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拝啓、勇者さま ~勇者と幼馴染の手紙の記録~  作者: 文月 ふな


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10 王国暦376年9の月1の週 リリーへ

 リリーへ。


 俺が貴族になるなんて、俺自身が一番鳥肌ものだ。確かに魔王を倒したら何かしらの打診はあるかもしれないけど、俺が貴族なんて無理に決まってるだろ。安心しろ。


 王都に来てから新聞記者の取材を受けたことがあるけど、めちゃめちゃ気疲れしたんだ。ケインやパトリシアは慣れてるみたいだったが。やっぱり貴族や王族っていうのは、そういう対応にも慣れてるんだと感心したのを覚えてる。それと同時に、俺には絶対無理だなと思った。勇者の役目は俺にしかできないのかもしれないけど、貴族は俺である必要なんてない。適材適所ってやつだ。


 日常的に貴族や王族と接することはあるからだいぶ慣れてきたけど、俺だってまだ自分の環境を客観的に見るとまるで別次元みたいに感じるよ。人となりを知るとみんな良い人ばかりだけど、それに付随する貴族の義務だったり社交だったり、そういったものはやっぱり大変そうだし。だから俺も、俺の身近にいる貴族たちに対しては、できるだけ貴族というくくりではなく個人として見るようにしてる。その方が偏見なしで相手のことを知ることができると思うんだ。


 個人で見ると、パトリシアは新聞の内容とはだいぶ違うということは断言できると思う。”美人”というのは……まあ間違ってないと思うけど、”天使のように優しい”には異議を唱える。優しくないわけじゃないが、だいぶじゃじゃ馬だ。しょっちゅうアドリーと口喧嘩をしてるし。

 新聞は国民に対して王族や俺たち魔王討伐メンバーへ親しみを感じてもらう目的もあるから、だいぶ脚色されてるはずだ。特に今は魔王への恐怖から少しでも国民たちの心を癒すことを目的にしてる部分もあるから、なおさら脚色は強いと思う。


 最近、国内での魔物の発生が増えているらしい。王都では魔物に遭遇することなんてないけど、辺境では日に日に魔物への恐怖は近くに迫りつつあるんだ。新聞記事一つで恐怖がなくなるわけじゃないし魔物がいなくなるわけでもないけど、少しでも慰めになるなら、多少の脚色も必要なんだと思う。そうすれば、俺たちが行くまで希望を捨てずにいてくれるかもしれないから。




 まだ正確に日程が決まったわけじゃないけど、協議の結果、近々魔王討伐の旅が始まることが決まった。俺の訓練もある程度終わったし、何より、増えつつある魔物の発生をこれ以上広げるわけにはいかないから。

 まずは王都から近い、まだ魔物の発生が少ない地域から回って、少しずつ魔物が増えている地域に向かう予定だ。魔物といっても小型のものが多いから、心配しないで欲しい。と言ってもリリーは心配してしまうんだろうけど。

 たぶん一か月以内くらいには出発することになると思うけど、先に伝えておく。


 ククより。

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