第32話 作戦計画
新月の夜だ。午後二十時二十八分、アルフィルクは司令部室に呼び出された。食事を終えたばかりで急な招集にアルフィルクは眉を寄せるも、もう慣れてしまっている。
ポラリスに連れられて司令部室に入れば、第一戦隊から第五戦隊までの部隊長および副隊長が集まっていた。彼らがいるということは、出撃だ。
アルフィルクがクリフトンの前に立てば、彼は真剣な表情を向けてくる。いつもの出撃と違った雰囲気に何かあったのだと察した。
「重要な任務の決行が決まったので、全隊の部隊長および副隊長、ミソロジアパイロットを招集した。それは……」
クリフトンは一つ深い呼吸をして言う。
「グラナートおよびシリウス・ユーストゥスの救出作戦を決行する」
空気が変わった。肌に感じるぴりぴりとした雰囲気にアルフィルクは黙って話を聞く。
緊張した空気にクリフトンは「落ち着いて聞いてほしい」と前置きをして作戦の概要を説明し始めた。
「グラナートの動きが先ほど、観測された。複数機のアポストロスを引き連れてリュウグウ国南沖トリウミ島へと向かっている」
リュウグウ国及び同盟国の調査機によって、グラナートがトライアングル海域から出現したことが観測された。
複数機のアポストロスを引き連れていることから、新たな襲撃が行われると予測されている。
報告が上がり、程なくしてグラナートたちの洗脳解析が終わったのだとクリフトンは話す。
オリジンビリーブと解析班によって彼らの洗脳を解く環境が整った。グラナートが新たに動き出した今、救出作戦を行うべきだと。
「戦闘の場所はトリウミ島だ。この島は今は無人であり、ここを拠点としてグラナートは、リュウグウ国に攻撃を仕掛けるつもりなのだろう」
「暴れ回ったとしても、問題ないっていうことか」
アルフィルクの呟きにクリフトンは頷いた。ここならば、周囲を気にする必要はない。
クリフトンの返答にアルフィルクはグラナートにどれほど抵抗されても、全力は出せそうだと考える。
(アポストロスは第二、第三戦隊が引き付けるのが今までのやり方だが……複数機となると、第一戦隊もそっちにいったほうがいい、か)
グラナートとは一騎打ちのほうが良いのではないか。また逃げられてはせっかくの好機を失ってしまう。
今までの戦闘を思い返せば、グラナートを逃がすためにアポストルスは動いていたのだ。
ザフィーアならば拘束具を持っているため、一時的とはいえ動きを抑えることができる。
ここで邪魔が入ると、そこまで考えて扉の開く音がした。目線を上げれば、タツノリがフォルティアと共に室内へと入ってくる。
「全データ調整、修正込みで完了した。オリジンビリーブも洗脳解除の調律を終えているから、ばっちりだ」
タツノリが説明に入る。洗脳解除にはオリジンビリーブが必須なのだという。彼女から発せられる超音波によって、フィーニスコアが植え付けた種を破壊するのだ。
歌声を放つには起動に五分かかる。そのため、五分間グラナートと攻防しなくてはならず、発動時には拘束しなくてはならない。
なんと、難しいことだろうか。アルフィルクは思わず眉を寄せてしまった。
「第一から第三までのエクエス機にはアポストルスの相手をしてもらい、グラナートに一機たりとも近づけないようにしてもらわなければならない」
「だろうな。アポストロスが逃がすために動かれたら終わりだ」
「アルフィルクの言う通りだ。ただ、ザフィーア単騎での戦いとなってしまう」
本来ならば、第四、第五戦隊を出すべき任務だ。彼らは避難や護衛を中心とした役割を持っている。
クリフトンは「オリジンビリーブの動きに反応してくるはずだ」と、予測を立てた。
「第四、第五戦隊にはオリジンビリーブの援護及び護衛を担当してもらう。妨害が飛んでくることは予測しておかねばならない」
オリジンビリーブの動きにフィーニスコアが気づかないとは限らない。それはアポストルスも同じだ、妨害をしてくることは想像ができた。
ザフィーア単騎の戦いを強いることになる。クリフトンは「負担をかけてしまう」と、目を伏せた。
「ミソロジアの相手はミソロジアしかできねぇだろ」
アルフィルクの言葉にクリフトンの眼が少しばかり開いた。驚いたのだろう、きっと。
今まで以上に厳しい条件を強いているというのに、文句を言われなかったことが。
文句がないわけではなかった。けれど、自分にしかできないことであるのも理解できたのだ、アルフィルクは。それに――
「俺が逃げたらスーザリオたちにどう顔を向けろってんだ」
覚悟は決まっていた。たった一言でそれは伝わったようで、クリフトンはそうかと小さく頷く。
「正確な時間を教えてくれ。俺たちは何分、グラナートの相手をすればいい?」
「五分三十秒だ。五分後、三十秒間はグラナートを拘束していてほしい」
オリジンビリーブの歌声は三十秒間続く。この間、拘束をしてもらわねばならないのだとタツノリが説明した。
歌声が伝われば、グラナートの動きが変わってくるはずだと。
「ザフィーアの拘束具に強化を施した。これで三十秒間なら耐久できるだずだ」
「鎖で拘束して、押さえつけて三十秒間ならってことか」
「話が早くて助かる。洗脳解除をしたら、救護班を投入して、パイロットたちを救出する流れだ」
五分三十秒。これならば、やれなくはない、アルフィルクは今までの戦いで感覚が分かっていた。
問題は三十秒間の拘束だ。ただ、戦うだけでなく、相手の動きを封じなくてはいけない。
一度でも邪魔が入れば、失敗する。不安が一瞬、過ったけれど、「安心しろ」と声がした。
「王子、安心しろ。オレたちが全力であいつらを抑え込んでやる」
「一機たりとも近づかせないから、全力でグラナートを相手してくれ」
仏頂面の壮年の男、第一戦隊の新たな部隊長で元副隊長のアーノルドがそういえば、それに続くように他の部隊長も声を上げる。
皆が皆、覚悟を決めた声をかけてくれた。自分は一人ではないのだと、アルフィルクは拳をぎゅっと握る。
「グラナートは任せてくれ」
不安を拭い去るようにアルフィルクは返事を返した。
「アルフィルク」
優しい声がして、アルフィルクは目を向ける。フォルティアのダイヤモンドを埋め込んだような瞳と目線がかち合う。
「ありがとう」
無理強いをしたというのに戦ってくれて。厳しいことを強いてしまって、ごめんなさい、その全てが籠められた言葉にアルフィルクは片眉を下げながら腕を腰に当てた。
「そういうのは、グラナートたちの救出に成功してから言ってくれ」
「……そうね、そうするわ」
この星の民たちって難しいわねとフォルティアは微笑んだ。




