戻ってきた日常
「――で、あんたは新型爆薬使って男子寮で倒れたと。そういう事ね?」
「ああ、そうだ」
刻矢は車椅子に座った状態で呆れ顔をした麗那に押されながら校内を移動していた。膝には眠っているクロエを乗せ麗那の隣には刻矢の妹の姫陽がいる。
ナイトメア――錐彦との戦いから数日経ち始業式が始まったからだ。
一応、銃と新型爆薬を使ってナイトメアを倒した事にしているが実際はカラドリウスのコードで倒している。カラドリウス・イマジナリ状態での加速キックは予想以上に負担が激しかったらしく、人間としての肉体にもダメージを受けてしまいしばらくの間入院し今に至る。
「あんた無茶苦茶だわ」
「しばらくは安静ですよ兄さん」
「姫陽はともかく、学校以外でファッションセンスが壊滅的なお前にだけは言われたくない」
刻矢がファッションセンスを指摘するが姫陽と麗那は学校指定の黒のブレザーと緑のチェックが入ったプリーツスカート。黒のサイハイソックスをきちんと着こなしている。
「兄さんのお陰で、皆さんは意識を取り戻しました。改めてありがとうございます」
「気にするな」
とは言いつつも刻矢は大きくため息をついた。何故ならば――
「やあ刻矢君」
杖をつく音と共に後ろから朗らかな声が聞こえてくる。刻矢が“倒し損ねた”荒砂錐彦だ。包帯だらけの痛々しい姿の状態で松葉杖をつきながら刻矢達の隣に並ぶ。当然、刻矢の眼から見てナイトメアの証である身体に纏った紫の光もそのままだ。
「よくものこのこと出てきたわね!」
麗那が錐彦にナイフを向ける。
だが、錐彦は戦う意思がないと言わんばかりに落ち着いている。
「何しに来た?」
刻矢が面倒くさそうに尋ねる。流石の刻矢もゴキブリ並みの生命力を持った彼に内心呆れていた。
「何って、学生の本分は勉学だろ?」
「ナイトメアからそんな言葉を聞くとは思わなかったわ」
「麗那さん止めてください! もう終わったじゃないですか!」
「ひなちゃん……」
姫陽の言葉に、麗那はナイフをカバンに戻す。姫陽の友人を含めた被害者は全員意識を取り戻した。だから、今の錐彦と戦う理由は刻矢達には無かったのだ。
「どうする、放課後でもリターンマッチでもするかい?」
「流石に今は戦えない状況だから無理だ」
「奇遇だねえ。実は僕もそうなんだ。もし、喧嘩を買われてたら間違いなく負けてたよ」
刻矢と錐彦が力無く笑う。
あの戦いの中錐彦は刻矢に与えられた痛みに耐えながら跳ね続けた。蠍子拳の基本は跳躍からの足技だからだ。お陰で直撃とナイトメアコードの消失だけは避けられたものの、刻矢の放った攻撃による衝撃は生身の肉体にも響いてしまった。
そのせいで病院では刻矢と同じ部屋で過ごしており何度も罵り合って過ごしていた。刻矢と姫陽の友達の見舞いに来ていた姫陽と麗那、陸人の三人に聞かれてしまい未だにナイトメアコードを持っている事がバレてしまった。但し、姫陽と陸人は驚きはしたものの恨んではいなかったが。
「お前、世界征服の野望はどうした?」
「君が居るから無理だと解ったし、君が弱った所の漁夫の利を狙う事にするよ。いわゆるバトルロワイヤル的な?」
錐彦が何か憑き物が取れた満足そうな笑みを刻矢に見せる。どうやら、刻矢と戦えて多少は満たされたらしい。
「こいつ何か腹が立つわ」
「落ち着きましょう麗那さん」
錐彦に怒りを見せる麗那を姫陽は暴れ馬を扱う様に手懐ける。
「まあ、完治したら手合わせして欲しいな。今度は小細工無しで君と戦いたい」
「良いだろう。いつでも相手になってやる」
「春なのに暑苦しい」
「で、ですね」
こうして四人と一匹はつかの間の日常へと戻っていった――
プロローグ・完




