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悪役令嬢フランシエスの悪辣推理  作者: 羽羽樹 壱理


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3/6

ただ、自身の美しさのために。

「こんばんは、アルベルト」


 私が近づくと、ワイングラスを手に彼と話し込んでいたソフィアとリゼットは、こもらせたような声で挨拶をしながら、引っ込んだ。


「こんばんは、フランシエス」


 わざとらしいくらい女性的な、ソフィア(ピーチ)とベルガモット(リゼット)の香りが散った頃。

 間をおいて、アルベルトも挨拶を口にしたけれど、彼の微笑みの表情は、まるで先ほど私が浮かべたようなソレだった。


「あら、どうしたのかしら? こんないい夜ですのに」


「――フランシエス嬢。君には、もう少し慎《つつし》みというものを覚えてもらいたい」


「まあ。わたくしが何かいたしましたか、アルベルト殿下?」


「とぼけないでくれ。先ほど君は、クラシス嬢に対して、きっと、随分と苛《いぢ》めるようなを言っていただろう」


「わたくしが、虐《いじ》めるようなことを? それは、事実でございますわね」


「認めるんだな……!」


 アルベルトは頬に一滴の汗を浮かばせ、ぎゅっと目を瞑った顔で言った。


「ええ。わたくしと、お話ししたそうにしていたので、少し」


「フランシエス!」


「まあ、怖いお顔」


「彼女は僕の大切な友人だ、頼むよ、フランシエス」


「まあまあ。そうですね、気に留めておきましょう。私にもグラスをよろしくて?」


「まったくもう……」


 仕方ないという顔で、それ以上は言わずに手ずから、グラスを用意してくれた。


 近衛騎士のエドガーは……今は、少し離れた場所で談笑している。


「乾杯。――あら、ヴィオニエ。それに、そちらはマスカットワイン? 白バラ由来で貴方様の誕生祭で振るまわれた、ゲヴュルツトラミネールが出てくるかと思いましたのに、また、不思議な香りのワインを好まれるのね」


「これらはクラシスが用意してくれた、ちょっとした趣向でね。まあ、ちょっとね」


「そうでしたか。――殿下と、彼女との関係は、少し不思議ですわね」


「不思議?」


「例えば今ほどのような些事で、殿下が、腹の底から声を荒らげられるほど、あの方を大切にしていらっしゃるとは思いません。しかし、いつか起こり得るやも分からない彼女の危機のためなら、あなたは、身の危険を冒してしまいそうな危《あや》うささえある」


「それは……幼馴染だからね。兄弟がそうであるように、姉妹がそのように付き合ってゆくように。きっと、そういうものなんだよ」


「そういうもの。羨ましいのか、そうでもないのか。フフ、そういう態度がきっと、や(・)き(・)も(・)き(・)させるのでしょうねぇ」


「……?」


「結構、結構。それでは、私とあなたの関係とは、如何様《いかよう》なものなのでございましょうね?」


「それは、『美しいほど棘の鋭利な華《はな》』と、『それに触れるに慎重を期する男の子』だ。『頼む、淑女たる慎《つつし》みをほんの僅か、花弁の見目《みめ》と同じようにそ(・)の(・)棘(・)が内に秘めていることを、期待する僕がどうか馬鹿でないでくれ』ってね、まるきり手放しで祈るように、考えることがある。そういうとき、なんだか自分が無力な幼子に思えて仕方がない時があるんだよ、僕は」


 フフ、どうしてか不快に感じないアルベルトの言葉。

 そ(・)の(・)棘(・)が内包していることを、期待する僕がどうか馬鹿でないでくれ、ね。――アルベルトは、『悪』の本質を、よくよく分かっているわ。



「――悪とは、全てを否定すること。また、全てを肯定すること。ただ、自身の美しさのために」



「僕は、まさに今、幼子のような無力を感じているよ」


 でも、肩を竦めるアルベルトの表情に緊迫は無くて、そこに彼の格の高さを見つけて、私はワインに口づけしながら微笑んだ。



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