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イマジナリゼロ  作者: 加賀美彗
終わる世界と始まる世界
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未来への誓い

 ずぶ濡れの柊刻矢は、悲しみの表情のまま近くの豪華客船に降り立つ。乗っていたのはナイトメアだと思われる存在達。人の姿はしているものの、身体が透けており中のコードまで見えている。

「コード……」

「お前達のリーダーであるネオ・アダムスは俺が倒した!」

 透けている子供達に動揺が走る。最初刻矢の言っていた事が理解出来なかったみたいだが、言葉の意味を理解すると恐怖に塗り潰され逃げ惑う。

「嘘、でしょ?」

 透けている存在の一人――かつてパンサーだった躍り娘風の少女がやって来る。死んだハズの彼女は刻矢に掴み掛かり床へと押し倒す。

「何でよ! 何でアークを殺したのよ!?」

「俺だってこんな結末は嫌だった。あいつの願いを最期になってようやく知ったんだよ……!」

「カラドリウス……あんた泣いてるの?」

「……ああ」

 刻矢は悲しかった。悲しみと絶望を理解していたからこそ、アーク――ネオの最期の言葉が嫌でも理解出来る。もし立場が違っていれば、ネオと同じ道を進んでいたかも知れないと刻矢は考えた。

「俺はいつになっても変わらないな。目の前にある苦しんでいる命を救えなかった。お前達の事も、結果的に殺してしまった」

「でも、インフィニティコードならやり直せるかも知れないわ」

「それでも俺やお前達の罪は消えないさ。お前は西区で人を殺したじゃないか」

「それは――」

「確かに罪は消えない。だが、償う事は出来るさ」

 黒のタンクトップと迷彩柄のズボンを着た男と白衣の少女がやって来る。白衣の少女は憎悪の表情で刻矢を睨んでいるが、タンクトップの男が何とか諌めている。

「始めましてだ柊刻矢。俺はリッド・アダムスでこっちは妹のニコルだ」

 刻矢は名前で二人の存在を理解した。ネオにとってたった二人の家族。守りたかった人達が目の前に居る事を。刻矢は彼等の弟であり、最後の希望でもあったネオを自らの手で殺してしまった。世界を利用した結果の自業自得とはいえ、あまりにも惨めな最期と誰かを確かに想う願い。刻矢は何としてでも叶えてやりたかった。

「言い訳かも知れないが、あいつって昔はああじゃなかった。当時クリストファーは親父達の部下だったが、同時にネオにとっては友達だった。クリストファーの話を聞いて、コードを兵器ではない本来あるべき姿に戻したい。クリストファーと柊未弦を仲直りさせたいと願っていたんだ。あの日までは」

 刻矢は意外だった。ネオが刻矢と同じ道を進もうとしていたとは思ってもいなかったからだ。それどころか、他人であるハズのクリストファーの事を案じていた。本当は誰もコードで苦しむ世界を求めていなかった。クリストファー自体、本当は心の底ではナイトメアで苦しむ世界が嫌だったのではないかと刻矢は考える。

 しかし、ネオ達の死でセフィロト社も含め何もかもが変わってしまった。短期間で爆発的に増加したナイトメアと軍事産業。死んでいるという事実からの破滅願望と、家族を救いたいという彼の本来の良心との葛藤が続いた。

 そこまでしたのは恐らく家族を救うため、イマジナリゼロによってマリアナ海溝に沈んでいるインフィニティコードが欲しかったからだろうと刻矢は考える。同時にインフィニティコードを守る殻が、ナイトメアの力では破壊出来ないという絶望を知ったのだろうと想像する。

 その結果、ナイトメアは本人の予想以上に増大し彼等に醜い世界の現実を突きつけた。種をまいたのはネオ達だが、自滅をしたのは人間だった。今までネオを倒しうる刻矢に直接手出しをしなかったのは、自分達が失った希望になってくれるかも知れないと心の底では考えていたのかも知れない。そう考えると刻矢は虚しかった。

「俺はインフィニティコードを手に入れるハズだった。けど、ネオの人間性を信じなかった俺にその資格があるのか――」

「だからこそ貰って欲しいんだ。最初は難しいかも知れないけどさ、不器用なりに世界を変えたかったあいつもお前達の中に入れてやってくれないか?」

 弟を殺した刻矢に対し、リッドはまっすぐだが優しい表情で見つめ手を差し出す。刻矢は最初戸惑うものの、両手で彼の大きな手を握りしめる。

「全員だ。ここに居る全員や世界中の奴らを救ってみせる。俺一人では世界を少ししか変えられないかも知れないが、それでも俺は前に進むと決めたんだ」

「ありがとう。お前がカラドリウスで良かった。お前が世界から何と言われようとも、俺はお前の意志をナイトメアと呼ばないし呼ばせない。絶対に」

「あたしも一生かけて償うから! だから、あんたを手伝わせて欲しい!」

 かつて敵同士だった者達が刻矢を囲み手を繋ごうとする。これが人との確かな絆――父未弦が見たかった世界。許し合う事で繋がっていくこの世界こそが、新世界の鍵なのかも知れないと刻矢は考えた。ネオとクリストファー、そして未弦の意志を本来の正しい道へと導いていく。刻矢は改めて誓った。


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