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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
コードの存在理由
33/104

父の帰還と娘の決意

 柊邸のリビングでは重々しい空気が漂っていた。若い男女の私服警官が、家主の妹である姫陽に優しく声を掛けて落ち着かせる。

「あ、ありがとうございます」

「無理しないで。お母さんとお兄さんは必ず見付かるから」

 女性の警察が姫陽の頭を優しく撫でる。しかし、家族が二人も行方不明になった姫陽は沈んだままだ。

「あいつらはそう簡単にくたばるタマじゃねえよ」

 声を掛けたのは、捜索班のリーダーである泉警視だ。気休めではなく泉警視は昔からこの一家を知っていた。信じてるからこその言葉だ。

「少なくとも俺より頑丈だ。安心しろ、あいつらは俺が――」

「よう、姫陽元気か!」

 泉警視の言葉が空気を読まない男によって遮られる。ダンディーなカウボーイ風の男。背中にはバッグと工具箱を片手で背負っており、いかにも出てくる場所を間違えた様な風貌だ。

「せ、先輩?」

「お父――さん?」

 姫陽と泉警視が、目を丸くして男を見つめる。間違いない。星神町のシステムの基礎を造り上げた科学者兼エンジニア――柊未弦博士だ。

「よう龍治、半年前のメール以来じゃないか!」

「え、ええ……まあ」

「今警視だったよな! じゃあ、お前の歳は俺より二つ下だからそろそろ警視正になるんだな! すげえじゃないか!」

 未弦がお祝い代わりに泉警視の肩を何度も力強く叩く。叩かれている泉警視は迷惑そうな顔をしており、部下の女刑事に早く助けてくれとアイコンタクトで訴える。部下の女刑事が咳払いをすると未弦は泉警視を素直に解放する。警視は未弦を一瞥し、逃げる様に女刑事と男刑事の後ろに隠れていく。

「お父さん?」

「何だい姫陽?」

 すると、姫陽が未弦に駆け寄り強く抱き締める。今まで弱音を吐かなかった彼女は大粒の涙を溢しながら掠れた声で父親を呼び続けた。未弦は一瞬躊躇うが愛する娘を優しく抱き締める。

「お父さん……お父さん……!」

「ごめん姫陽、遅くなった」

 離れていても確かに伝わる愛情。二人は互いを抱き締め、親子の絆を再確認していた。


 姫陽が泣き止むと未弦は大きな手で大好きな娘を優しく撫でる。未だに涙目だったが姫陽は父親を困らせないために無理にでも笑顔を作っていた。

「よし、刻矢達を連れ戻しに行くか」

「兄さんとお母さん、見付かりますか?」

「信じろ。俺が何とかしてやる」

 未弦の根拠の無い自信。それはナイトメアに戦いを挑んだ刻矢の物に良く似ていた。こういう所は親子なんだと姫陽は理解する。

「具体的にはどうするんだよ先輩。悠翔が言うには、ナイトメアとは別の空間に跳ばされた可能性が――」

「それだ!」

 未弦が急に大音量で叫んだためこの場にいた全身が耳を痛めてしまった。未弦だけ納得した表情をしており他の全員はぐったりしている。

「姫陽、彼方と刻矢が消えた場所に案内してくれ。あと龍治、英理に連絡頼むわ」

「はい!」

「わ、解った先輩!」

 姫陽は父と一緒に屋敷の門へと向かった。


 玄関から出て噴水を通ると目の前に金属製の柵の門があった。こまめに手入れをしているらしくピカピカで、ワックスまでかけられている辺り家主のこだわりがうかがえる。

 未弦は門を左右両側から何度も開け閉めを繰り返して考える。すると、未弦は持参したバッグの中身をあさり始め何かを取り出す。

 出てきたのは何のへんてつもないガーデニング用のスコップと軍手だった。未弦は軍手を装着するとスコップで門の周辺を掘り起こしていく。それを見た姫陽は一度家に戻り二つのシャベルを持って来る。父の未弦に一つ渡すと二人は一緒になって掘り始める。シャベルの先に何かが当たり、未弦は発掘する様に優しく土を払っていく。

「何ですかこれ――」

「ビンゴだぜ」

 未弦は掘り起こした何かを掴むと屋敷の裏にある水道の蛇口をひねり洗い始める。汚れが落ちるとそれは血の色をした結晶にカプセル型の機械を取り付けた何かだった。手にしただけで結晶が脈打っており、音に合わせてカプセルの上下が回転している。

「フェイクフィールドか。また学生時代の懐かしいオモチャを使ってきたなあクリスの野郎も」

「フェイク……フィールド?」

「そう、フェイクフィールド。厳密に言えば違うんだが、バーチャルリアリティみたいな物だ。ナイトメアの生み出す空間の基になった機械だな」

 ナイトメアの生み出す空間。姫陽は森で無数の蜘蛛に襲われかけた記憶を思い出し震える。機械一つで恐ろしい世界を生み出せる。そう考えると姫陽は不安で仕方無かった。娘を見かねた未弦は軍手をポイ捨てし姫陽と手を繋ぐ。父の温もりで落ち着いた姫陽は、二人で一緒に証拠品を持っていく事にする。

 屋敷に戻ろうとしたが既に警察と神宮寺親子。悠翔達天宮学園生徒が門の前に居た。どうやら報告して情報交換をしているらしい。そのため、二人は集団の方へ向かう事にした。

「おーい、見付けたぞ!」

「先輩、どこでそれを?」

「庭を掘り起こした」

「あなたって、本当に物探しは上手いわね」

 スーツ姿の上品な美人――神宮寺英理が呆れた様に呟く。

「英理、例の物持ってるか?」

 未弦の言葉に英理が突き付ける様に棒状の何かを掌に渡す。姫陽はそれを見た事があった。ナイトメアによる事件を解決した日、学校へ侵入するために使われた鍵だ。

「じゃあ、俺はこの中に入ってくるから」

 未弦はそう言うと鍵をカプセルの天井部分にかざす。すると上が開いて鍵穴が出現したため迷わず鍵を突き刺し回した。カプセルから赤い光が漏れ未弦に絡んでいく。

 だが、未弦は気にせず鍵を英理に放り投げ工具箱とバッグを持ちながら未弦は周囲の人達に手を振る。

「私も行きます!」

 未弦が光に包まれる前に姫陽が光の中に居る父親にしがみつく。

「姫陽――」

「もう二度と、離れ離れになりたくないんです!」

「解った」

 光が収まると親子の姿は消えていた。二人が居た場所にはフェイクフィールドと呼ばれる機械だけが残っていた。


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