第35話 無事を確認して
グラナートが巨大空母艦オリジンビリーブへと運ばれた。格納庫を抜けた特殊艦整備室へと。
破損したザフィーアは機器に繋がれ、整備員たちが修理作業に入っている。
研究員たちがデータを確認する中、ポラリスは検査を受けるために医療班に連れて行かれてしまった。
アルフィルクはグラナートに搭乗していたパイロットたちがどうなったのか気になった、無事なのかが。
特殊艦整備室とは、ミソロジアの大幅な破損の修復および、全体検査をするための場所だ。パイロットが普段から入るところではないので、行っても良いものかアルフィルクは悩む。
ザフィーアはグラナートがどういった状況なのか知りたいのではないか。それを理由にできないかと、アルフィルクは特殊艦整備室へと通じる通路を歩く。
突き当たりにある整備室の前には見張りだろう警護隊員が立っていた。これは無理かもしれないなと、アルフィルクが思いながら声をかけよとして、扉が開く。
無言で指をさす隊員にアルフィルクは入っていいのだとうと、室内へ足を踏み入れた。
いくつもの機器が設置されている中、グラナートは寝かされている。何本ものプラグに繋がれて、モニターに映し出されるデータを研究員たちが難しい顔をしながら確認していた。
熟練の整備員たちが修復作業を行う準備に目を向ければ、コックピットがゆっくり開く。
救護隊員たちがパイロットを運び出した。肩にかかる短い白金の髪がちらりと見えて、あれがパイロットのシリウスだろうと様子を窺う。
続くように調律者であり、異星の民ユーストゥスが抱き抱えられて担架に乗せられる。黒と紅のグラデーションの髪に幼い姿はフォルティアと似ていた。
彼らを眺めていれば、ふわりと白金と瑠璃のグラデーションの髪が視界に入る。
「ユーストゥスっ!」
フォルティアがユーストゥスの寝かされている担架へと駆け寄った。
ダイヤモンドを埋め込んだような瞳からぼろぼろと涙が溢れる。よかった、よかったと安堵した声に彼女がずっと不安を抱いていたのだとアルフィルクは知った。
ユーストゥスの頬に手を当てて温もりを感じ、フォルティアはやっと自分の涙を拭う。
今まで見たことが無かった姿だ。感情が読めない顔をずっとしていたから。
「フォルティアはずっと堪えていたんだ」
背後から声がして振り返れば、クリフトンが優しげな眼をフォルティアに向けていた。
フォルティアはずっと堪えていたのだ。共にこの地に降り立った、たった一人の同じ星の民を想って。
もっと早く気づいてあげられていたらならば。
あの子の優しさに助けられてしまった後悔が。
助けられなかったらどうしようか。
そういった不安を抱えていた。それでも表に出さなかったのは、周囲を心配させないためであり、指揮を下げるようなことはしたくなかったのだ。
「やっと、フォルティアは友と再会できた」
そういうクリフトンの声音は落ち着いたもので。けれど、冷たくはなく、温かなものだった。
ふと、母親のことをアルフィルクは思い出す、この世界の。愛しさを言葉に乗せてくれた、母を。
クリフトンの言葉は似ていた。それは彼の優しさからなるものなのだろう。
「アルフィルク」
ユーストゥスが医務室へと運ばれて、フォルティアが呼ぶ。彼女へと目を向ければ、涙に濡れた宝石の瞳が煌めいていた。
「ありがとう」
こういう時に言うのでしょう。フォルティアのお礼にアルフィルクは「そうだ」と笑って返す。
「俺だけじゃなくて、他の戦士たちにも言ってやれよ」
自分たちだけでは救出作戦は成功しなかったはずだ。そうアルフィルクが言えば、フォルティアは「えぇ」と頷く。
「ちゃんと、全員にお礼をいうわ」
みんなに感謝しているのだからと、フォルティアは微笑んだ。
フォルティアの返事にアルフィルクはそうしてくれと返して、クリフトンへ質問をした。
「パイロットとグラナートは大丈夫なのか?」
「グラナートもパイロット両名も無事だ」
グラナートには多少の精神障害があるが、オリジンビリーブと研究員たちのデータ修正で正常に戻るだろうと診断されている。
損傷した部分も整備員たちで修復が可能だ。シリウスとユーストゥスは治療を行えば、意識は戻っていくとクリフトンは答えた。
無事と知ってアルフィルクは安堵した。とはいえ、この後が問題だろうとも思う。
「この後だろ、問題は」
「……君の言う通りだ。ユーストゥスにはフォルティアがいるが、シリウスにはそういった相手がいない」
シリウスたちは被害者だ。頭では分かっていても、グラナートによって撃墜されたエクエス機はいる。
彼らの同志たちが、少なからず感情をぶつけてしまう可能性があった。
洗脳の被害者であっても、悲しみを怒りをぶつけたくなってしまう人間の感情をアルフィルクは理解できてしまう。
でも、シリウスたちの苦しみも理解しなくてはいけない。頭では分かっていても、心の整理には時間が必要だ。
(おっさん……)
スーザリオのことを思い出す。自分を守って戦死した彼のことを。
恨みたくなる気持ちがないと言えば、嘘になる。けれど、きっとスーザリオはそれを望んではいない。
「おっさんはきっと恨んだら叱ってってくるんだろうな」
後悔するぐらいならば、その想いをぶつけてやれ。そう言ったスーザリオならば、恨むぐらいならばと叱ってくるのではないか。
アルフィルクの言葉にクリフトンは目を伏せてから頷いた。
「彼は恨んだりするような人間ではなかったからな。部下たちもそれを分かっていると思う」
「全ての人間がってわけじゃねぇのは分かってる。誰かが支えてやることが大事なんだろ」
「……君は話が早いね。同じ巻き込まれた被害者だからだろうか」
この戦いに巻き込まれたアルフィルクと、洗脳されたシリウスは似ているのかもしれない。
アルフィルクはそんなこと言うクリフトンに、なんとも呆れた表情をしてみせた。
「分かっているならちゃんとしろよ」
「申し訳ない。そうだな、しっかりと対処しよう」
変化というのにクリフトンも気づいている。アルフィルクは覚悟を決めたということに。
アルフィルクは口にはしない。無事ならいいと言って整備室の扉へと歩んで、フォルティアに「ねぇ」と止められる。
「アルフィルク、また一つお願いしてもいいかしら?」
「断ってもやらされるんだろうが」
アルフィルクは片眉を下げた顔をフォルティアに向けた。
「それなら言われなくてもやってやるよ」
どうせ、断れないのだから。アルフィルクの返事にフォルティアが目を瞬かせて、頷いた。




