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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
プロローグ
11/104

腹が減っては戦はできぬ

 闇の中肩に愛猫のクロエを乗せた刻矢が習性で誘き出された夏の虫の如く夜の中に存在する灯りへとやって来る。

「誰だ!?」

 しかし、灯りに居る制服姿の少年少女達はお世辞にも友好的とは言えず刻矢に突き刺すような視線を浴びせる。

「俺だ」

 だが、刻矢はまるで何事も無かったかの様に一言で簡潔に自分という存在を表現する。

「お前、刻矢――か?」

「他の誰に見える」

 リーダーと思われる背が高く筋肉質な男子生徒が恐る恐る尋ねるが、刻矢は彼を無視するかの如く堂々としている。

「お前、世界の旅へ行ってたんじゃ――」

「妹のために帰ってきた」

「何でここ――」

「妹の親友が化け物に襲われたらしいから化け物を潰しに来た」

 男子生徒が質問をしようとする度に、刻矢は相手に言い終わらせないまま冷静な答えという弾で叩き落としていく。

「全然話にならねえ。こいつ本物の刻矢だ」

「言葉のドッジボールならやった」

「自覚してるなら更にたちが悪いぞお前!」

 ツッコミに対し刻矢とクロエは息ピッタリのタイミングで仲良くそっぽを向く。

「で、お前らはこんな暗い中お祭り騒ぎで何をしている?」

「お前と同じく化け物退治兼誘き寄せるため兼親睦会だ。特に学園の被害が多いから、学校関係者の仕業かもと考えてな。あいつら活気のある場所に行く習性があるから、理事長の許可を得て昼から明日の朝六時まで学園のシステムをダウンさせた。恐らく、化け物は外には出られないはずだ」

 手際と洞察が良いじゃないか、昼間情報屋に時差ボケだと言い訳にしていた刻矢は自分を棚上げしつつ感心する。

 昼前に雑魚ナイトメアを倒してきたが、もしも更に増えていたら幾ら刻矢でも銃弾は底を尽きる。星神町は本土から橋で繋がっているとはいえ、本土と三つのスポンサーのもと試験的に海上に造り上げた人工島の一つだ。

 刻矢が使う銃弾の入荷や自衛隊。仮に海外の知り合いに頼んで別の軍隊を呼んだとしても、到着する前に星神町は滅ぼされるだろう。そうなる前に、星神町にいる妹の姫陽や幼馴染みの麗那を救う。そのためには、自信に刻まれたカラドリウスのナイトメアコードを使うしかない。刻矢が父親の未弦から与えられた、呪いとして憎んでいる力を――

「ゲートが閉まっていたのはお前らの仕業か。お陰で、情報屋が姫陽と麗那を呼ばなければ俺は閉め出されてた」

「姫と神宮寺が? 刻矢、お前彼方さんを頼ったんじゃないのか?」

「俺がお袋に頼るわけがない。下手すれば俺を殺しに地の果てまでやって来る」

 刻矢とクロエが冗談じゃないと言わんばかりに震えている。確かに、実の母親である彼方を頼れば、未弦が生み出したセキュリティを突破できたかも知れない。でも、刻矢には母親を頼る気など最初から無かった。

 父親の柊未弦が創造する側だとすれば、母親の柊彼方は破壊する側。相反する存在だ。もし頼ったならば被害者なんて関係無く、旦那への挑戦と称してセキュリティを跡形もなく破壊していただろう。セキュリティも製作者の父親が襲撃を想定して頑丈にしているだろうが、性能の面ではマニュアル操作に劣る。

 加えて、刻矢の知りうる限り柊彼方は好戦的だ。破壊した後、血祭りと称して骨のある相手を探しに行く。そうなれば、矛先が刻矢に向かうのは目に見えている。たとえ、今まで習得した格闘技や彼女から貰った二丁拳銃で反撃したとしても、ナイトメアコードと併せて使わない限り敗けが確定する。

 刻矢が海外を飛んでいる父親はともかく、この町に住んでいる母親と暮らさないのはそのためだ。

「おいおい、彼方さん娘の姫に似てすげえ美人なのにそこまで怖いのかよ!?」

「あれを人間のカテゴリーに入れるな。世界を旅して、様々な猛獣を見てきた俺でも化け物だと思えるから」

「待ってください兄さん……」

「あんた、女の子二人置いてく気!?」

 背後から声がしたので、刻矢はとりあえず振り向く。声の主はやはり姫陽と麗那だ。刻矢は笑顔で二人を出迎える。

「短距離だけどご苦労さん」

「二人だけで心細かったです」

「悪かった悪かった」

 そう言いつつ、それぞれの手で姫陽と麗那の頭を優しく撫でる。

「兄さん、くすぐったいです」

「ちょっと、刻矢――」

 二人が感想を述べると同時に刻矢の右腕に激痛が生じる。更には、耳元から聞き慣れた嫁の唸り声が聞こえてくる。刻矢はすぐに理解した。クロエの地雷を踏んでしまったのだと。

「痛っ! こらクロエ、何でまた俺を噛む?」

 当のクロエは、噛む力を緩めるどころか身体を激しく左右に振り始める。どうやら、相当機嫌が悪いらしい。

「いたたたっ! 悪かった! 俺が悪かった!」

 すると、クロエが噛む力を緩め刻矢の肩に戻っていく。物欲しそうな表情で見つめながら小さく何度も鳴きつつ甘えてくる。

「そっか、お前を撫でるの忘れてた。ごめんなクロエ」

 刻矢が優しく撫でるとクロエが満足そうに目を伏せる。今度は本当に許して貰えた様だ。

「刻矢とクロエって夫婦だよな」

「確かに、兄さん達夫婦ですね先輩」

「あたし、一応あいつの許嫁なんだけど」

 麗那が影でため息をつく。

「何だ麗那もやきもちか?」

 刻矢が肩のクロエを引き連れてからかいに来る。クロエの方は麗那に優位さをアピールするかの様に優しく鳴いている。

「ち、違うっての!」

 麗那が顔を真っ赤にして、灯りの中へと走って去っていく。

「まあ、ここは俺達が守ってるからとりあえずゆっくりしてくれ」

「それはありがたい。休むぞ姫陽」

「はい!」

 刻矢はクロエに噛まれていない左手を差し伸べ姫陽の手を優しく引っ張った。


「写真に写ってる風紀委員の三人が化け物――ナイトメアだったか? その正体とはねえ。凄いな、そっちは既に敵の正体まで突き止めてるのか」

「ああ、後は見付けて倒すだけだ」

 刻矢とリーダーの五十嵐陸人(いがらしりくと)が、互いに集めた情報を提供し合っている。その様子を姫陽と麗那、他の生徒達と一緒に離れて見ていた。

 陸人の話によると、ナイトメアによる事件は三ヶ月前――丁度刻矢とクロエが旅に出た頃かららしい。最初は数人が意識不明になる程度だった。

 だが、最近になってから町や学園含め、千人を超える程に犠牲者の数が膨れ上がった様だ。警察によると犠牲者の身体には人がやったとは思えない無数の傷痕があり、症状と何らかの関係があると考えられた。医師が調べた結果、ウイルスや細菌。毒物等が検出される事は無く未知の症状だという話だ。

 陸人達は犯人が最近学園で多数目撃された怪物の仕業だと考え、実際に襲われたため独自に調べ今に至るという。

「――まあ、この町で起きているのは、俺達が知りうる限りそういう事だ。俺達はバカでかいサソリの軍団に学園で襲われた」

「私達が昼出会ったのは人間サイズのクモの怪物ですね」

「あたしは一昨日コウモリ型のナイトメア達に襲われたわ」

「俺は数えるのも面倒なくらい倒してきた」

 刻矢はそう言いつつ頭の中で情報を整理する。三つともバラバラという事は雑魚を送ってきたナイトメアは恐らく異なる奴等だろう。ならば敵のコードは、『スコーピオン』・『スパイダー』・『バット』の三つでほぼ間違いない。刻矢はそう確信していた。

 スパイダーが森の異世界を生み出し、バットがビル群の異世界。手下と戦った経験があるため二体の対策は可能だろう。

 問題はスコーピオン。何の異世界を生み出すか解らない。彼等の創る世界は立体映像ではないため戦略を立てなければ人間は簡単に潰される。こちらは戦闘経験のある陸人達に任せようと刻矢は考える。もっとも、親玉が出たら今居る中で刻矢以外に勝ち目が無くなるのはほぼ確実だが。

 ただ、別に陸人達に頼らなくても、三体同時に挑んだ方が都合は良いし楽かも知れないと刻矢は考える。その場合一緒に旅をしてきたクロエはともかく、姫陽と麗那をどうやって自身から離すかが問題だ。

 まず姫陽は明らかに戦闘経験が無く同じく麗那も変身して助けるまでは逃げるだけだった。どう考えても戦力にはならない。ならば、隙を見てクロエと一緒にここから離れるしかない。刻矢はそう考えた。

「さて、何も食ってないから腹ごしらえしたいな」

「そうですね」

「でも、今店やってないよね?」

 そう言っている中刻矢は金属製のトレイをカバンから二つ出しつつ、同じく入れていた水筒と袋の中身をそれぞれのトレイに移していく。その行動を見ていたクロエが右肩から軽やかに飛び下りつつ華麗に着地する。刻矢の顔を上目遣いで伺いながら。

「食べて良いぞクロエ」

 刻矢の言葉に待ってましたと言わんばかりにクロエはトレイに入った餌に向かう。固形状の餌を上品に食べ、喉が乾いたら舌で上手にほぼ新鮮な状態の水を飲むという行動を繰り返す。

「これで良し」

「兄さん、クロエちゃんだけですか?」

「魔法瓶の水ならあるぞ?」

「要らないです……」

「クロエの餌以外何も想定してないわね」

 麗那の言葉で何か思い出した刻矢はカバンの中からまた何かを取り出す。手にあるのは分厚い缶詰と真空パックに入った謎の固形物。更には金属製のマグカップと缶切りまで用意している。

「そんなに腹が減ってるなら、余り物だけど貰ったレーション食べるか?」

「レーションって何ですか?」

「本来は支給品を指すんだけど刻矢の場合多分軍人の食料の事よ。てか何処で手に入れたの!?」

「アフガニスタン」

「ア、アフガニスタン!?」

 刻矢の行動力に麗那が驚いてしまう。そして、麗那は同時に悟った。刻矢の場合、旅に文字通り命を懸けていると。放っておいたら、いつ死んでもおかしくないレベルだ。

 だが、当の本人は何かおかしい事でも言ったかとでも言わんばかりに首をかしげている。それどころか、カバンの中から更に缶詰と固形物、マグカップを出し始めた。

「あんたは軍人か!?」

「傭兵や殺し屋やってた」

 幼馴染みのあまりにも冷静な発言に麗那は頭を抱えてしまった。

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