帰り道
アクアが変化したシャドウ。そのシャドウが入ったエルナさんの体をディルクが抱き上げ、俺達は家路を急いでいる。
色々あったあの町から早く離れたかったんだと思う。
ディルクはエルナさんを失い、カフラはアクアを失い…エドは2人の友と決別。
こんなにも良くない事が立て続けに起きるなんて、運命ってのは一体どうなってるの?唯一魔物と町人の戦いが起こらなかった事を喜びたいのに、そのせいで兵士達は攻撃されて、家に火をつけられた。
もしかして、俺達が関わらない方が良かったのかな?
何処から間違ってたんだろう。
魔物のボスを見付けて戦いを食い止めようとした所から?
薬草の調達に必死になっていた所から?
薬草不足だって話を聞いてしまった所から?
エルナさんの派遣が決まった所から?
あ…そうか、違う…元凶はもっと前だ。
10年前にボスを封じた“魔石”。それを町に隠していたんだよね?だけどボスは“魔石”から出ていてエドの家の屋根裏に隠れていた。
俺がボスを屋根裏から連れ出し屋敷に戻った事で町からボスの気配がなくなり、魔物は町への攻撃を開始させた…。
いや…例え俺達が関与しなかったとしても、人間の運命は変わらない。少なくともエルナさんの事は、俺達のせいじゃない…アクアとアルやシノは、どうなっただろう?
エルナさんが危険な目に遭っていればディルクは何が何でも町に行っただろう、そうなると俺達だって…結局、関わらないようにするなんて無理だったのかな?
なんて酷い現実逃避なんだろ。
もしあの時、なんて事を思っても無駄なのに…やり直しなんか出来ないんだ。だったら、進むしかない…。
「エルナさんが蘇ったら、部屋は何処が良いかな?」
皆黙っている中、率先して声を出した。
重い雰囲気で、何処かピリピリとした空気が漂っているから、かなり勇気はいったけどこのまま沈黙していたらもっと、もっと話し辛くなると思って。それに、無駄な話でもないでしょ?だって、エルナさんは蘇るんだもん…絶対に蘇るから。
こんな時、前までならエドが俺の後に続いて何か言ってくれたのに、今は足早に歩いているだけで少しも顔を上げてくれない。
また、いつか笑顔で喋ってくれるかな?流石に天使である俺には無理でも、他の皆に対して、昔みたいに。
それには、やっぱりアルとシノの2人と仲直りを?けどシノは人間には関わりたくないってハッキリ言ってたし、アルだってさようならって…エドも2人を開放したかったって言ってたし…それならどうしてそんなに落ち込んでるのさ!
いや…そりゃ落ち込むよね…生前からの友達、生前の自分を知ってくれている存在と決別したんだもん…。
もし、俺が今のエドの立場だったら?ポチ達が俺にさよならって言って行ってしまったら?
怖くて、想像も出来ないや…。
「ディルクの部屋か、その隣が良いのではないか?」
重く続く沈黙を破ってくれたのはカフラだった。
アクアの事でカフラだって穏やかな心情ではないのに、それでも普段通りに振舞ってくれる。俺が何時までも燃える家から出なかったのが原因でアクアはシャドウになって、今はエルナさんの中。
エルナさんが蘇った時、アクアはどうなるんだろう。シャドウとして出て来るのかな?それならどうしてエルナさんの中に入る必要があったんだろう?
現時点で分かっている事は、何もない。
「恋人同士だからね、同室の方が良いかも知れないね」
上空で声がして見上げると、思ったよりも近くにサクリアの顔があって、もう少しで頭突きをしてしまう所だった。
じゃなくて、恋人同士なのはそうだけど、記憶が全くない状態から行き成り同室はどうかと思うよ?
「む?2人で1部屋では狭いのではござらんか?」
狭さの問題じゃなくて!
記憶が全くないのに“奪う者”の事とか“魔石”の事とか覚える事が多い上に、更に恋人の存在とか言われても頭が混乱するだけだと思う。だから、ある程度生活にも慣れて、落ち着いてからそういう話をした方が良いと思うんだ。
「そうかも知れないけど、一緒の方が良いんじゃないかな?」
そう言ってサクリアは後ろにいるディルクを眺めた。
しっかりとエルナさんを抱き締めている姿は、蘇るまでは片時も離れないぞって意志を感じさせる。蘇ったエルナさんが混乱する以前に、ディルクが離れる事を許さない、か。
何よりも先に恋人の存在を思い出した方が心強いかな?そうかも知れないな…じゃあエルナさんの事はディルクに任せて良いのかな?
「アクアの事についても聞きたい所ではあるが…」
気になるのは俺も同じだよ。だけどどうなるのか分からない。それに、蘇ったエルナさんに尋ねたって何も覚えてないんだから聞くだけ無駄だ。だったら、アクアと同じ悪魔に聞いた方が確実に答えを知る事が出来る筈。
あの黒くなったアクアをシャドウと呼んだのだから、シャドウがこの先どんな変化をして行くのかも、知っている筈だ。
「それは、ラミアの方が詳しいと思う」
屋敷に戻ったら、ちゃんと話を聞こう。勿論カフラも一緒に。
「うむ…」
そしてエルナさんが蘇る時、確認しなきゃならない。それはエルナさんとアクアだけの問題じゃなくて、俺達全員に関わる、大事な事。
天使になった今だからこそ確認出来る…いや、友に聞けばスグに分かるような事なんだけど…核心がないからまずは自分の目で確かめよう。
「なんの話でござるか?」
話が途切れた俺達の間に入った恭治は、首を傾げつつ俺とカフラの顔を交互に見ている。
確かに急に黙り込んじゃったから気になるのは分かるよ?だけど、その質問に答えられるだけの情報が俺にもないんだ。
なにか答える事が出来るのは、屋敷に戻って、ラミアの話を聞いて、エルナさんが蘇った後。
じゃあ、話を逸らさないと…。
えっと、何か話題が逸れるような事…駄目だ、何も浮かばない…。
「知りたいのか?いやらしい奴め」
黙り込む俺に代わり、カフラがサラリと言ってくれて、それで恭治は色々と考え込んでしまったのだろう、赤い顔して「なんとっ!?」と変な声をあげた。




