心の中で、一緒に戦ってくれる仲間が欲しいと求めていた。
だが、それは二度と叶わないだろうと諦めてもいる。
何故ならば、何度も誰かを頼った結果セフィロト社に全滅させられた過去があるからだ。
錐彦みたいに成り行きで行動した昨日も、脱出のために協力したからであり仲間としてではないと刻矢は無理矢理心で納得しようとする。
「お前は一人で戦ってるんだな。けどさ、誰かに頼る勇気も必要だと思うぞ」
「お前には挫折が必要だ」
陸人の言葉に対し、刻矢は辛い過去の経験から得た言葉で返す。
すると、陸人はしばらく考えてから口を開く。
「そうかもな。お前の場合、世界を旅をしてきたから誰かを失った経験もあるんだろう」
「ただ、痛みを悲観しているだけでは前に進めない。お前みたいにまっすぐなのも大事だ」
刻矢が陸人という男を素直に肯定する。
流石の陸人も、刻矢に認められた事について驚いたらしく興味津々に見つめている。
「なあ陸人。お前の考える正義とは何だ?」
「そうだなあ――自分達で行動して、それから見届ける事だな」
「見届ける事。それはどういう意味だ?」
今まで世界を旅し様々な価値観を知ってきた刻矢が、五十嵐陸人という男の言葉を理解する事が出来なかった。
だからこそ、刻矢は陸人という男に興味を抱いた。かつて敵として戦い、エゴを人の夢として肯定し語った荒砂錐彦の様に。
「俺の家ってさ、昔からの軍人家系で親父によく聞かされてたんだ。良かれと思って集めた募金で、人を死なせてしまう事もあるって」
気さくだった陸人が深刻な表情で言葉を繋げる。
「食料か土壌、水等に問題があったら、それだけで人が病気で死んでしまうんだ。助けるハズの支援物資で多くの人が死ぬ。無責任で皮肉な話じゃないか。だから俺は、親父達の様に自分や仲間の目で真実を見届け、自分の手でより確実に人を助けたいんだ」
「良い親を持ったな」
今まで出会ったどの人間とも考え方が違う。刻矢ははっきりと陸人という男を理解した。
他人から聞いた話とはいえ、彼はより先の未来を見据えている。
大人達は理想論と笑うかも知れないが、少なくとも刻矢は陸人を偉大な男だと感じていた。
同時に、もっと早くこいつに出会えていれば変わっていたかも知れないと心の底から悔やんでいた。
「けど、俺は本当の意味で世界を知らない。お前の感じた挫折も悔しさも喜びも。だから刻矢、俺に嘘偽りの無い世界を教えてくれないか?」
刻矢は陸人の純粋さに迷いを感じていた。
他人を巻き込む勇気は無い。考えるだけで震えてしまう。
それでも、刻矢は陸人という希望に賭けたいとも思っていた。彼の人生を狂わせてしまうかも知れない。
しかし、遅かれ早かれ陸人は大人になれば世界を見るだろう。セフィロト社による残酷な世界を。
ならば――
「良いだろう。ただし――」
刻矢がベンチから立ち、右手をスライドさせ白の文字を出現させる。彼の希望と絶望の象徴――カラドリウスのコードだ。
「コード・オン」
変身ワードと共に刻矢の身体が純白の光に包まれ、姿をナイトメアへと変化させていく。
「それって、麗那が言ってたナイトメアコードか? 刻矢、お前――」
完全にカラドリウスへと変化した刻矢が、驚愕する陸人の目の前に羽根を散らしながら降臨する。
「お前の意志を俺に認めさせてみろ五十嵐陸人」
「解った。ならば俺も手の内を見せてくれたお前の期待に応えるよう全力で行くぞ刻矢」
陸人も刻矢に敬意を払い、ベンチから離れ拳を構える。
「来い」
刻矢の右手を前に突き出した手招きを合図に、二人の戦いが始まった。




