第33話 作戦決行の朝
早朝四時、作戦決行時間まであと一時間。アルフィルクはパイロットスーツに着替えて格納庫にいた。
ザフィーアの側では最終チェックが行われているせいか、整備員や研究員たちが慌ただしく行き交う。
ポラリスも精神リンクの調整で器具が繋がれているので、アルフィルクはザフィーアの足元に腰を下ろしてその光景を眺める。
『アルフィルク、体調は大丈夫だろうか?』
「あぁ、大丈夫だ」
ザフィーアの声が上から降ってきてアルフィルクは目を向けた。最終チェック中であっても起きている状態なので、彼は会話をすることができる。
ザフィーアにも緊張というのはあるようだ。何か会話をすることで落ち着けようとしているような、そんな雰囲気を感じた。
機械生命体とはいえ、人間と同じ感情を持ち合わせているのだから、緊張もするだろう。アルフィルクは納得しながら立ち上がってザフィーアを見上げた。
「お前の調子は良さそうだな」
『あぁ。最終調整が終わればいつでも動ける。が……』
「大丈夫だ」
言葉を迷わせるザフィーアにアルフィルクは言う、大丈夫だと。不安を抱いている、そう感じたから。
変わったと、思う。少し前までは現状に嫌悪し、苦しんでいた。けれど、自分は教わったのだ。アルフィルクは言った。
「みんなを信じろ」
ザフィーアはアルフィルクの心情を察したように頷いた。自分は一人ではないのだと。
『私が不安を抱いていては、戦ってくれた戦士たちに申し訳ないな。スーザリオに叱られてしまう』
「そうだ。あのおっさんはこういう時は叱ってくるからな」
俺だって叱られたもんだと、アルフィルクは少し前の事を思い出した。
後悔なんてするなと言われた時の事を。そうだ、スーザリオならば、きっと「不安は誰だって抱くものだ」と言ってくれるだろう。
「やってやろうじゃねぇか」
『あぁ、やってやろう。私は必ず、グラナートたちを救ってみせる』
彼らを闇底から救い出そう、ザフィーアの言葉にアルフィルクは拳を握ってみせた。
突き出さされる拳にザフィーアは首を傾げる。そんな彼にアルフィルクは「こういう時は拳を重ねるんだよ」と教えてやった。
「喜びの時も、決意を示す時も、気合を入れる時も。拳を重ねて誓い合うんだ」
『なるほど。そういった文化というのが人間には存在するのだな』
納得したようにザフィーアは膝をついて屈みながらそっと拳を付けた。
決意を分かち合う。例え、姿形が違えども、その想いは一つだと、アルフィルクはそう実感した。
「いいな、ワタシもやりたい」
拳を下ろして振り返れば、ぷくっと頬を膨らませたポラリスが立っていた。いいな、いいなと近寄ってくる。
どうやら、調律の最終チェックは終わったようだ。少し離れたところにいるタツノリが両手で大きな丸を作ってる。
それは問題がなかったという意味。ポラリスもザフィーアも万全の状態ということだ。
ほっと安堵した。アルフィルクは小さく息をついてから、「お前もやればいいだろ」と拳を突き出してみせた。
ポラリスは小さな手を握り、アルフィルクの拳に重ねる。
「大丈夫。ワタシとザフィーア、みんながついているから」
はっきりと紡がれる言葉にアルフィルクは頷く。ザフィーアも拳をそっと重ねる。人間よりも大きな拳を優しく。
『これより、作戦を開始します。各部隊配置に――』
出撃のサイレンが鳴る。艦内に響くオペレーターの指示に格納庫にいたエクエス機のパイロットたちが駆けていく。
アルフィルクは首にかけた星のペンダントに触れる。スーザリオがくれたお守りを見つめてから、ぎゅっと握りしめた。
「いくぞ」
アルフィルクは前を向く、ポラリスはその隣を歩いた。




