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第七話 消された理由


 ずっと、引っかかっていた。




 最初に消えた女——お鈴。




 あの夜。


 隣で笑っていた、あの人。




 何も知らず、何も疑わず、ただ少しだけ怯えていた。




 それだけの、普通の女だった。




 なのに——




 消えた。




 理由もなく。


 痕跡もなく。




 だが、お雪はもう知っている。




 ここには、理由がある。




 見えないだけで、確かに存在する。




 ならば——




 探せば、見えるはずだ。




 その日、お雪は意識的に動いた。




 目立たず、騒がず、ただ観る。




 誰が、誰と話しているのか。


 どの言葉が、どこへ流れていくのか。




 すると。




 小さな違和感が、いくつも浮かび上がる。




 お鈴の名前は、誰も口にしない。




 それは、これまでと同じ。




 だが——




 “避けている”のではなく、“触れてはいけないもの”として扱われている。




 その違いに、お雪は気づいた。




 午後。




 水場で、二人の女が小声で話していた。




「……あの子、余計なこと言ったらしいわ」




「本当に?」




「ええ。見た人がいるって」




 お雪は、手を止めずに耳を澄ます。




「何を言ったの?」




「さあ……でも、“見た”って」




 その一言で、空気が変わる。




 見た。




 それは、この場所では——危険な言葉だ。




「何を……?」




「だから、それが分からないのよ」




 分からない。




 それでも、消えた。




 それが、すべて。




 女たちは、それ以上話さなかった。




 それで十分なのだ。




 お雪の中で、何かが繋がる。




 お鈴は——




 何かを見た。




 だから、消された。




 単純な話だ。




 だが、それだけではない。




 “見た”だけで、消されるのか?




 そこに、もう一つ何かがあるはずだ。




 夜。




 お雪は、あえて動いた。




 静まり返った廊下。




 足音を殺しながら、奥へと進む。




 普段は近づかない場所。




 人の気配が、少ない場所。




 そこに——




 “何か”がある気がした。




 やがて、一つの部屋の前で足が止まる。




 障子の向こうに、灯り。




 かすかに、声が聞こえる。




「……確認は?」




「問題ありません。処理済みです」




 聞き覚えのある声。




 あの、“上”の女。




「他に見た者は?」




「いません」




「そう」




 短い沈黙。




「では、あの件はこれで終わり」




 あの件。




 それが——お鈴のことだと、直感した。




 息を殺す。




 ここで音を立てれば、終わる。




 だが、耳を離せない。




「しかし……」




 別の声が続く。




「少し早すぎたのでは?」




「仕方ないわ」




 冷たい声。




「“見た”以上、残せない」




 その一言で、すべてが確定した。




 お鈴は——




 “見た”。




 だから、消された。




 それが、この場所の答え。




 あまりにも、簡単で。




 あまりにも、残酷な答え。




 足が震える。




 逃げなければ。




 そう思った瞬間。




 床が、わずかに鳴った。




 ——しまった。




 心臓が、跳ねる。




「……誰かいるの?」




 声が、こちらに向く。




 息が止まる。




 動けない。




 逃げ場もない。




 そのとき。




 背後から、手が伸びた。




 口を押さえられる。




 強く、引かれる。




 暗がりへ。




 音もなく。




 気づけば、別の廊下にいた。




 手が離れる。




 振り向くと——




 そこにいたのは、見知らぬ女だった。




 いや。




 見覚えがある。




 どこかで、見たことがある。




 だが、思い出せない。




「……死にたいの?」




 低い声。




 感情のない目。




 お雪は、何も言えなかった。




「見たら、終わりよ」




 その言葉が、胸に突き刺さる。




 まるで、お鈴の最期をなぞるかのように。




「どうして……助けたんですか……」




 やっと絞り出した声。




 女は、少しだけ目を細めた。




「……さあね」




 答えになっていない。




 だが、それ以上は語らない。




「忘れなさい」




 それだけ言って、女は背を向ける。




「今日のことも、あの子のことも」




 足音が遠ざかる。




 お雪は、その場に崩れそうになるのを堪えた。




 分かってしまった。




 お鈴は、理由なく消えたわけではない。




 “見てしまった”から。




 それだけで——




 命が消える。




 ここでは。




 知ることが、罪になる。




 見ることが、死に繋がる。




 お雪は、自分の手を見つめた。




 震えが、止まらない。




 もし、あのまま見つかっていたら——




 自分も、消えていた。




 誰の記憶にも残らず。




 何もなかったかのように。




 消される。




 その現実が、重くのしかかる。




 ここは——




 真実を知った者が、消える場所。




 ——大奥。




 理由を知った瞬間、終わる世界

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