美しい薔薇には……
「二度と来ないぞ」
「出来ればそう願いたいものだね」
刻矢が悪態をつきながら悠翔を引き連れると、院長が心配そうに二人を出入口まで見送る。刻矢と悠翔は久しぶりの太陽の眩しさに思わず目を細める。
「昼だなあトキ」
「ああ、飯時だなユウ」
二人が病院の外に出ると何故か大勢に出迎えられていた。姫陽と麗那、クロエはまだ解る。しかし、刻矢はある女性を視界に入れた瞬間再び病院へ戻ろうとした。
「君の身体に異常はないがね?」
「病院送りにされるから匿ってくれ」
刻矢が叱られるのを恐れている子供の様に、震えながら院長の後ろから再び除く。姫陽と麗那、猫のクロエはいる。
だが、錐彦と恐らくクロエの姉のノエルと問題の人物――モンスターである柊彼方。刻矢は思わず後退りしてしまう。あれでも実の母親だと心の中で何度も唱えるが、どうしても昔やったサバイバルホラーゲームの追跡者さながらのトラウマも再生されるため中和しきれない。
すると、彼方はそんな息子の想いを知らずか野良猫とコミュニケーションを取ろうとする通行人の様に近付いてくる。人差し指を小刻みに動かして、隠れている刻矢を誘き寄せる作戦らしい。
刻矢からすれば母親とは関わりたくなかった。服の見た目はフリルが花びらの様に付いている黒のドレスだが、どうせドレスの中身は全身に仕込んだ武器だろうと考える。彼方が西区の家から出てきたという事はろくな事を考えていないハズだと推測する。
「やあ刻矢。ユウ君も元気?」
「は、はい、彼方さん」
「泉の奴を追い払ったと思ったのに――」
刻矢が心の底から悔しそうに呟く。
「姫陽にご飯お呼ばれされたんだけど、ユウ君も来る?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
悠翔は刻矢へ何かを訴えるかの様にチラッと見る。すると、彼方は子猫を運ぶ母猫の様に刻矢の首を掴み引きずっていく。刻矢の方はもう抵抗するのは無駄だと判断したらしく、靴がボロボロにされても困るため彼方の手を振りほどき自力で歩く事にした。
「ねえ刻矢。私の作品作り直してあげようか?」
「そうだな、生身のレプリカに致命傷を与えられないから、更に強化出来るのなら助かる」
刻矢が二丁の銃身を持って彼方に渡す。
「ふふ、ふふふふふ!」
先程までお淑やかだった彼方が急に豹変する。刻矢はしまったと思わず舌打ちしてしまう。
「あたしの銃がナイトメアに通用しなかった!? 上等だコラ! そんな無駄口が二度と聞けない様に、テメェを蜂の巣にしてやろうか!? あ!?」
彼方が先程までとは異なる汚い口調を放ちつつ刻矢に二丁の銃を向ける。彼方は銃を持ったら別人の様に豹変する。長年付き合っていた刻矢でもこの町で平和ボケしていたせいでつい忘れてしまった。
「俺は確かに急所を狙った。ならば、銃が悪かったに決まってるだろ」
刻矢は内心怯えつつも、母親に対し口答えする。事実、錐彦達には通用しなかったからだ。ナイトメアコードを使わないと勝てなかった。その部分は確かだと言える。
「それとも、最高のガンスミスと言うのは自称か? 結局、親父の技術で倒したぞ。つまり、あんたの技術は柊未弦の技術に敗北したんだ」
父親からナイトメアコードを貰ったんだから、嘘は言っていないと刻矢は思う。ナイトメアコードの出所と出生は、正しく使おうとしていた父親と兵器として悪用しているあの男だと解っているため、刻矢はナイトメアコードを父親の技術と言った。それに、姫陽と麗那には口が裂けても自分がナイトメアだと言えなかったのも理由の一つだが。
刻矢の言葉に彼方が悔しそうに震える。他の奴等はこれ以上刺激するなと刻矢に手振りで伝えているが既に手遅れだ。
「上等だ! そこまで言うなら作り直してやろうじゃないか! あのヘラヘラ野郎より上だって事を証明してやるよ!」
彼方がバッグの中に二丁の銃をしまう。すると、彼女から放たれていたプレッシャーが消え、全員がの身体が地面に崩れ落ちる。助かったと、刻矢は冷や汗をかきながら思っていた。
「あれ、みんな何で倒れてるの?」
彼方は上品に首を傾げた。




