日常からの急襲
病院からの帰り道、刻矢達は徒歩で家に向かっていた。右肩に愛猫のクロエを乗せ怠そうな表情で高層ビルが建ち並ぶ町を歩く。悠翔のジャーマンスープレックスが地味に痛みを放ち、刻矢からやる気や元気といった物が失われていく。
「に、兄さん、大丈夫ですか!?」
妹の姫陽が駆け寄り、前屈みになっている刻矢の左肩を担ぐ。ある程度は姿勢が安定してたものの、それでも見てるだけで危なっかしさがある。
「しょうがないわね。肩貸すわよ」
麗奈がクロエの乗っている右肩を持ち上げる。まるで担がれる酔っぱらいだが、姿勢が安定しまっすぐ歩ける様になった。
「悪いな二人とも」
「これくらい良いわよ」
「さあ兄さん、家まで帰りますよ」
二人の共同作業で、刻矢は思わず微笑んでしまう。肩に乗っているクロエは最初二人に対して不愉快そうな顔をするものの、今回だけは仕方無いと思ったらしく目を瞑った。
「俺はこんなにボコられたのに不公平だ」
包帯だらけで見るからに痛々しい姿になっている五代悠翔が刻矢を恨めしそうに見つめる。
それを見た荒砂錐彦が、同情するかの様に悠翔の肩に手を置く。
「君は僕の仲間だよ生徒会長」
そんな五人の姿を一番後ろで彼方がクスクス笑いながら眺めていた。ドレスを着てノエルと一緒に歩いている姿は優雅で上品な印象を与える。
「ノエル、気分はどうかな?」
彼方の言葉に、ノエルが元気良く一鳴きする。
「本当は妹の所に行きたいんじゃないの?」
彼方の言葉を聞いて少し考えるかの様に間を開けてから、ノエルは元気良く彼方の周りを走りつつ何度も鳴く。どうやら、確かに本当はクロエの所に行きたいけど今は彼方と一緒に居るという彼女なりの意思表示らしい。
「ありがとねノエル」
彼方はノエルを優しく撫でると、再び一緒に歩き出した。
しばらく歩いてようやく柊邸に六人と二匹はたどり着く。
刻矢が周りを見るとやはりフェニックス――悠翔による火災の影響が残っており、塀や道路が蝋の様に溶けている。その周囲や内部には父の未弦製の蜘蛛型補修ロボットが動いており、火災現場を少しずつ直しているらしい。
当のフェニックスこと悠翔は誤魔化す様に笑うと、家主より先に素早く家の門を潜っていく。
刻矢は内心呆れつつ肩を担いでくれた二人に礼を言ってから自力で歩くと、悠翔以外のメンバーのために門の両側を開けて入れていった。
すると、景色が蜃気楼の如く一気に揺らめ、現実世界を一気に無数の色彩で塗り潰していく。刻矢はとっさに姫陽と麗那を庇う様に突き飛ば、揺らめきの外へ二人を追い出す。悠翔が事態に気付き刻矢と錐彦、彼方の方向へ向かおうとするが既に手遅れだった。
三人と二匹はナイトメアが生み出した異世界に飲み込まれ、現実世界から姿を消した。




