向き合う世界と刻矢の答え
刻矢達は柊家の島で様々な機械が森の様に設置してある場所に居た。柊家科学部門。柊家のテクノロジーが生み出される場所であり、柊未弦やクリストファー・ハーネックがコードやダイナモ等を生み出した始まりの場所でもある。
「ここには二度と来ないと思っていたが、まさかこんな形で来る事になるとはね」
時間が止まってしまったクリストファーが懐かしそうに辺りを見回す。未弦と友情や将来を語り合い、好奇心や冷やかしでやって来た彼方と英理を追い払う日々を思い出していた。あの頃は本当に楽しかったと、クリストファーは自分によって失われてしまった日々を懐かしむ。
「あの頃は楽しかったなクリス」
「ああ、私もそう思う。特に未完成の半永久ダイナモの実験で君に殺されかけた時とかな!」
「まだあれを根に持ってやがったか」
クリストファーの怒りを未弦は笑いながら受け流す。かつては決別した彼等だったが、昔と変わらず接してくる未弦のお陰で少しずつ元の関係に戻りつつあった。
そんな二人を刻矢は複雑な心境で見ていた。もしインフィニティコードが歯向かってきて破壊する事になった場合、ナイトメアとしての最後を迎え姫陽達とは二度と会えなくなる。悠翔達も道連れにしたうえで。もちろん刻矢だけでなく他のジェネシスナイトメア達も未来を諦める気など無い。未来を繋ぐためにインフィニティコードを手に入れたからだ。
刻矢達はついに宝箱を開ける時が来た。科学部門の奥にある巨大な実験室。何十人どころか何千人も入れるほどの白い空間が広がっており、様々な機材が無造作に置かれている場所だ。
未弦が英理から鍵を借りると、フェイクフィールドが展開する。今度は誰も引きずり込まれる事が無く、まず出てきた海水を悠翔とレインディアーが人の姿のまま能力を使い処理していく。次に掌サイズの黒いキューブが、見かけに反して物凄く重そうなをたてながら床に落ちる。未弦がコードを持っている奴は絶対近付かない様にとあらかじめ言っていたため、刻矢も含めた全員がキューブから離れていく。
次に未弦が合図すると、天井が開くと同時に謎の突起物が出現しキューブへ照準を定める。突起物の周囲には半永久ダイナモが無数のリング状に取り付けられており、回転しながらキューブを破壊するためのエネルギーをチャージし赤い光を発射する。
あまりの衝撃に刻矢達は床に倒れてしまう。それは圧倒的防御力を誇っていたネオやクリストファーですら例外ではなかった。二人は恐怖の眼差しを未弦に向けながら小動物の様に震えている。一緒に世界を手にするつもりの二人だったが、まさか柊家が万物を破壊しうる物まで隠し持っているとは思ってもいなかったからだ。
キューブは跡形も無く蒸発し、中からプラチナ色をした『Infinity』のコードが出現する。更にコードは人の形に変化し人形みたいに可愛らしい少女の姿となる。少女は寝ぼけ眼で目を擦りつつ辺りを見回すが、どうやら現状が理解出来ていないらしい。そんな彼女に刻矢達はどう声を掛けて良いのか解らなかった。
「とりあえず人間さん、おはようございます?」
インフィニティコードに敵意は無いらしく、人間に対してわりと友好的らしい。刻矢はその姿に安心したのか、クロエを肩に乗せつつ第一人類として声を掛けコミュニケーションを取ってみる事にした。
「今は昼だからこんにちはだ。俺は柊刻矢でこいつは相棒のクロエ」
クロエが挨拶する様にインフィニティコードへ向かって軽く鳴く。
「じゃあ改めてこんにちは刻矢、クロエ。私はインフィニティ。何かお願いがあったら、私の可能な範囲なら何でも好きな事を言って欲しいな」
幾ら刻矢でも、インフィニティコードがここまで友好的なうえに話が解る相手だとは思ってもいなかった。流石にある疑問が浮かんでしまう。
「人を恨んでいないのか?」
刻矢の疑問とは、父親の未弦の都合で封印された彼女が人間を恨んでいないのかという点だ。しかし、彼女は可愛らしく微笑むだけだ。
「大好きだから恨まないよ。私の大好きな人が言っていた言葉だけど人や世界は面白いもの」
刻矢はその言葉で、インフィニティコードが好きな人間とは未弦の事だと理解した。封印されても未だに父親を慕っている。その事実に刻矢は、未弦が封印する前まで彼女をどう扱っていたのか大体察した。
「頼みがある。コードをあるべき姿に戻して欲しい」
「良いよ。どのみちコードを持った誰かが私にたどり着いたらそうするつもりだったから」
刻矢はますます理解出来なくなる。コードをナイトメアという怪物に変身する道具に変えたのは、目の前に居るインフィニティコードではなかったのかと。何故そんな彼女が同じ願いを抱いていたのかと刻矢は考える。
「私は人に繋がりを知って欲しかった。人の喰らう事で力を求める虚しさを知ってもらおうとコードを書き換えたの。人がコードで死なない様にセーフティーを掛けたうえでね。ジェネシスはもう一度生きるチャンスを与えたかったから追加したの」
刻矢はようやく理解する。インフィニティコードが不器用かつかなり強引な方法だが、彼女なりに人類の平和を望んでいたという事を。全てのナイトメアにはそれぞれ役割があった。様々な方法で色々な事の大切さを知って欲しいという願いから、あらゆるナイトメアを生み出した事が解った。最初からインフィニティコードは犠牲を望んでいなかったのだ。
「刻矢、コードを持って不幸だった? 望むのならばナイトメアの記憶を消したまま人に戻す事も――」
「確かに色々あった。ナイトメアになって恨んだ事もある」
インフィニティコードが悲しそうに刻矢を見つめている。彼を不幸にしてしまったと後悔している様だが、刻矢の言葉はまだ終わっていなかった。
「それでも俺は今までの記憶を消さない。消したくないんだ。俺は色々な考えの奴と出会い、時には話し時には戦ってきた。今まで世界を旅して何でも出来ると思っていた俺だったが、お前の言う通り俺は本当の意味で世界を知らなかった」
刻矢は思い出す。世界を旅して見てきた物や体験した事。そしてあの日の出来事を。一度だけでなく何度も挫折してきた刻矢だが、今まで出会った仲間が支えてくれたからこそここまでやって来られた。カラドリウスのお陰で、自分自身が帰るべき場所を思い出す事が出来た。彼と仲間のお陰で刻矢は立っている。もう後ろを向きながらの後悔は無い。柊刻矢は誰かに支えられる事で前を見る事を決めたからだ。
「だから俺は誰かに人生を不幸だと言わせない。俺は仲間のお陰で自分自身の悪夢を終わらせたからこそ、忘れる事で旅を――思い出をここで終わらせたくないんだ!」
これがインフィニティコードに対する刻矢の答えだ。忘れる事は今までの行いを全否定する事。他人の夢をナイトメアとして倒してきた刻矢にとって、そんな終わり方は認められるハズがなかった。
刻矢の言葉に安心したのか、インフィニティコードが笑顔で彼を見る。
「解った。コードを元に戻そう」
インフィニティコードが光の粒子になると、刻矢の腰に無限を模した白金のウロボロス型のベルトとして再構築される。
「ああ、一緒に今から新たな世界を始めよう。ハイパーコード・オン」
刻矢とクロエ、インフィニティコードが光に包まれる。暖かさのある光は部屋を覆い、更には世界中まで広がっていく。全コード――更には全世界の書き換えが始まる。コードによる理想だけではなく、現実と向き合う事で乗り越えていく新世界へと――




