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拝啓、勇者さま ~勇者と幼馴染の手紙の記録~  作者: 文月 ふな


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9 王国暦376年8の月4の週 ククへ

 ククへ。


 ククの周りにはそんなに貴族の方がたくさんいるのね! というより、王都にはそもそも貴族がたくさんいるからククの周りにも多いのかしら? それだけでもう私たちの村とは全く遠い世界の話みたいだわ。

 でもククの周りにいる貴族の方たちも良い人たちのようで良かったわ。「田舎モンの癖に勇者面しやがって」とかいじめられていたらどうしようと思っていたもの。私たちが田舎者であることは否定しないけれど、それとククが勇者であることは全く関係ないことなのに。でもどうやら完全な杞憂だったみたいね。


 あれからまた行商の人が王都の新聞を売りに来てくれたの。今回持ってきたのは最新の新聞ではなく、少し前に発行されたものらしいのだけど。そこに王女様のことが書かれていたのよ。第二王女のパトリシア様。今回ククと一緒に旅に出る聖女様よね。

 パトリシア様はとても美人で、天使のようにお優しい方だと書いてあったわ。まさしく聖女様そのものね。王族としての矜持がとても高い方だということは前回読んだ新聞に書かれていたけれど、それだけじゃなくて、美しさと慈悲深さも兼ね備えているなんて……本当に素晴らしい方! 憧れてしまうわ!

 いつか魔術師様と剣士様についてももっと細かい記事が書かれるのかしら。それなら楽しみ! 特にあなたにとても良くしてくれる魔術師様のことはぜひもっと知りたいわ! あ、でもその前にククのことが取り上げられて記事になるかもしれないわね! 村のみんなで楽しみに待ってるわ!


 それにしても魔術師様も騎士団の方も、貴族なのに戦いへ赴くかもしれない場所で働いているなんて、すごいわね。私は貴族というものに全く縁がないから、貴族はそんな風に危険と近しいところにはいないと思っていたの。でもそうじゃないのね。

 貴族の跡継ぎの話なんて私には全然思いつかなかった。跡継ぎは何人も必要ないから、他の兄弟が跡を継ぐと決まっていたら、それ以外の人は他の生き方を自分で見つけなければならないのね……。

 そういうところは私たちのような平民とそう変わらないのかもしれないわ。村の中にも、家の跡を継ぐ子とそうでない子がいるもの。跡を継がない子はよその家の婿になったり独立して新たな仕事を始めたり……。貴族の人たちとでは規模が違うでしょうけれど、根本の部分は私たちとあまり変わらないのかもしれないというのは、とても勉強になったわ。


 ふと思ったのだけど、もしかしてククもいつか貴族みたいになるのかしら? 勇者というのは、国の中でも希少で貴重な存在でしょう? 今は魔王討伐の準備でそれどころではないと思うけれど、無事に魔王を倒して王都に帰ったら、もしかしたらめちゃめちゃ位の高い貴族になっているかもしれないわよ? もしもそうなったらククはものすごく慌てそうね。


 ……なんて。想像するとちょっと面白いけれど、それと同じくらい寂しい気持ちになるわ。貴族になってしまったら、ククはもう村には戻って来ないかもしれないんじゃないかって。


 ああ、今はそんなことを考えても仕方ないわね。まずはククが無事に魔王を倒してくれることが何よりも大事だもの。ククが無事だったら、きっとおばさんたちも村のみんなも、それだけで充分だわ。もちろん私も。


 リリーより。

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