サソリの真髄
熱風が肌を焦がす砂漠の中、純白の鳥人とサソリのアサシンが何度も回避しつつ互いの鉤爪と毒針を激しく衝突させる。二体の力量はほぼ拮抗しており鳥人の刻矢がパワーとスピードを乗せた拳と蹴りを何度も放つ。
しかし、サソリのアサシン錐彦がエネルギーを受け流しつつ、サソリの尾型の装甲からの突きと蹴りを繰り出す。両者は互いに譲らず未だに一撃も受けていない。
いや、正確には一度でも当たれば終わると理解しているため回避しなければいけないのだ。
「やるねえ」
「俺もお前を甘く見ていた」
刻矢は今まで生身で達人と呼ばれる人間と何度も戦ってきたため、サソリの男――荒砂錐彦が自身に追い付けるとは思っていなかった。
幾ら錐彦の身体能力がスコーピオンのコードで強化されているとはいえ、カラドラウスのコードで反射神経や動体視力を強化しフルに使っている状態に追い付いている。そういった目の前の事実を認めざるを得なかった。
「ここまで強いのに、何でお前はスコーピオンのコードに選ばれた? お前クラスのエゴイストなら、もっと強いコードを手に入れる事は容易いだろうに」
刻矢が錐彦の攻撃を全て回避しながら尋ねる。すると錐彦が攻撃を止めて右腕で制す。どうやら話をするから一度戦いを止めようと提案しているらしい。刻矢は一度拳を解き、錐彦の言葉に耳を傾ける事にした。
「選ばれた? 違うねえそれは。僕自身が選んだんだよ」
「世界征服とか言ってたくせに何を」
「簡単に世界征服出来たらつまらないし、そもそもナイトメアコードは例外として僕は誰の手も借りない。するならば僕一人でやるのさ」
錐彦が更に言葉を続ける。
「足立君や海人君を選んだのは見る目が無かったと君は言ったけどさ、別に無作為に選んだわけじゃないんだよ。力任せに戦うタイプと、ある程度の技を使うタイプのナイトメアが見たかったからさ。それさえ満たされれば、誰でも良かった事は認めるけどね」
「ほう」
錐彦の話によるとナイトメアコードを渡したのはあくまで計算していた事らしい。
しかし刻矢は一点だけ気になる事があった。それは実力があるにもかかわらず何でわざわざ面倒な方法を取ったのかだ。
「幾ら人間では実力者でも、ナイトメアコードその物を使いこなせるとは限らないよねえ」
「手本が欲しかったという事か」
「そういう事だねえ」
つまり、ナイトメアコードを極めるためにスパイダーやバットというモルモットが欲しかった。実際に見て本当の意味で自分の力とするためにナイトメアを二体作った様だ。
「で、満足がいく結果は得たか?」
「まあ、正直あの二人は役に立ったけどさ僕の予想範囲内だったんだよねえ。でも、君という猛者と直接戦えたお陰で僕は更に強くなれると確信した」
そう言うと錐彦が土下座するかの様に低姿勢で両手を地面に付け左足を高く上げて前に反らす。更には身体や腰を左右に動かし構えと合わせてまるで相手を威嚇するサソリに似た姿になる。
「なるほど、蠍子拳。それがお前の真の戦闘スタイルか」
「その通り。この技を最大限使いこなすためには、サソリその物になりきる方法が必要だったのさ。五十嵐君達に下級ナイトメアをけしかけたのも、心や記憶目的じゃなくサソリの動きを模倣するためだよ!」
言い終わると錐彦が構えを崩さないまま高く飛び上がる。その跳躍力は驚異的で、人では不可能な高さまで到達した。錐彦の動きはまだ終わっていなかった。両足を捻りながら全身で時計回りに回転し、刻矢に向かって一気に飛び掛かりつつ左足で刈り取る様に遠心力で蹴りを放つ。
刻矢は回避しようとするが残像すら残らない速度で距離を詰められたため間に合わない。とっさに両腕をクロスさせてガードする。受け止めると同時にガードした右腕から軋む音が発生し遂には地面に膝を付いてしまう。
「くっ……!」
何とか受け止め勢いを殺したが右腕の骨が折れ使い物にならなくなった事を刻矢は悟る。対する錐彦は優雅に着地しつつ再びサソリの体勢で構える。
「どうだいこれが真の意味での蠍子拳だ。人が積み重ねてきた歴史と模倣を加え、ナイトメアコードでサソリその物の力を最大限に引き出す。これが僕の強さの答えだ」




