不死鳥の男
土曜日のまだ日が昇っていない時刻、柊刻矢と猫のクロエは同じベッドで仲良く寄り添いながら眠っていた。怪我による数日間の絶対安静であまり構ってもらえなくて寂しかったのかクロエが刻矢の腕枕にしがみついている。その姿はどこか満足すら感じられる。
だが、平和な休息は長く続かなかった。冷や汗をかきつつ、刻矢が急に目を覚ましたからだ。起きてすぐに周囲を何度も警戒しているため、悪夢で目覚めたわけではないらしい。
続けて異変に気付いたクロエもゆっくりとあくびしながら目覚める。刻矢の表情に不安を感じたらしく寄り添いながら静かに鳴いている。
「ごめんクロエ、今回はここで待っててくれ」
いつもなら刻矢に対しわがままを通すクロエだが刻矢の真剣な表情で察したのか離れてから鳴く。
刻矢はすぐにパジャマから黒のコートと無数のカートリッジを装備しているベルトを巻いたズボンに着替えると、二丁の自動式拳銃をホルスターにしまい家の外へと向かった。
自宅の扉から外に出るが、先にある噴水や門を見ても誰もいない。しかし、刻矢は警戒を怠らなかった。何故ならば、今までに無いプレッシャーを未だに感じていたからだ。
普段は獲物を待ってからしとめる性格の刻矢だが今回は自分から出向く事にした。家と門の間にある噴水に素早く近付くがまだ来ない。一気に夜だから施錠された門まで向かい鍵を開けて道路に出る。
すると、プレッシャーが一気に強くなる。先の見えない闇の道路から、ゆっくりと何かが近付いて来るのを刻矢は感じた。二丁の銃を持ちいつでも引き金に指を掛けられる様に人差し指はまっすぐの状態にしておく。
「なるほど、俺の気配を察知して来たか」
声の方向へ刻矢は銃を構える。そこには黒のローブを纏った何者かが存在していた。顔はローブに隠れて全く見えない。刻矢は男を見るがナイトメアコード所持者特有のオーラが全く見えない。
ならば、こいつはナイトメアではないのか。刻矢はそう考えていた。
「お前は何者だ?」
「俺の事はフェニックスとでも呼んでくれ。まあ、正体という意味で聞いたのならば、俺達は互いに良く知っているから黙秘させてもらうが」
「お前がフェニックス? ナイトメアじゃないのか?」
錐彦からフェニックスという存在を聞いていた刻矢は本人はナイトメアとばかり思っていた。しかし、フェニックスと名乗る男からはナイトメア特有のオーラを視認出来ない。それを理解したのかフェニックスは腹を抱えて笑っている。
「さあて、どうだろうかな!」
フェニックスがローブから右腕を出すと掌から燃え盛る炎を発生させ刻矢に向かって投げ付ける。刻矢はとっさに回避しフェニックス目掛けて二丁の銃を交互に撃ち続ける。
だが、フェニックスに銃弾が届く事は無かった。何故ならば、フェニックスの前に分厚い炎の壁が出現し弾を塵へと変えたからだ。
「旅先でも見た事は無いが超能力か何かか? それともマジックか――」
「そのどちらでもない。コード・オン!」
「何!?」
フェニックスの口から出たのは人間がナイトメアに変化するための言葉だった。指を鳴らすと真紅の炎のエフェクトを纏った『Phenix』という文字が発生し、コードその物がフェニックスの全身を一気に焼き尽くしていく。
「異世界を生み出さないナイトメアだと? こんな奴を野放しにしたら、この町にどれだけ被害が及ぶか解らないな――コード・オン」
相手をナイトメアと認識した刻矢は、右手をスライドさせ純白に輝く『Caladrius』のコードを出しつつ変身のワードを呟き姿を変化させていく。
両者の変身が完了すると向かい合った状態で純白と真紅の鳥人が立っていた。刻矢が変身したカラドリウスが身体能力を強化した姿だとすれば、相手が変身したフェニックスは流線形で全体的にスマートな姿で上品さを感じる。
フェニックスが右手を横にかざすと掌から炎が噴射され収束し一本の大剣となる。刻矢も両手を前にかざすと光が出現し異様に銃身が長い二丁の自動式拳銃へと変化する。
「さあ、お前の悪夢を終わらせてやるよ」
「来いよ柊刻矢。お前の希望を跡形も無く焼き尽くしてやる」
こうして二体の鳥人の戦いが始まった――




