変革の鍵
マリアナ海溝に到着した柊家のタンカーが、インフィニティコード引き上げを始める。ワイヤーの先に以前刻矢達を別世界に飛ばした機械フェイクフィールドが付いており、インフィニティコードを異世界に引きずり込んでから釣り上げる作戦らしい。これならばインフィニティコードを守る超重量物質や妨害装置を無視しつつ、簡単かつ安全に引き上げる事が出来ると祖父の輪廻が提案したらしい。
「柊刻矢、本当にネオを救ってくれるの?」
声を掛けてきたのは白衣の少女――ネオの姉であるニコルだ。ニコルは少々不安そうに刻矢を見つめている。
「約束はするがインフィニティコード次第だ。二十数年も沈められてただで済むとは思っていない」
「確かに、宇宙へ追放された私もそう思いますよ」
「悪かった。お前の場合はついやってしまった」
刻矢が宣教師のクロスと微笑みながらかつての出来事を語る。本名は忘れたらしく今さら洗礼名で呼ばれるのも恥ずかしいからクロスで良いと言われ、話してみると意外と世間話が上手い奴だという事が判明した。死亡理由は布教活動中異教徒に殺されたかららしく、泣きながら刻矢に愚痴ってくれた。敵対していた頃は解らない事ばかりだなと刻矢は考える。
問題はクロスも言う通りインフィニティコードの心がどうなっているかだ。仮に牙を剥いたら倒す方向でセフィロト社側とも合意している。
「俺、みんな守る」
二メートルはある巨体のソイルが片言な口調で話し掛けてくる。彼はアフリカのとある部族出身らしく、仲間をかばって猛獣に襲われ死んだという。刻矢が勇敢な男だと褒め称えると彼は恥ずかしそうに喜んでいた。
「まさか休戦する日が来るとは驚きね」
躍り娘風の少女パンサーが見せ付ける様に近付いてくる。彼女は路地裏でギャングに捕まり性的かつ肉体的に暴力を受けながら殺されたらしい。西区で暴れた原因は生前のこれかと刻矢は理解する。
「あぁれぇーッ? どこだここぉーッ?」
芝居がかった口調でレインディアーがキョロキョロと見ている。ニコルの能力で復活させられたばかりで事態を把握していないらしい。彼女が言うには散歩中に、雪道でローラースケートして滑って転び死んだ所をたまたま発見したらしい。生前もこんなのだったのかと刻矢は呆れていた。
リッドは全員残留思念と言っていたが、コード製作者の未弦はその発言を全否定した。コード使用者が死んだ場合、残ったコードの欠片に人格を移すという機能は最初からあったらしい。何でも元々は、死んだ人のためと言って勝手にテロを行う人を抑制するための機能だったとか。
もちろん仲間達も揃ってワイヤーを見つめている。世界を変えるかも知れない力が引き上げられ始めたからだ。後はフェイクフィールドを鍵で開けてから、コーティングしている物質を切断すると聞いて全員に緊張が走る。ワイヤーが巻き上げられまず最初に現れたのは、海草が巻き付いた甲冑だった。
「やはり生きてやがったかクリス」
沈めたハズのクリストファー・ハーネックが目の前に居るという事実に、彼方と英理は驚きを隠せなかった。しかし未弦は手で二人を制しクリストファーに近付く。
「ネオは死んだ」
「だろうな。コードが上からやって来た時は驚いたよ。まあ、海はあらゆる成分が豊富だから復元には苦労しなかったみたいだが」
クリストファーはそう言うと、本体である甲冑から何かを取り出す。中から現れたのはずぶ濡れのネオだ。生前と同じ姿をしておりぐったりしている。
「ネオ……ネオ!」
ニコルとリッドが刻矢に殺されたハズのネオに近寄り抱き付くと、ネオが寝ぼけ眼で二人を見つめる。
「あれ……ニコル、リッド?」
三人の家族が再会し喜びを分かち合う。刻矢達は感動していたが、他の死人達は海へ飛び込めば肉体が手に入ると解ったらしく我先にと投身自殺をする。もちろんその先は世界一深いマリアナ海溝。当然足が届かずに溺れる人が続出したため、柊家やセフィロト社のスタッフが慌てて救難ボートや浮き輪を投げ込み次々と救出していく。
そんな事をしているうちに、とうとうインフィニティコードが入っているであろうフェイクフィールドが引き上げられた。二つの陣営は中身を安全な場所で取り出すため、一度柊家の島へと向かった。




