契約
唯一の交流手段であった洞窟の中に魔物が住み着いた最北端の村に、安全なルートを確保すると言う事で工事が始まっている。
俺が最北端に来てから2週間だから、工事が始まってそれ位になるんだろう。
工事は二通りが同時進行して進められていて、1つは夏の間だけ利用可能な山道作り。冬になると積雪やら気温やらの問題で山に入る事が禁止されているらしく、その冬の間に使う橋の建設だ。
少し離れた離島にまで橋をかけ、そこから村に向けて橋を伸ばす、と言うスケールの大きな工事となっている。
俺達は山道が出来上がるまでと言う事で、洞窟を通って村に食料などの物資を届けて過ごしている訳なんだけど、平和なんだ。
そりゃ、平和に越した事はないんだよ?そうなんだけど、洞窟の中に魔物が住み着いたからこう言う工事になってる訳で、だから、こぅ…じゃんじゃん魔物に遭遇して、ってのを想像してたんだ。
洞窟内はかなり広いから、魔物と入れ違いになっている?にしたってここに来て2週間、1度も魔物と遭遇しないのは可笑しい。
「なー、ここって、本当に魔物住んでんのかな?」
村に食料を運んだ帰り、洞窟の中間地点で不意に足を止めたゾンビンが辺りを見回しながら声を上げたんだけど、周りにいた他の“奪う者” 達は、「それはお前らだろ」みたいな顔をしてそのまま出口に向かってしまい、今はもう俺達だけになってしまった。
蘇った“奪う者”だって何回説明したって村の人は俺達からは直接物資を受け取らないし、人には見えない俺とゾンビンを出来るだけ洞窟の中にいさせようって事で休みなく物資を運ばされているんだからクタクタだしで、ヤサグレ気味だ。
フラケシュンとオチムシャンは、顔色の可笑しな人と、頭になにか刺さってる人って事で今は山道を作るお手伝いをしているらしい。
「魔物、探してみよっか」
どうせ出口に行ってもまた物資を渡されるだけだし,村に行っても受け取ってもらえないんだから少しの自由時間があっても良い筈だ。それに、俺達が洞窟の中にいた方が安心なんでしょ?
こうして洞窟を奥に進んでしばらく、微かに聞こえ始めた話し声の方に向かって、ゆっくりと前進して…ついに、俺達はここに来て始めて洞窟の中に魔物を発見した…んだけど、その姿は非常に見覚えがあって…。
「リル…こんな所でなにやってるの?」
思わず声をかけながら近付いていくと、隣ではゾンビンが「誰?」みたいな顔をしながら俺の腕を引いている。
あぁ、そうだった、リルの特訓をしていた時ゾンビンはいなかったんだっけ。
「し…師匠?お久しぶりです!」
ま、また師匠って呼ぶのか。まぁ…ゾンビンにリルの説明しなきゃって思ってた訳だし、師匠って呼ばれるとその説明が簡単になるから良いんだけどね。
「弟子だよ」
おしまい。
弟子ってどう言う事だーと言いながら俺の腕を引く力を強めたゾンビン。だから肩から腕がスポンと抜け、勢い余ってゾンビンは後ろに倒れた。その間にリルに近付いて状況を聞く。
俺と別れた4ヶ月前、修行をしながら北上を続けたリル達は、1ヶ月程前にこの洞窟に着いたのだと言う。
それはエルナさんが俺達に依頼を持ちかけてきた時期と重なっている。
リルに聞く所によると、この洞窟の魔物は、そんなに強い固体は存在しないとか…そして極め付けが一緒に修行の旅に出ているこの3人の魔物、時々村の近くにまで行って物資調達をしているのだとか。
つまり…洞窟に住みついた魔物、って言うのはリル達の事…だったんだ。
これは、絶対に皆には黙っていよう。
「私、まだ半人前ですけど、今日師匠に会えたのは運命ですよね!そこで、教えて頂きたい事があるんです」
キラキラとした瞳が眩しいぞ弟子よ…でもさ、何の力にもなれなかった俺を、まだ覚えていてくれたんだね。
弟子の期待を裏切らない位役に立てれば良いんだけど…どうだろう。
「私はこの3人と修行を積んで…掛け替えのない友達になりました。お供にするならこの3人しか考えられません。しかし、奪う者は2人までしか魔物と契約できません…師匠にはお供が3人いらっしゃいますよね」
同時に2人以上と契約する方法を教えて欲しいって事、か…けど、そんなの俺だって分からない。
ルシファー入れると俺の友は4人、そのルシファーとも契約してないままなのに友って事になってるし、ペペはそのうち説明するからって言ってたのに、何も教えてくれない。だから、自分なりに色々考えてみたんだ。
ポケットから魔石を3つ出して足元に置くと、リルだけじゃなくゾンビンまでもが興味深そうに俺の足元にある魔石を凝視し始める。
「普通、魔石を契約者が持たないと友って言うのは魔石から…どうなる?」
足元で俺に向かって青く光ってくる魔石から2歩離れ、そう問題を出しながらリルを指差す。リルは戸惑った風にキョロキョロとしたが、
「呼んでも出てこれない?」
と、小首を傾げながら答えた。
これは“奪う者”ならば知っていて当然の常識問題だったようだ。なら、ゾンビンにも1問。
「正解。じゃあ、この状態で呼び出したところで?」
ゾンビンはどうやら引っ掛け問題だと思ったらしく、長い事考え込んでいたが、
「出て来ない…だろ」
と、正解にもかかわらず自信なさそうに答えた。
更に2歩魔石から離れ、魔石に向かって「出てきて」と声をかけて数秒後、ポチ達は何でもなさそうな顔をして出てきた。
「なっ…」
「ど、どう言う事…?」
ゾンビンもリルも、目を大きく見開いて出てきたポチ達と魔石、そして俺を順番に何回も見ている。その慌てふためいている様子を見ながら、カメラを持って来なかった事を後悔してみたりして。
「契約した魔物は、契約者の生命エネルギーから栄養補給をするからお腹が空かなくなるよね?けど、ポチ達は魔石から出て狩をして、自分達でご飯を用意してるよ」
屋敷に住み始めた頃は皆が食べ終わった後、残り物を食べていたらしいんだけど、オチムシャンが食事当番をするようになってからはポチ達用の食事も用意してくれるようになったんだ。ポチ達はその3人分の食事を、4人で仲良く食べている。
「師匠、一体どう言う事なのですか?」
あ、説明の途中だった。
「俺とポチ達の間に契約的な事は何1つないから、契約者とお供と言う関係性ではないんだよ」
契約自体がいらない、とペペが言っていたんだからこれは確かな事。じゃあどうして友として傍にいてくれているのかって聞かれても、それは生前の記憶を失った俺では答えようもない。
「私が…この3人と契約する事は出来ない…そう言う事なんですか…?」
完全に落ち込んで顔を伏せてしまったリルに、どう声をかければ良いのかも分からずにいると、ペペが何でもなさそうな顔で、程楽天的な発言した。
「そんなにその3人と一緒にいたいのなら、一緒にいれば良いじゃない」
そりゃそうなんだろうけどね。
「…貴方達は、どうして契約もしていないのに師匠を守るんですか?どうして魔石から開封もされていないのに出て来れるんですか?」
この質問の答えは、俺も聞きたい。
「魔石に封印される前から契約をしていたから…かしらね。普通の魔物には出来ない事よ」
俺が封印する前から誰かと契約を?それだと可笑しい。他の誰かの友なら、魔石に封じる事自体が出来ない筈だし、そもそも俺が魔石を持っていたって契約者じゃないのなら出て来れない筈だ。それを思うと、俺が持っていないにも拘らずポチ達はいとも容易く魔石から出て来る。
「どうやるんですか?教えてください!」
必死な顔でペペに頼み込むリルだが、そのペペは俺を見たまま無言で、ポチも、ピヨも無言のまま俺を見ている。
俺に、答えを求めてるのかな?
俺が考えた答えが正解かどうかは分からないけど、それを言ってみろと言われてるのかな?無言だけど。
それが、そのままリルへの答えにもなるのかな?
外れてたら恥ずかしいから自信満々に言うのはやめるけど、多分正解だと思うから…エントリーナンバー1番、俺。答えます!
「俺は一般的な“奪う者”だから、3人と一気に契約とかそんな大層な事も出来ないし、触れてもいない魔石から友を呼び出すなんて奇術並みの事だって出来ない。けど、現に俺には3人の友がいるし、呼び出せた」
俺が特別なんじゃなくて…
「この3人が特別…だから?」
ゾンビンはポチ達を指差しながら自信なさそうに言うと、自分で言ったくせに首を傾げて黙り込んでいる。どうやら当てずっぽうらしい。
「俺の考え付いた答えは、ポチの契約者はポチ。ペペの契約者はペペ。ピヨの契約者はピヨって事。当たってる?」
確認の為にポチ達を見ると、ゆっくりと頷いている。
そっか、やっぱりそうなんだ…でも、これでモヤモヤしてた事の説明が付いた気がする。ルシファーが「勝手に開封していた」と不思議な説明をしたのも、きっとその時点で既にルシファーは自分で自分と契約してたんだ。
あれ?でもあの後“黒き悪魔”として戦った時、皆の魔石に少しずつ封印されてたよな…自分と契約してるのに他の魔石に封じられるって事が起こりえるのか?
「し、師匠…それは、一体どう言う…」
アレ?まだ分からない?と言うよりも信じられないのかな?
「だから、俺は魔物であって奪う者且つ、自分自身と契約して魔石に入った魔物を友達に持っている、って事。その3人を友にしたいなら、その3人をまず奪う物にする必要があるんだよ」
そうは言っても“奪う者”になるって言うのは、修行を積んでどうにかなるものでもない天性のもの。だからって諦めてしまえなんて事、口が避けたって言えない。
弟子の悩みを解決出来ないなんて師匠じゃない!
「リル、空の魔石は持ってる?
どうやれば自分を封印する事が出来るのか、それは分からないけど、現に魔石に自分自身を封印したポチ達がいる、少しでも“奪う者”としての素質があるなら、そんなに難しい事じゃない…筈だ。
リルは空の魔石を3人の仲間に手渡し、3人はそれを受け取り、嫌そうな顔をしながらもしっかりと握っている。
「3人の中で1人でも奪う物になれれば、後の2人はリルが契約すれば良い。ポチ達もサポートしてくれるよね?よし、じゃ~ファーストチェレンジスタート!」
始めの勢いが大事かも知れないって事で元気良く声をかけると、魔物の1人が焦った風に手を上げ、俺に負けない位の大声を上げた。
「使い方のヒントもないんかい!」
素質があれば自分に押し付ければそのまま封印って事にはなると思うんだけど…確かにポチ達のアドバイスもなく急にスタートって言うのは勢いが先行し過ぎちゃったかな。
「まぁ、封じると強く念じるって事と…怖がらないって事だな」
面倒臭そうに頭をかきながらでも、しっかりとしたアドバイスをしてくれたポチに続き、ピヨも腕を組みながら、
「出来るだけ強く押し付けた方がやり易いかも知れんな」
と、多分自分の経験を語った。
「奪う者の素質があるなら、それだけで問題ない筈よ」
そして最後にペペの言葉。
素質がなかったら?とは士気が下がるので言いません!寧ろ、出来るまでやるからね!俺、今の気分は鬼師匠だから、覚悟してよ。




