↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ディスペル  作者: SIN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/122

弟子の日

 弟子が連れている3人の魔物を“奪う者”にするための特訓を始めてるんだけど、成功する兆しは残念な事に見えない。

 3人は必死の形相で自分を封じようと魔石を体に押し付けてるんだけど、明らかに怖がっている。そりゃ魔物なんだから魔石を恐れるのは仕方ない事なんだけど“奪う者”になろうと言うんだから、その感情は消さないと使う事なんて無理だ。

 「どうしたら出来るようになるのかな?」

 魔石を持って自分に押し付けていると言うんだから、完全な脈なしではないとは思うんだけど…どうなんだろ?

 「私達の時は、傍に貴方がいてくれたから安心だったわ」

 リル達を眺めていたペペが、また不思議な事を言い始める。

 貴方って言うのは俺、なんだよね?俺もこうやってポチ達を“奪う者”にしたって事?じゃあ、俺達ってそれ以前からズット一緒にいたって事…なのかな?

 …ペペはリル達を眺めながら応援をしている状態だ、今ならなんでも言ってくれそうな気がする。

 「そうなんだー」

 なんでもなさそうに言いながら内心ドキドキする…生前の自分の事が少しでも分かると言うのは、怖いような、嬉しいような、そんな不思議な感覚だ。

 「早く魔石に入りたいと思った」

 前にいるポチが返事をする。

 「そんなに、急いでたんだ?」

 「お前が早いモン順で3人連れてくって言うからだろ!」

 早いモン順で3人?ポチ達の他にも何人かいたって事…なのかな?“奪う者”にしようって言うんだから、そこにいた人は全員親しい関係だった筈。今は何処で何をしてるんだろう?

 俺は、ポチ達を“奪う者”にして、なにをしようとしてたんだろう?

 「昔から無茶ばかりよ、貴方は」

 無茶をしようとしてた…って事?

 魔物を“奪う者”にしようと言う発想がもう無茶か。

 俺が何をしようとしていたのかは分からないけど、傍にいてくれた事が安心に繋がるのなら、リルに教えてあげないと。

 「リル、出来るだけ3人の傍で見守ってあげて」

 遠慮がちに3人に近付いたリルは、邪魔じゃない?と尋ね、そう言われた3人は大丈夫、と返事をしたんだけど、その中の1人が更に魔石を自分に強く押し付けながら、

 「俺が1番になったら、肉食わせろ」

 と。

 そして聞こえて来る腹の音。

 数時間はこうしてるんだから単純に数時間は飲食してないけど、それだけでリル達全員から腹の音が聞こえてくるものだろうか?

 雪山での作業が始まったのは2週間前、その間洞窟を行き来していた俺達は1回も魔物の姿を見なかった。

 この洞窟に住み付いた魔物と言うのがリル達の事なんだから、食料調達に2週間行っていないと考えられる。

 「じゃあ1番に出来た人には最高級ステーキ、1人前全部食べて良い!一口頂戴、も封印しちゃう!」

 いつもは1人前を皆で分けて食べているのか。こんな場所で野宿をしているんだから慢性的な食糧不足なんだろうな…。

 「なっ…なんですって…」

 「最高級…だと」

 「ぜって~負けねぇ!!」

 と、聞こえる4人分の腹の音。

 そこまで限界にきてるなら、なにか食べさせてから続きをしようとも思ったんだけど、ステーキを食べる、と言う目的が出来た3人の魔物のやる気には確実に火が点いた筈だ。だったら、もう少し様子を見よう。

 1時間もして何の進展もなければ、きっとこの3人は“奪う者”にはなれないんだろうって事で、

 「あぁ…どこかで見た光景…」

 リル達のやり取りを見ていたピヨが、何故か俺を見ながら溜息を吐いている。それから想像してみると、きっと俺が早いモン順でーとか言った時の事を思い出してる…のかな?そっか、こんな感じだったのか。

 俺が連れて行くと言う事を目的にしてくれた、そんな事の為に魔石の恐怖を乗り越えてくれた。そこまでする何かがあったから、今こうして友として一緒にいてくれている。そう考えるとさ、ポチ達にとって生前の俺と言うのは、一体どんな存在だったんだろうか?なんて気になってくる。

 グゥ~~~~~~。

 今のは、大きかったな。

 弟子が倒れる前になんとかしないと!

 「3人はリルを囲むようにして。リルは緊張し過ぎだよ、ほら、最高級ステーキの事を考えて」

 とにかく、魔物の3人には恐怖以上の何かを感じさせなきゃならない。そりゃ今もリルを大事に思ってるんだろうし、お腹が空いたから肉も食べたいんだろうけど、それがバラバラじゃー駄目なんだよな、その2つを足して大きな出来事にすれば、もしかしたら恐怖に打ち勝てるかも知れない。

 「…腹減った…」

 「肉なんて、いつ位振りでしょうね…」

 「塩コショウで…いただきます…」

 えっと…。

 君達が全力で肉の事を考えてどーするのさっ!

 「キャベツも食べなきゃダメよぉ~…」

 想像の中で、なにか物凄い仲良く食事中ですか?!これは駄目だ、もう限界ギリギリまできてる感じがする。

 「全員白昼夢?!もしかして物凄い飢えてんじゃね~のか?!」

 今まで暇そうにしていたゾンビンが、流石にこの異常な光景に黙ってられなくなったんだろう、立ち上がるとリルの肩をガクガクと揺らし始め、そんなリルは遠い目のまま。

 「昨日の夜で食料は尽きました…」

 と。

 あ、なんだ、まだ半日も経ってないんだな。

 「安心して、水さえ飲んでれば1週間は大丈夫だから」

 とは言うものの、これだけお腹の音が凄いんだからやっぱり後1時間位したら休憩にしようかな。あんまり断食させちゃうと回復食から入らなきゃ駄目だから、肉なんて食べられなくなっちゃうし。

 「そんなに続けさせる気かい!」

 1週間と言う言葉に我に返ったらしい1人の魔物が、驚愕の表情で俺を見ている。まぁ、1時間のつもりだったんだけど…。

 「なに言ってんの?出来るまで、だよ?」

 さてさて、どうするかな~?

 「鬼!悪魔~~~」

 出来るまで、と言う言葉で他2名も幻想世界から帰還を果たしたようだ。これで、まだ幸せそうな想像を膨らませているのはリルだけ。

 「そんな事言ってる暇があるなら、さっさとセカンドステ~ジスタート。魔物と違って人間は飢えに弱いから、先に精神に来るんだよ」

 言いながらニヤニヤとしているリルを指差してみると、3人は一斉に「うへへ」なんてなかなかのパンチ力で笑っているリルに注目し、3人は3人で顔面蒼白と言う物凄い反応を見せた。

 「安心して、ここは俺達が見張ってる。急に人が入ってくる事もない。それに、“奪う者”になった瞬間に魔石による恐怖はなくなる。大丈夫、落ち着いて」

 それに食事だって1時間もしたら出してあげるから、とまでは声に出さずにセカンドステージスタートを告げると、最初の頃に比べると表情が凛々しくなった3人の魔物は、物凄い気迫で魔石を体に押し付けた。

 それでも成功者は1人もいない。

 「リル、待っとれよ…スグなんか食わせてやるからなっ!」

 「ステーキですよ、一口でも、二口でもあげますから」

 「キャベツもつけてやっからな!」

 「皆で…焼肉したいな…うふふふふ」

 魔物3人の言葉に答えるようにリルは笑い、その瞬間洞窟内の人口密度が一気に減った。そしてコロンと転がる魔石が3個。

 まさか、3人同時とは思わなかったな。

 「次は自分との契約だね。ペペ、どうやるのか教えてあげて」

 後の事は分からないのでペペに任せ、ゾンビンの手を引いて後ろに下がろうとしたんだけど、何故か手を振り払われてしまい、どうしたのかと顔を覗き込んでみると、怒って…るのかな?俺を物凄い目力で凝視してた。

 俺のやり方がちょっと酷かったからかな?でも、魔石に対する恐怖心を取り除かなきゃ何日かかっても“奪う者”にはなれないんだ。素質があっても、無意識に魔石を拒絶してしまってるんだから入るなんて無理。魔物である以上魔石は恐怖の対象、それはしょうがない。その恐怖に打ち勝つには、どうしたってリルと言う存在が重要になって…その結果、あの3人は自分から魔石に入るという恐怖の道を選んだ。

 3人同時だって言うんだから物凄く仲が良いんだろうね、成功した切欠もきっと、皆で焼肉食べたいから、だろうし。

“奪う者”になった3人の魔物は、自分達の魔石をリルに手渡している。

 自分で持ってるのが1番安全なのに、それを態々預けると言うのは信頼している証だ。

 「じゃ、火を起しててね。買出しは任せて、ここは俺のおごりだよ」

 ドンと胸を叩くつもりがスカッと肋骨の間を通り抜けた腕は、結構な勢いで背中にまで抜けて、ガチャンと大袈裟な音を立てながらズレてしまった。それを気合を入れて元の位置に戻し、今度は慎重に胸を叩いてみると、リルは、

 「良いんですか?」

 と、遠慮がちな言葉とは対照的な大笑いを始めた。師匠としての威厳はないけど、笑いが取れたからよしとしよう…。

 「最高級ではなくなるけど、文句ないよね?」

 買出しは、作業員達が寝泊りしているキャンプ地の近くに設けられた路上市場、当然だけど物資不足だからお値段はちょいと高めだ。依頼の潤いはまだ少しはあるけど、リル達4人と、ゾンビン、ポチ達3人の8人分の肉となれば相当な量になる筈。野菜で量を誤魔化そうかな?いいや、とりあえず買い出し買い出し。

 師匠の癖にけち臭い、とかなんとか言う声に背を押されながらゾンビンと2人で洞窟を抜けて、そのまま露天市場に向かおうとしたんだけど、洞窟の出口には何人かの人がいて、俺達を見つけるなり待ってましたとばかりに新しい荷物を手渡してきた。いつもなら大人しく洞窟に引き返してる所だけど、今は弟子の為に食料を調達しなきゃならないから市場に行くよ!

 露天市場に行くと、明らかに俺達とは目を合わしてくれない商人が数名。まぁ…食品売ってる所に骸骨やらゾンビは、確かに駄目なのは分かるんだけど…。

 嫌な顔をする商人から食料を買い、その荷物と、洞窟の入り口で手渡された荷物を持ってリル達の所に向かっていると、それまではズット黙ったまま俯いていたゾンビンが急に顔を上げて前に立ちはだかって来た。

 そうだった、ゾンビンの機嫌はそんなに良くなかったんだっけ。

 「俺、ガイコツンの事…分かんなくなった」

 ん?なにが?

 難しい問題を出した訳でもないし…魔石に触れなくてもポチ達が呼び出せるって答えを言ったんだから、寧ろ謎なんか何もないよね?なのに、分からないって…その言葉の方が余程の謎だよゾンビン。

 「リルが飢えてる事、本当は知ってたんだろ」

 いつまで経っても返事をしない俺にシビレを切らしたゾンビンは、俺が分からないといった理由を喋ってくれた。

 「あれだけ腹の音が聞こえてりゃーね…」

 それでも、やっぱり可笑しい。リル達のお腹の音はかなり大きかったし、誰が聞いたって飢えてる事位は容易く想像出来た筈だ。

 ゾンビンだけが気付かなかったとも考え難いし…

 「仲間の応援させるって理由で3人の真ん中に立たせたのだって、肉の想像をしたリルの顔を見せるためだったんだよな?飢えた人間は精神に来るとか脅してさ…」

 あ、やっぱり俺のやり方が酷かったから怒ってたんだな。

 脅したつもりとかはなかったんだけど、ゾンビンにはそう見えたって事なんだよな…分からないとまで言われる位には非道に見えたんだ。

 「結局ガイコツンの思惑通りに3人は奪う者になったんだ…買出しに俺だけ呼んだのもなにかの作戦かよ?!なに考えてんだよ!」

 そこまで警戒されるような事は何も考えてませんからね?!ただの荷物持ち要員ですからね?!

 そもそもあの3人が“奪う者”になったのだって元々の素質の問題だから直接俺が何かしたって訳でもないし、リルが皆で焼肉が良いと言ったから3人同時になっただけで…そりゃ思惑通りと言われたらその通りと言うか…希望が叶ったって事にはなるんだろうけどさ、そんな作戦とか言われても…。

 あ、そうだ。

 「5月には子供の日って言うのがあるんだって、知ってた?」

 イベントの話をしたら、きっと機嫌を直してくれる筈だ。だってゾンビンはイベント事が好きだしね。

 「子供の日?」

 やった、興味を引けた。

 色々調べてて良かったよ~。

 「うん。でね、俺には子供いないからさ、急遽弟子の日って事にしたんだよ」

 掛け替えのない存在って事なら、それでも問題ないだろうし…これからも子供なんて…出来ないんだろうしさ。

 「それで全財産肉につぎ込んだのか?」

 い、いやぁ…

 「全財産じゃないけど…」

 ギリギリ傷薬1個分位のGは残ってるよ?傷薬1個10Gなんだけど…だ、だって弟子の日だし“奪う者”の友が3人出来た記念だし、うんうん、出し惜しみするような日じゃないって事で…えっと…。

 「やっぱ…バカなのかな…」

 なにおぅ?!

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。