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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
コードの存在理由
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残酷な世界

 久々に家へ帰ってきた柊一家は、葬式の様にどこか重たい空気を放っていた。

 その発信源、刻矢と姫陽の兄妹だ。別に喧嘩をしたわけではないらしいが、姫陽もそうだが特に刻矢がどこか暗い表情を浮かべていた。客として呼ばれた麗那と錐彦、悠翔までもが憂鬱になっている。

「ねえ、刻矢とひなちゃん何かあった?」

 麗那が錐彦に尋ねるが知らない方が良いよとしか答えなかった。悠翔は理由を大体察してはいるものの、問題が問題ゆえに切り出す事が出来ないと考え黙る。

「はーい、彼方さんお手製のボンゴレパスタお待ちどうさま。今更だけど食べる?」

 麗那達は刻矢達を捜すためご飯を食べていなかった。それでも食欲がわかないが、彼方の好意を無駄にしないために全員がフォークを使って食べ始める。

 確かに美味しい。しかし、黙々と食べている柊兄妹の態度は今までと明らかに何かが違う。何があったかは知らないが、刻矢にとって都合が悪い出来事があったのは流石の麗那も理解していた。

「刻矢」

「どうした?」

 麗那が沈んでいる刻矢に声を掛ける。そっとしていた方が良いとは解っているものの、それでも幼馴染みとして放ってはおけなかった。

「あのさ、何があったかは知らないけどあたしは聞かない。刻矢が話しても良いって思ったら、あたしも相談に乗るから。それまで待ってる」

「すまない」

 刻矢が今出来る最大限の礼を麗那に言う。

 全員食べ終わると一気に解散していく。再び雰囲気が暗くなり刻矢と姫陽は互いに声を掛けにくい状況になった。

「あのさ姫陽」

「あの、兄さん」

「あ――」

 二人が同時に話題に繋げようとしたため余計に話しづらくなる。

「ごめんなさい兄さん」

 先に切り出したのは姫陽だった。申し訳無いという表情だがまっすぐ刻矢の顔を見ている。

「実は、大体察してはいたんです。お母さんにナイトメアの説明を受けた時から。ナイトメアはナイトメアの力でしか倒せないって。本来なら、兄さんの銃ではナイトメアを止める事は出来ても倒す事が出来ないと」

「お前はそこまで知ってて何も聞かなかったのか?」

 姫陽が「確信はありませんでしたけどね」と刻矢に返す。刻矢は驚いていた。妹がほとんど確信に近付いていた事に。

 もう子供扱い出来ないな。刻矢はそう考え、実の妹である姫陽に全てを話す事にした。

「姫陽、全てのナイトメアコードにはマザーと呼べるコードが存在する。その名はインフィニティコードという」

 刻矢がゆっくりとした口調で、まるで物語を聞かせるかの如く姫陽に語り掛ける。姫陽は理解していた。これから兄が話す事は全て事実であり、より核心に迫る物だという事を。そして、刻矢の話は他言無用だという事を。

「コードというのは、元々は二人の科学者がある目的のために生み出した物だ。セフィロト社研究部門主任クリストファー・ハーネック。そして、俺達の親である柊未弦だ」

「お父さん達が?」

 姫陽は動揺を隠せなかった。まさか、大好きな父がナイトメアコード製作に加担していたとは思っていなかったからだ。

「だが、二人の意見は次第に対立していった。親父はあくまで平和利用のために使いたいと考えていたが、クリストファーは兵器として使う事にこだわった。そして二十四年前、当時親父の恋人だったお袋をモルモットとして、ナイトメアに変え街を襲わせた」

「そんな……酷すぎます!」

 姫陽の言葉に母彼方が優しく撫でる。

「ありがとう姫陽。私のために怒ってくれて」

「俺は親友を――クリスを止める事が出来なかった。だから俺は過去の償いのために、セフィロト社の研究所を全て破壊するために旅へ出たんだ。お前達にはすまないと思っていた。全部無駄だったがな」

 姫陽にとって刻矢と未弦の語る物はあまりにも壮大で、あまりにも救われない物だった。どうして、親友同士で争わなければいけないのか。どうして、父と兄、そして母にそんな辛い想いをさせなければならないのかと。

「姫陽、何でこの世では戦争が終わらないか知ってるか?」

 刻矢が優しくはあるが静かに姫陽に尋ねる。今まで世界を旅をしてきた旅人としての目が姫陽の心を鋭く貫いていた。

「宗教や人種、ですか?」

「惜しいがそれだけでは正解じゃない。戦争で儲けている企業があるのさ」

 刻矢の言葉に姫陽はハッとなり気付く。

「セフィロト社!」

「そう、セフィロト社だ。あいつらは何も知らない紛争地域の未成年者にコードを安く売り、戦争を更に拡大させた。もちろん、敵側の方にもな」

「そんな――」

 姫陽は愕然としていた。まさか、大企業のセフィロト社が儲けのためにここまでやっていたとは想像していなかったからだ。

 戦争を裏で操り世界の経済すらも支配していく。姫陽はそんな方法を許せなかった。

「戦争が起これば、もちろん止めようとするし支援しようともする。その兵器や支援物資、医療品もほとんどセフィロト社製だ。どう足掻いても、奴らに損害は出ない。いわゆるマッチポンプだな。ナイトメア対策組織も奴らは造ってるが、その実態は増えすぎたナイトメアの数を調整する処理係だ」

 刻矢が初めて静かに怒りを見せる。

 何故ならば、ナイトメア対策組織は麗那が所属しているからだ。ナイトメアから人々を守るためと言っているが、実際はセフィロト社に利用されている。純粋な正義の心すらもセフィロト社から道具として切り捨てられる。そうやって見捨てられた対策組織の人達を刻矢は旅先で何度も見てきた。

 刻矢は旅先で何度も戦争やナイトメアに苦しむ人々を救ってきたが、それすらも遥かにしのぐ数の犠牲も同時に目の当たりにしてきた。

「そして、俺はセフィロト社によって激化した戦争に巻き込まれ――死んだ」

「ちょっと待ってください! じゃあ、今の兄さんって――」

「今の俺は親父のコードに生かされているゾンビさ。それこそ、今度死ぬのは今日かも知れないし明日かも知れない。或いは、遠くない未来かも知れない。出来れば、お前や麗那には知られたくなかった。静かに幕を降ろしたかった。それでも俺は、未練がましくこの町に帰ってきてしまったんだ」

 刻矢の虚しく悲しみを帯びた言葉に姫陽は大粒の涙を溢してしまう。

 実の兄を失ってしまうかも知れないという恐怖。小さい頃から可愛がってくれた兄が消えてしまう。そんな事実を姫陽は認めたくなかった。認められるハズもなかった。

 どうすれば助かるのか考えるが、兄の言葉から察するにそんな都合の良い方法など存在しない。姫陽が知らなかった世の中があまりにも理不尽過ぎたのだ。

「嫌です……兄さんを……兄さんを失いたくないです! お父さん、何か方法は――」

 姫陽の必死の叫びを否定するかの様に父の未弦が静かに首を横に振る。

 彼方も両手に顔を埋めて泣いていた。

「そんな……」

 姫陽は覆せない現実にただ涙を流す事しか出来なかった――


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