甲板にて
骨折も治った4月の中場、過ごし易い季節になったね~なんて言葉を町でちょくちょく聞くようになった春真っ只中、の早朝。
まるで遠足前の準備に取り掛かる落ち着かない小学生の如く、俺は広間をウロウロとしていた。
なんだって今日だからね!最北端に行く為のハイキング!
ハイキングの参加者は俺と、勿論フラケシュン。それにオチムシャンと、風がきついと言うのに何故か行きたがったゾンビンの4人。
ゾンビン曰く、眼帯があるから無敵。なんだって。
早めの朝食を済ませ、3回目位の鞄チェックを終えた頃にエルナさんがやって来ると、ハクシャクンは威圧的な握手をしながら、恐ろしい程の作り笑顔で俺達の事を頼んだ。
こうして出発した俺達は、エルナさんを先頭に北ではなく西に向かい、それで物凄い豪華な船に乗り込んだ。どうやら北にも港町があるらしく、そこまでを船で移動するのだとか。
俺達が乗り込んだ船の他にも、建設に使う材料を運ぶ船が数隻と、その周りに魔物や海賊から材料を守る見張りの船、大砲が着いている船まである。
「凄いね~」
なんて言ってみた所で、実は俺の感心はまったく別の所にあったりして…。
「そうでござるな~」
隣ではオチムシャンが甲板から身を乗り出す勢いで船を見ているんだけど、やっぱりどうしても気になるのは、フラケシュンとエルナさんの間に流れている、なんとも言えない微妙な空気だよね。
独特な甘さを放出しまくっているくせに無言とか、どんな不思議空間を生み出してるんだよあの2人。
「なぁ、ガイコツン」
そんなフラケシュン達をしばらく横目に見ていると、ソンビンが近付いてきて耳打ちしてきた。その視線は、やっぱりフラケシュン達に向けられている。
「どうしたの?船酔い?」
絶対違うんだろうな、とか思いながら返事をしつつ、フラケシュン達に会話が聞こえないようにと船尾の方に移動して、なんとなく荷物の後ろに隠れてしゃがみ込んだ。
ここなら大声を出さない限り俺達の会話が聞こえる事はないだろう。
「何で蘇った奪う者には記憶がないんだろうな…フラケシュンにとってエルナさんは、大事な人だったに違いないのに…」
ゾンビンの言葉は、予想以上の重たさで、俺自身も何度も思った事だった。
蘇った者には記憶がないって言うのは“奪う者”にとっては常識なんだけど、どうしてそうなるのかって言う詳しい話は1度も聞いた事がない。そもそも蘇るメカニズムさえ分からないんだから、きっと考えたって答えは出ないんだろう。それでも、エルナさんが時々見せる寂しそうな、悲しそうな…そんな表情を見てると、考えてしまう。
どうして俺達には記憶がないんだろう?
後何度そう考えれば答えが出るんだろう?
答えが出ないと言う答えは出ているのに、無駄な自問自答は止めとこう。
「エルナさんにとっては、今のフラケシュンも大事な人なんじゃないかな」
エルサさんだけじゃない、きっとフラケシュンにとってもそうだと思う。記憶がなくても大事だって感情は、あるんだと思う。だからこそのあの雰囲気なんだろうし。
だったら、もしかしたら、記憶があるとかないとかってそこまで深刻な問題じゃないのかな?
「…覚えられてないって、どんだけ悲しいんだろうなって、思ってさ」
覚えてあげられなかったと言うのも、きっと悲しいだろうな…。
ミイランや俺の知り合いはいなさそうだけど、ゾンビンの知り合い…は町ぐるみでゾンビンを追い出したんだっけ、思い出しただけで腹が立ってくる!
じゃなくて。
ハクシャクンやオチムシャンの知り合いは、いる筈だ。
魔物なのに“奪う者”になったハクシャクンは、ゾンビンみたいに知り合いに攻撃されて町を追い出されたりしたのかな?
オチムシャンにも大事な人がいたりしたのかな?
家族がいるなら、絶対に会いに行った方が良い。
こんな事、本人にどうやって言えば良いんだろう?
旅人をしていたオチムシャンの故郷は、どうやって探せば良いんだろう?
「何をしてるんでござるか?」
ゴザル口調からして、出身地は地方っぽい。そんなちょっと失礼な事を思っていた矢先、まさかまさかのご本人登場で、ビックリし過ぎた俺は勢い良く立ち上がり、
「おっ、俺達は…オチムシャンがフンドシかどうかの討論してたんだよ!」
と、全くもって話題にもなっていない事を口走っていた。
話しの内容はフラケシュンとエルナさんの事や、蘇った“奪う者”に記憶がない事なんだから、誤魔化す必要も何もなかったんだろうけど、オチムシャン登場の直前に考えていたのはオチムシャンの事で、家族に会いに行った方が良いんじゃないか?って言う大きなお世話的な事なんだから…やっぱり誤魔化した方が良いのかな。
「なっ、なんと?!」
誤魔化そうと言うんだから、こんな下着の話じゃなくて、もっと物凄い話題の方が良かったのかも知れないと、急遽別の話題を考え始めて少し、オチムシャンからの反応が返ってきた。
えっと、そんな時間かけて驚くような事?
なんにせよ、話題はこのままで良さそうだ。
「で、フンドシ?トランクス?もしかして、ブリーフ?」
言って少し思ったのは…本当になんなんだろう?普段は着流しだから、やっぱりフンドシなのかな?
「まさか、履いてないとか?」
どうやら、ゾンビンも気になったらしい。
「なっ!」
いや、だからそんな絶句する程の話題じゃないと思うんだけど?
待てよ…絶句するって事は、履いてないのかな?いやいや、でも戦闘が始まった時に履いてなかったら、なにかと不便なんじゃないだろうか?揺れて痛いとか…。
「ね~ね~、どれなのさ~」
かなり、気になる。
答えが聞けないなら、裾を捲り上げてでも答え合わせをしたい位だ。実際そんな事をしたら物凄い勢いで怒られるんだろうけど、それでも構わない位に知りたい!
「俺はトランクス派だぞ~。俺が言ったんだから、教えろよ~」
ゾンビンは楽しそうにそう言いながらズボンを少し下ろし、見事なまでの柄パンをオチムシャンの前に仁王立ちした格好で披露した。
俺も言ったんだから、と言うよりも見せたんだから、のような気がするんだけど、そこは、まぁ…ツッコミません。
「じゃあ俺は骨派?」
一応ゾンビンの横に並び、同じように仁王立ちしてみたんだけど、特に見せられるようなものはないので手は腰に当ててみる。するとズボンをゴソゴソと上げたゾンビンが俺の体をジッと見つめ、
「ガイコツンって、よく考えたら…裸体じゃん」
と、良く考えなくても分かって欲しい事を呟いた。
頭にはアフロのカツラを被ってるから、アレだ、頭かくして全身隠さず、だ。
「らっ!裸体とは…そ、そんな不埒な!」
裸体じゃなくて骨だからね?それに見慣れてるでしょ?
あ、そうか…分かった。
オチムシャンは俺の容姿とかそう言うので不埒な、とか言ってるんじゃなくて、言葉に弱いんだな。顔を真っ赤にさせる程に。
そもそも容姿でアウトなのならミイランの、包帯のみ、と言う過激ファッションには耐えられない筈だ。
「わ~い、わ~い、裸体♪」
「ら・た・い♪ら・た・い♪」
ゾンビンと2人でオチムシャンの周りを回りながら裸体と言っていると、ますます顔を赤くしたオチムシャンは、少し離れた所まで走って避難し、振り返ってくると、
「もう知らないでござる!!」
と。
フンとそっぽを向いているオチムシャンの顔は耳まで赤くなっている。どうやら少し苛め過ぎてしまったらしいんだけど、裸体と言う言葉だけでそんな反応をされると、オチムシャンには恋人とかはいなかったんだろうな、なんて失礼な想像が出来てしまった。
あの、その…ゴメンね。




