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ディスペル  作者: SIN


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58/122

影

 消火活動も虚しく、家は燃え続けている。

 家の中からアクアの気配がするから生きている筈なのに、何度呼びかけても返事がない。

 瓦礫の下敷きになっているかも知れない?いや、それでも可笑しいんだ。

 アクアはカフラの友、だから“魔石”に戻れば家からの脱出なんて簡単な筈なんだ。それをしないのはどうして?気絶してしまっている?

 水の悪魔なんだから火には強いんだよね?それとも…弱い?だとしたらスグに助けないと!

 「何やってんだよ!」

 瓦礫を持ち上げようとして後ろに引き戻され、尻餅をついたまま見上げると恐ろしい顔をしたエドがいた。

 「中にアクアが!」

 それに気配がだんだん弱くなって…駄目だ、説明してる時間なんかない!

 急いで立ち上がって瓦礫を持ち上げるが、退けても退けてもガラガラと崩れてくるレンガや瓦が邪魔をして少しも中に入れない。

 隣ではカフラが中に向かって声をかけているが、気配は弱くなっていくばかりで返事はない。

 「ディルク!止めるでござる!」

 もう1度瓦礫を持ち上げた所で後ろから恭治の声が聞こえた。

 後ろではなく上空に視線を向けるが天使は1人も飛んでいない。

 「ディルク、落ち着いて!」

 サクリアの声もする。

 そして町人の悲鳴。後ろで何が繰り広げられているのか、見なくても分かる…エルナさんが町人によって倒されてしまった、その仇を討とうとしているんだ。

 上空には天使がいないから、きっとサクリアと恭治が身を挺してディルクを止めるのだろう。

 俺は視線を瓦礫に戻すと、撤去作業に戻った。

 「おい…止めないのかよ…」

 騒がしい後ろを呆然と見ているエドは、俺の服を引っ張りながら呟き、何故だか泣きそうな表情をしている。

 町人の身なんてのは少しも案じてはいなかったのに、流石に気になって振り返る。そこでは想像通りの光景が広がっていたのだが、今まさに攻撃を受けそうになっているご婦人の顔には覚えがあった。

 エドの家を壊す前に俺達に依頼をして来たご婦人に違いない。町に入る時に顔を隠せ、とか微妙にエドを守ろうとしていたっけ。そうだ、確かご両親を魔物に倒されたエドの育ての親だっけ。

 育てられた事なんか覚えてない筈なのに、やっぱり恩人が倒されるのは怖いのかな?

 兵士を攻撃した町人が誰なのか、家に火を付けたのが誰なのか、それは全く想像もつかないけど、あのご婦人ではないような気がする。いや、そうじゃないって信じたい。だって、エドを育てた人だよ?口と態度は多少悪くてもエドは良い子だ。そんな良い子を育てた人がクズだなんて思えない。

 「暴れてる場合じゃないよ。エルナさんの部屋を用意する為に屋敷に戻ろう」

 ディルクの側に駆け寄り、背中をポンと叩く。

 こんな町に長居したくないでしょ?だからまず落ち着いて…エルナさんの仇だってのは分かってるし、許しがたい連中だと言うのも分かってる。だけど、ここで町人全員を倒してもエルナさんの魂は戻って来ないんだ。

 ガクンと膝を突いて座り込んだディルク、黒くて暗い気配は治まってはいないけど、もう町人を攻撃しようと言う気配はない。

 良かった。

 よし、早くアクアを助け出して屋敷に戻ろう!

 瓦礫の撤去作業を再開させて少し、かなり弱くなったアクアの気配が少しずつこちらに向かって来た。

 激しく燃えている瓦礫の中を真っ直ぐ、確実に1歩1歩近付いて来る気配。そしてスッと突然目の前に出てきたアクアは、気配所か、正面に見えている体から燃えている家が透けて見える程姿までもが薄くなっていた。

 それだけなら力を使い過ぎて弱っているだけと思う事が出来たのだが、実際はそんな平和的な感じじゃない。

 目の前にいるアクアから感じ取れるのは、かなり弱い気配。それよりも更に弱く、今にも消えそうな気配がまだ燃える家の中から感じ取れるんだ。そしてカフラは出てきているアクアの存在に気付いていない。

 カフラと一緒になって瓦礫撤去作業をしていたラミアには見えているのだろう、存在が薄くなっているアクアの隣に並んで立ち、

 「聞こえる?返事して」

 と声をかけた。それにより異変を感じ取ったカフラが駆け寄ってきた。しかしアクアはボンヤリと漂っているだけで返事をしない。

 フワリ、フワリと漂い、まるで吸い寄せられるかのようにゆっくりとエルナさんに向かって移動するアクアの体は、徐々に真っ黒な影になっていく。

 「シャドウ…」

 ラミアは燃える家を振り返り、大声でアクアの名前を呼んだが、少し前から家の中から感じていた気配はしなくなっていた。丁度、フワフワ漂うアクアが黒く変化を始めた頃に。

 シャドウと言うのは何なのだろう?だけど、アクアがそのシャドウになった事は紛れもない事実。

 真っ黒な影のような姿になるからシャドウ?

 フワリ、フワリとエルナさんに辿り着いたシャドウ。何をするのだろう?そう疑問に思う間もなく、スゥッとエルナさんの体に吸い込まれるようにして消えた。

 「今のは…?」

 声を上げたのはサクリア。

 そうか、サクリアは魔物だからシャドウが見えていたんだ。

 「…良くは分からぬが…多分アクアだ」

 そしてカフラは見えていないにも拘らず状況を把握していた。


挿絵(By みてみん)

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