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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
プロローグ
12/104

純白の鳥人

 柊刻矢と愛猫のクロエは暗闇の中を再び進んでいた。今回は闇の中でも見えるクロエを先に進ませ、たまに立ち止まってからの鳴き声で刻矢を目的の場所まで安全に道案内している。

 刻矢は姫陽や麗那と別行動をとっていた。リーダーの五十嵐陸人にチーム分けを提案したからだ。これならば無駄無く陣形が組めるうえに、麗那の探している白い鳥のナイトメア――カラドリウスに会いやすくなるかも知れない。ナイトメアの討伐経験のある自分が最短ルートから偵察しつつ残りの戦える奴等が男子寮を挟み撃ちにして攻めた方がいいという口実で。

 当然、刻矢は彼等――特に妹の姫陽と幼馴染みの麗那――を危険にさらす気は無かったし、麗那にカラドリウスを見せる気も無かった。最初から一人でカタをつけるつもりだったからだ。集団行動をすれば、灯りがあるとはいえ暗闇で互いに庇い合うため移動速度が大幅に落ちる。

 だが、最短ルートかつ夜目が利くクロエがいるうえに戦闘経験があるから合流する前に倒せる。刻矢は全てを計算した上で行動していた。

「こちら刻矢。月明かりで目標の建物を目視したオーバー」

 刻矢の言葉を理解したのかクロエが軽く鳴く。目的地に着いた刻矢とクロエは物陰に隠れ安全を確認すると一気に男子寮の入口へと接近する。ノブを手にして捻りながら引くと簡単に扉が開く。セキュリティどころか警報すら無い。

「確か、元々はIDや静脈、指紋で認証するんだったな。まあ、あいつらが外にいた時点で解ってはいたが。今回は停まってて助かった」

 刻矢とクロエはゆっくりと男子寮へと潜入する。ここには下駄箱がないためタップダンスするかの様にわざと音を立てて廊下を歩いていくが人の気配が無い。物音がすれば、寮官が注意するハズだ。来ないという事は――

「ナイトメアに喰われたか」

 ナイトメアの主食は人の心と記憶。どうやら、外の町という餌だらけの世界に行けなかったせいで、絶食に耐えられなくなったらしい。物音一つしないという事は、寮の人間は一人残らずナイトメアに食べられてしまった可能性が高い。ナイトメアを倒さない限り、空っぽになってしまった人達を救う事が出来ない。刻矢は旅をしてきた経験で嫌と言う程知っていた。脱け殻達が動かない静寂の世界を。

「寮に入った時点で異空間が展開されないのは、飢えを抑えるために変身を解除しているからか。それとも、もうここには居ないのかのどちらかか」

 刻矢は再びクロエをナビに進んでいく。やはり辺りは静寂が支配している。活気があった庭とは違い、人の影や灯りすらない。

「さあ来いよ化け物共、俺が蹴散らしてやる!」

 サバイバルホラーで怪物にやられそうな台詞を吐きつつ刻矢は心の中で笑いながらバッグから二丁の自動式拳銃を取り出す。すると、その答えとでも言わんばかりに少しずつ景色が蜃気楼の様に揺らめき始める。

「やっと来たか柊刻矢」

 声がする方へ向くとそこには三つの人影があった。それぞれの身体を三色の光が包んでいる。腕には、風紀委員を示す腕章があった。刻矢は心の中で歓喜に震えながら三人を見据える。

「お前が来るまでのおやつは美味かったぞ」

「随分と悪食じゃないか。しかも最初から俺が狙いだったとは」

 こいつら、興味本意で戦いを挑む俗物だったか。そう思うと刻矢はため息をつきながら一気に萎えていく。

「お前を倒したらメンバーに入れてやるとフェニックスが言っていた。だから、俺達に喰われてくれないか?」

「頭悪いな。喰われろと言われてはいそうですかと言う奴は普通いない」

 聞いてもいない事をベラベラと話す人影達、刻矢は心の底からうんざりしていた。

 最早フェニックスやメンバーの部分以外殆ど受け流して話をまともに聞いてすらいない。

「あと、獲物が狩人に口答えするな」

 刻矢が二丁の銃を構えつつ交互に発砲する。相手が輝いているため、狙いを定めるのは容易かった。弾を撃ち終わる前に三人は床に倒れる。床に血溜まりが広がっていく。

 だが、刻矢は油断していなかった。たとえ生身の人間に発砲したとはいえ相手はナイトメアコードを体内に持っている。この程度では死なない身体に変異している事は今まで旅した経験で嫌と言うほど経験してきた。その証拠にクロエが野生の本能からか唸り声をあげている。

「痛いなあ。普通の人なら死んでいたじゃないか」

「まさかモデルガンじゃないとは」

「これで万策尽きたみたいだし、そろそろ俺達の生まれ変わった姿を見せてやろうか」

 三人がゆっくりと立ち上がる。顔に人とは思えない正に狂喜の笑顔を浮かべながら。その姿を見た刻矢は腹を抱えて笑い始める。

「何がおかしい!?」

「万策尽きた? 何勘違いしている。地獄を見るのは、今ので死ねなかったお前達の方だ」

 さっきまで笑っていた刻矢が冷徹かつ鋭利に言葉を放つ。右手をスライドさ、白く輝く文字を空中に出現させながら。

「そいつは、ナイトメアコード!? 何故お前が持っている!?」

「コード・オン」

 刻矢が謎の言葉を呟くと、身体から白い光の竜巻が出現し男子寮の廊下を純白に照らしていく。

「まさか――まさかお前は!」

 三人組の一人が恐怖の声をあげる。まるで目の前で起きている現象の正体を知っているかの様に。

 その答えとでも言わんばかりに光の竜巻が縦に裂け一気に吹き飛んでいく。

 竜巻の中から現れたのは鋭く尖った純白の羽根に覆われた鳥人だった。猛禽類に似た頭が特徴で、上半身は羽毛で出来たロングコートを羽織っている。首にはエジプトの神アヌビスが彫られた首飾りを下げていた。

「さあ、お前らの悪夢を終わらせてやるよ」

 鳥人――カラドリウスに変身した刻矢は三人に冷たく言い放った。

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